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生まれも育ちも 10

数日後、帰りがけに東城がから連絡がきていた。今日は夕飯は家にあるから、というメッセージだ。早めにあがったのだろう、自宅からの連絡だった。 広瀬が帰ると、灯りがついている。この前美音子がいたショックから完全には復活していないので、つい、意外な来訪者がいないか靴をみてしまう。東城の靴の他はなかった。 中に入るとリビングで東城が本を読んでいた。最近、時間があればテレビもつけず勉強している。朝も早朝から起きてマンションのジムで鍛えながらも勉強しているようだ。 広瀬が帰ったのに気づくと東城はすぐに顔をあげ、本をとじた。「おかえり」と言ってくる。 広瀬はダイニングテーブルをみた。そこには、皿が並べられている。が、特に食事らしきものはない。東城が買ってきたんじゃないのか?と思った。 「冷蔵庫に入ってる」広瀬の懸念が伝わったのだろう、東城がこちらに歩いてきながら言う。 広瀬は冷蔵庫の大きな扉をあけた。そして、息をのんだ。 いつもは、ビールと水くらいしか入っていない立派な冷蔵庫の中に、テレビCMにでてきそうなくらい食品が並んでいたのだ。 プラスチックのコンテナがぎっしりとならび、高級そうななんとか焼きの器に野菜と鶏肉の煮物が入っていた。いつも何のためにあるんだろうと思っていた冷蔵庫の引き出しの中には、ローストビーフが皿の上に美しく盛り付けられラップがかかっている。コンテナの一つをあけるとかぼちゃの煮物がはいっている。つやつやしたオレンジ色がきれいだ。もう一つあけるとそこにはサーモンと野菜のマリネが入っていた。全部、手作りだ。 広瀬は自分の後ろに立って肩越しに冷蔵庫を覗き込んでいる東城を見上げた。 「冷凍庫も」と彼は言った。 コンビニで買った氷以外みたことがない冷凍庫。あけると、そこにもコンテナやラップにつつまれた食材が並んでいた。ご飯も冷凍してあるのには驚いた。 「どうやって?」と広瀬は聞いた。 「炊飯器、奥からだしたんだろう」と東城はトンチンカンな回答をしてきた。 「そうじゃなくて、これ、この料理、どうしたんですか?」 「石田さんが作ってくれた、らしい」と東城は言った。「温めててやるから、風呂入ってきたら?」 広瀬はうなずいた。そして、指示通り浴室に向かった。

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