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9.明け方に
先に目が覚めたのはレイヴンの方だった。肌寒いと思い目が覚めたのだが身体を動かすのが億劫で、
もぞもぞとしていると自分が抱き込まれているのが分かる。
「……諦めてオッケーしちゃったけど、あそこまでガチでするとは思わなかった。
途中からウロ覚えだけど、とりあえず……死にそう……」
色んな意味で…と呟き、テオドールの拘束から抜け出そうとするが、思いの外、力が強くて抜け出せない。
抱き枕代わりのように、ガッシリと抑え込まれているようだ。背中からテオドールの体温と男らしい肌質を感じて、気恥ずかしくなったので色々ともがいていると、更に力強く抱き込まれた。
「ちょっ…そうじゃなくて、放してほし……」
「っせぇなぁ…まだねみぃんだよ。子猫は子猫らしく、抱かれとけ」
「…誰が子猫ですか。今、何時だろ……うぅ…なんかベタベタするし、お腹空いたし…」
「お前ホント普段は色気ゼロだわ。ヤッた後、気を失ってたからまだ朝じゃねぇよ」
「嘘付き。4時くらいでしょう?あぁ…この後どうしよう。服、グシャグシャだし。片付けるのどうせ俺だし
疲れて魔法使う気にならないし、でも洗濯も面倒だし……」
「ぁー。今日休みなんだろ?ならいいじゃねぇか。もう少し寝てからで。煩いヤツだな」
「師匠は良くても俺は良くな……んっ」
煩いレイヴンの口を閉じるために、レイヴンの身体を自分の方へと無理矢理に向けさせると、
頬を両手で挟んで、無理矢理に口づける。今回は抵抗するものの、身体は昨日の余韻で思うように力が入らないらしく、舌で突いてやると、クッタリとして大人しくなってしまった。
「……おっまえ、キスに弱すぎ。まぁ、気持ちいいけどよ?にしても弱すぎ」
「…っるさい。師匠とキスすると、煙草の味がするから、嫌なのに……」
「嫌なのに?」
テオドールが意地悪く言葉を続けると、レイヴンはムッとした表情を隠すことなく向ける。余裕の表情で揶揄ってくるいつものテオドールを見ていると、子どもじみた反抗心でつい言い返したくなる。
「…そういうところが嫌いなんです。俺は恋人でも何でもないんですから、放っておいてください。師匠なら師匠らしく、毅然とした態度でいてくださいよ」
「恋人じゃねぇけど、レイちゃんのことは可愛がってるじゃねぇか。俺の腕の中でニャアニャア言ってるし?まぁ、もう既成事実作っちまったから何でもアリだろ」
「誰がにゃんこだよ…俺じゃなくたって、抱きたくなったら誰でも抱くでしょうに。そうやって騙された人が何人いるのか……って。はぁっ?何でもって?」
師匠の何でも発言に噛み付いてくる弟子に軽く笑ってから、レイヴンの額を突く。
不満げな表情を隠そうともしないレイヴンは、つい先程とはうって変わっていつもの子どもじみた態度だ。
「レイちゃんだって、抱かれてもいいくらいは俺のこと好きだろ?何やかんやで俺の後にくっついて回ってるじゃねぇか。それって師匠と弟子だからか?」
「……そうですよ。放っておくと他の人が被害を受けるから、事前に防ごうとしてるんじゃないですか。分かりませんか?」
テオドールの言葉に苦虫を噛み潰した表情を見せるレイヴンを見ると、わかり易すぎてテオドールの方が笑ってしまった。子どものように反抗するが、レイヴンだってテオドールだから身体を許したことは分かりきっていたからだ。それくらい、信用している。というのが正しいのかもしれないが。レイヴンは溜息を吐くと、諦めた口調で言葉を続ける。
「……コレだから嫌いなのに。人の心を読まないでくださいよ。……師匠のこと、愛してはいませんけどね。本当に嫌いな人に嫌いって言う人、いませんよ。いや、いるかも?」
「ホント訳わかんねぇなぁ。まぁ、いいや。もう一眠りしたら、風呂まで連れてってやるからよ。後なんだ?服ねぇ……
何か探せばあるかもしれねぇわ。下着までは知らねぇけどな」
いつも通りの適当なテオドールに戻った様子を見て、レイヴンもいつも通りため息混じりで言葉を零す。
「……もう、今回だけですよ?もう少しだけ、付き合ってあげますから。そうしたら…」
「まぁまぁ。硬いこと言わずに。また愉しもうぜ?俺はお前のこと気に入ってるんだし」
「ペット扱いするの、やめてくださいよ。これだから、外で俺が白い目で見られるんだよ…顔で弟子の座を取ったとか
なんとか……」
「んなの、言わせておけばいいだろうが。大体顔だけじゃ俺の弟子なんて務まるわけねぇだろ。実力があるから側に置いてんだからよ」
ニヤニヤ顔のテオドールが、レイヴンの頬を撫でて流れるように何度目かのキスをすると、観念したレイヴンが溜息混じりにテオドールの胸に顔を預けた。
「はぁ……俺、誰でも良い訳じゃないですから。何となく…人肌恋しくなっただけですから。それが、たまたま。
たまたま…師匠だっただけで。俺、ホントどうしちゃったんだろう…大丈夫かな色々……」
「今更だよなァ?別にー。んなこと、わぁってるよ。子猫は気まぐれだからいいんじゃねぇの?俺は満足したからいいや」
「……これで満足してないって言ったら、本気で師匠を落とすところでしたよ。俺、そんなに魅力ないですか?って。
これでも…綺麗な顔してるし?初めてなのに反応良かったでしょ?」
「……バーカ。最後の方だけだろ。このお子様が。ったく、どこまでも可愛くねぇ」
「はいはい。冗談ですから。師匠も俺と遊んでないで、良い人見つけてくださいね」
「あのなぁ……。まぁ、いいか。少しずつ分からせてやれば」
レイヴンの笑った顔は普通に綺麗な笑顔で、やっぱり顔がイイのは反則だろ。と舌打ちするテオドールだった。
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