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生まれも育ちも 9

気持ちがあまりにもよくて、「いい、」と気がついたら声が出ていた。「東城さん、すごく、」 東城が広瀬のため息のような声に気づいたのだろう、うれしそうに喉をならした。 「おれも」と彼の声が広瀬の胸についた唇から震えのように伝わってきた。その感触さえもここちいい。 東城に性器を丁寧になめられて広瀬は快感に身をふるわせた。 達する前に口がはなれ、今度は、胸の粒に舌をおとされた。そうしながら東城はジェルを広瀬の秘所にたらし、指をなじませてきた。丁寧に慎重に広瀬の快感を大事にしながら、彼がひらいてくる。 その時点でもかなり気持ちがよく、なんどもいきそうになった。 だが、我慢すると快楽もその分深い。広瀬は東城が自分に入ってくるよう腰を揺らしてた。 身体と頭の中には快感の回路があって、一回つながるとどこにふれても感じるようになるようだ。背中のくぼみや肩、指先が、今は触れられるとじんじんして全身が感じるようになっている。 さんざんじらして欲しがらせたあと、東城が広瀬の腰をもちあげて当たり前のように入ってきた。 ゆっくりとゆさぶられながら、広瀬は小さい快楽の声を何度ももらした。 東城が自分のなかに入りこんでいる。全身が満たされていた。広瀬は抱きかかえられ、身体だけでなく、なにもかもを彼に預けきっていた。 頭からつま先まで溶けて、東城の肌と一体になって、自分という身体がどこかにいってしまいそうだ。 揺れていて、ぐっと、東城の手に力がはいった。身体の奥で東城がドクドクと動くのが感じられる。広瀬も、彼をつつんでいた東城の手の中に吐き出した。 しばらくして、そっと東城は広瀬を横たわらせながら身体をひいた。 ずるっと東城のものがでていくと、広瀬は軽く身震いした。 東城は自分のものから手早くゴムをはずして、ティッシュとともにポイっとベッドサイトのゴミ箱に捨て、さらにティッシュをとると広瀬の身体を拭いてくれた。 「もう一回シャワー浴びるか?」と拭きながら聞いてくる。 広瀬はぐったりして首を横に振る。「明日」と答えた。かなり眠い。身体は重いが満足感のある疲れだ。 東城は、夏掛けの布団を広瀬にかけてくれる。身体のあちこちの拭ききれない汚れが布団につく。シーツを洗濯しなければと思ったとき、あ、っと思った。広瀬が急に起き上がったので東城はびっくりしている。 「どうした?やっぱ、シャワー浴びるのか?」 広瀬は首を振り、ゴミ箱を指差す。「寝室のゴミはどうしてるんですか?」 「は?」 「誰が、片付けてるんですか?」 東城は、心底いやそうな顔をした。「だから、石田さんの話するの、嫌だったんだ、俺は」 「石田さんが、片付けてるんですか?」やや声を荒げてしまう。 東城は、広瀬に背をむけて横になった。返事をしないので、広瀬は東城の肩をゆさぶる。 「なんだよ」東城は、ジロっとこちらをむいた。彼が言うとおりだ。石田さんが何をどこまでやっているのか、広瀬は気になり、とまらなくなる。 「だから、寝室の」 「お前が片付けてないんなら、石田さんが片付けてくれてるんだろう」俺はしないから、と東城は投げやりに言った。 広瀬は、ベッドの脇にあるゴミ箱を見る。ティッシュの山と無造作に捨てた東城の使い終わったコンドームが見える。今日は1つだけだが、日によっては数個というときもある。セックスの回数を知られているのだ。 広瀬は恥ずかしくていたたまれなくなる。 「女性に、こんなもの片付けさせるなんて」 「女性ったって、石田さん、もう年だし、ああ、わかったわかった。年は関係ないな。あのな、広瀬。石田さん、俺が小学校に上がる前から知ってて、かわいがってもらってるんだ。部屋の掃除でもなんでもちょくちょく手伝ってくれて、中学高校の頃とか、そういうお年頃の頃のもっとやばいものいっぱい見てるから、この程度のゴミ、なんとも思わないよ」 広瀬は、布団を見る。「洗濯は?」 以前、2人して喧嘩のようなセックスになったことがあった。あのときのドロドロになったシーツは、どうしたんだろうか。 東城も、そのときのことを思い出したらしい。「あのときは、俺が洗って片付けた。血が、ちょっとついてたから、呼び出されると面倒なんでな」 「呼び出される?」 東城は、しまった、という顔をするがすぐに取り繕い、また、横になった。「もう、石田さんの話は終わりだ。何時だと思ってるんだ」時計を示される。「早く寝ろよ」。広瀬に手をのばして、力ずくで横にしようとする。 広瀬はその動作には素直に従い、東城の肩に顔をのせ、密着して横になった。だが質問は続ける。 「呼び出されるってなんですか?誰が、誰に?」疑問は解消されないと落ち着かない。 東城は、しつこく耳元で聞かれ、ついに折れた。 「岩居のおばに呼び出されたんだよ。ずいぶん前に。ちょっとした遊びで、女の子もノリのいい子で、その、まあ、所謂大人のおもちゃを色々買って、遊んでたんだ。楽しむ範囲でだぜ。無理なことは絶対にしてない。いくつか片付け忘れてたら石田さんにみつかって、岩居のおばにいいつけられたんだ」 広瀬はあきれる。それでは女の子が石田さんについてもめるはずだ。 「岩居のおばは産婦人科医だから。俺、千葉のおばさんの病院に呼び出されて、2時間くらい安全な性行為について説教されて、女の子の身体の構造とか、そんな道具使わなくて楽しめる方法とか、かなり具体的に説明されて、あの時は石田さん恨んだぜ」 そこまで聞いて、広瀬は笑い始めてしまった。 怖そうなおばが性行為についての詳細な話をするのを、しおらしく聞いている東城を想像するとこらえきれなかったのだ。 東城は、笑う広瀬を見る。「機嫌なおったな」そして、彼の身体をなでた。「もう寝ろよ。明日は定時なんだろう」東城もかなり眠そうだ。 明日、朝一番にゴミを片付け、シーツも自分で洗おう、と広瀬は決心し、東城に身体をなでてもらいながら目を閉じた。

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