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17.再びの魔獣討伐
次の日、アレーシュ王国の主な職に着くものたちが集まり、王を中心とした魔獣討伐の為の対策会議が始まっていた。魔塔と騎士団も例外ではなく、レイヴンも前回の討伐を指揮した者の1人として、出席することになっていた。
騎士団も団長及び副団長たちが顔を揃え、文官たちも合わせ、かなりの人数が集まっていた。最近魔獣が出没することが増えてきており、国としても放っておけない問題になりつつあったためだ。
「以前討伐した魔獣の生き残りと報告を受けたが、間違いないか?」
威厳を帯びた声色で話しているのが、この国を治める国王、エルミュートス3世だ。
1代前の王は国の統治よりも、権力を振りかざし、肉欲に溺れる自堕落な王と化していた。
そこで、王族の血筋の中でも、文武両道の力を身に着けたエルミュートスが、
テオドールとディートリッヒを味方につけ、力及び、優秀な文官の内からの力を借りて、王をその座から引きずり下ろし、自分が変わりにその座に着いた。
テオドールたちとも5歳ほどしか年も変わらず、まだ若いがここ数年で乱れた法を少しずつ改正していくなど、この国の平和と安らぎを導いた若き賢王、と呼ばれている。
「はい、間違いありません。以前討伐したのが魔獣の雄だったのですが、どうやら番だったようで。現在西の森に現れたとの報告を受けております」
「レイヴン、前回の魔獣は獣型だったな?」
「はい。ブラックウルフです。ウルフと言えど、通常よりも大型だったため、前回も討伐に成功はしたものの、幾人かの負傷者が出ております」
前回の討伐のことを改めて思い出したレイヴンだが、この場では淡々と事実だけを述べる。側にいるテオドールだけが、目線で気にするなと伝えているのが分かり、
同じく目線で大丈夫だ、と返す。
「ふむ……今回も同種と見て良さそうか?」
「ほぼ間違いないかと。雌は子がいる場合、子を守ろうとさらに凶暴化するとは言われていますが、単体であればそこまでの驚異ではありません。ただし、前回のことを踏まえ、備えはするべきです」
「神殿側としては、聖女様をはじめ、教皇様たちも祭典準備がありまして。討伐に行くことができる人材がほぼおりません。簡単な治療のできる神官が数人程度かと」
神殿は聖女と呼ばれる、浄化と癒やしの聖なる力である、奇跡の力と呼ばれる力を持つ人物を筆頭に、治癒に特化している神官たちがいる施設で、国の重要な祭事は教皇が取り仕切るが、
今回控えているのは、1代目聖女が力を授かったという女神を祀る祭典であるために神殿側としてはできるだけ人材を派遣したくないという意思表示だった。
テオドールは不遜な表情を神殿側へと向けるが、本日の会議でさえ代理しか出席していないために、神殿側はそれ以上何も言わずにだんまりを決め込む。
「報告通りの魔獣1匹って言うなら、魔塔はレイヴンと数人で事足りるだろ。今回はその代わり戦闘に慣れてるヤツに行かせる。前回は修行も兼ねてたが、外での訓練はウルフだと残念ながら厳しかったみてぇだからな」
「同じく、騎士団もウルガーを含む、他数名の騎士を派遣致します。総指揮はレイヴンが良いかと」
魔塔主と騎士団長の言葉に、国王も同意の頷きを示し、あいわかった、と述べる。
国王から正式に任命され、レイヴンは再度討伐に赴くことになり、会議は終了した。
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「ったく、神殿のヤツら。面倒事はコッチにやらせようって魂胆だろ。どうせあのババアは暇してんだからよー。いつも張り切ってんのは食えねぇ教皇のジジイだけじゃねぇか」
「……師匠、ここ、まだ王宮内ですから。それに、聖女様と教皇様を侮辱して天罰が下ってもしりませんからね」
魔塔への帰り道、分かりやすく悪態をつくテオドールを溜息混じりで宥めながら。レイヴンは内心緊張していた。頻発している魔獣問題は、最初は町民たちが襲われたこともあり、テオドールが出向いて、魔獣ごと森の3分の1ほどを吹き飛ばしたことから始まり、これまでも何匹か出現している。ウルフであったり、ゴブリンであったりと、そこまで大型種ではないのが幸いだが、どこから現れているのか調査中だった。
城下町は守りも鉄壁であり、被害が出ていないためこの街の民はあまり恐怖を感じることはないかもしれないが、城壁外の村々はまだ統治の及ばぬ地域もある。
戦争が起こっていないにせよ、城の外はまだまだ問題も起こりうる。
「全くだ。ただ、テオドールの言いたいことも分かる。我々のことを戦うことしか能が無いなどと思う輩もいるのは事実だ。騎士団とて国自体の防衛も仕事の1つであると言うのに。どうも神殿は女神様を讃えることに夢中なようだな」
「それこそ、こっちが大怪我したら真夜中だろうがなんだろうが、神殿に押しかけてやればいいんですよ。回復薬だけじゃ足りないぞーって。ま、回復薬は全部神殿持ちで準備させてやりましょう。どうせ派遣する神官ちゃんたちは、回復 くらいしか使えないだろうし。解毒 は期待できないでしょうね」
ディートリッヒとウルガーも神殿にはあまり良いイメージを持っていないのか、どこか辛口な言い回しだ。仕方なくレイヴンが苦笑しながら、まあまあ、と皆を執り成しておく。
「回復 があるだけでも楽ですよ。回復薬を飲む余裕があるとは限りませんから」
「面倒臭ぇから、全部吹き飛ばしちまえばいいんだよなァ。どうせ山から湧いてきてんだろ、魔獣なんてもんはな。圧倒的な力でねじ伏せれば大人しくなるだろ」
「師匠、師匠のせいで地形が変わって大変だって泣きつかれるのは俺なんですから。その度に魔塔の予算が減らされるんですよ?魔法をぶっ放せば解決な訳じゃありません」
「お前がそんなだから、魔塔主はキングオークだのと噂されているのだろう?レイヴンを少しは見習え」
ディートリッヒがいつものことだと分かってはいるものの、苦言を呈するとテオドールは馬鹿にしたように両肩を竦める。
「どうせなら、ドラゴンとか言って欲しいもんだな。俺への規模が小さすぎんだよ。お前ですら獅子だろ?ソイツよりはデカくねぇとつまんねぇ。せめてなんか魔族とか大悪魔とか、なんかもっと欲しいだろ。イケてる二つ名がよ」
「師匠……。そんなんだから獣扱いしかされないんですよ。魔法使いなら、もう少し頭の良さそうなものに例えられてください。というか、俺は二つ名はいらない派ですから」
ちょっとだけ寂しそうな表情をするディートリッヒの肩をポンポンとウルガーが叩いてそっと慰める。そんなくだらないやり取りと文句を言いながらも、何となく討伐に向けての連携もきちんと確認し。王宮内でディートリッヒたちと別れ、テオドールとレイヴンたちも討伐へ向けての本格的な準備をすることになった。
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