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18.西の森へ

魔獣討伐当日、レイヴンやウルガーを始め、魔法使い、騎士、神官たちが隊を組み、討伐へ出発することとなった。隊の規模もそこまで大人数ではなく、合わせて10名程度の小規模隊となった。中でも神官は2名と少なく、魔法使いと騎士の連携が試される討伐になりそうだった。 西の森は城からもそこまで距離も遠くないが、昼間でもあまり日の差さない薄暗い森だ。 森に辿り着くと、開けた場所に結界を張ってまずは魔獣の位置を探っていく。騎士たちがテントなどを準備している間に、魔法使いたちが結界の仕上げをしながら魔獣の位置を突き止める。 「レイヴン様、捜索(サーチ)に反応が見られました」 「よし、距離は……近いな。見られる反応も……今のところは1匹のみだ。報告通りのブラックウルフで間違いなさそうだな。休息後、準備を整えて討伐に向かう。騎士と神官に連絡を」 「畏まりました」 魔法使いの1人に指示を出し、騎士と神官を含む全員を集めて魔獣との距離と討伐についての作戦事項を伝えていく。 基本隊列は騎士、魔法使いの並びで、魔法使いが保護魔法の防御(プロテクション)及び 強化魔法の強化(ブースト)を使用。同時に遠距離魔法で援護していくという流れだ。 神官たちは基本は待機で、怪我を負ってしまった者への補佐として、回復(ヒール)及び回復薬の支給と使用を行っていき、戦闘には加わらない。 「魔法使いは攻撃と補助の2隊、騎士たちの援護を第一に行動。騎士の皆さんは副団長の指示に従い、各々攻撃を。私も攻撃と補助で援護に回ります。神官の皆さんは基本は結界内で待機してください。負傷者が出た場合はそちらへ送ります」 「了解。ウルガー隊は先制で魔獣に切り込む。補助は全面的にレイヴンに任せる」 「全面的にって……以上、準備が整い次第、出発する」 レイヴンはウルガーに軽いツッコミを入れ、多少緊張が和らいだところで、改めて魔法使いたちにも細かい指示を説明していき、いよいよ討伐へと出発する。 拠点の結界内に神官たちと守備の者1名を残し、レイヴンとウルガーたちがブラックウルフの潜伏地点まで進んでいくと、薄暗い森の中でも蠢く黒い獣の影が目でも確認できる。 先行していた騎士たちが、ブラックウルフに見つからないギリギリの位置まで近づき、囲むように別れて待機する。 待機位置を確認すると、レイヴンたち魔法使いも距離を取り。騎士が出たタイミングで防御(プロテクション)強化(ブースト)を唱える準備に入る。 暫しの沈黙の後―― ウルガーがタイミングを計ってブラックウルフへと距離を詰めて斬りかかる。 それと同時に魔法使いたちが一斉にまずは騎士たちに魔法を唱えて援助する。 魔法使いたちの持っている杖の先が淡い光を放ち、騎士たちの身体を包み込む。 「……コイツ、固い…っ!!」 足元を狙った1撃は、確かに通ったのだが。思ったより手応えがなかったらしく、切り裂くことには成功したが、切り落とすまではいかなかった。 「グォォォォッッ!!!」 断末魔を上げるブラックウルフが、咆哮を上げて一旦飛び退り、地を蹴って上へと飛び上がると、そのまま騎士に爪を振り下ろそうとする。 「次、攻撃!」 「(ファイア)!!」 レイヴンの声に攻撃魔法が魔獣へと向かうが、炎に包まれても動きが鈍る様子がない。 振り下ろされた爪は、炎で気を逸したので無事に騎士も避けることができたが、続けざまの斬りつけのダメージは入っているものの、決定打になかなかならない。 「レイヴン!」 「氷の 弾丸(アイス バレット)!」 手のひらをかざしたレイヴンから幾つもの鋭い氷の塊が騎士たちの合間を抜けて、ブラックウルフめがけて飛んでいく。貫通力に特化した魔法で、漸く皮膚を貫くことができ、魔獣の血しぶきが上がる。 「ガァァァッッ!!」 「何度も斬りかかれ!こうなれば、回数勝負だ!!」 「皆、もう一度、強化(ブースト)を」 ウルガーの声で騎士たちが四方八方から魔獣へと斬りかかる。魔法使いたちもレイヴンの指示で再度魔法を掛け直し、その間にレイヴンが別の魔法の詠唱に入る。 他の魔法使いたちも、何とか魔法で援護を入れようとするが、魔獣の動きが早いためなかなか標準が定まらない。 レイヴンが指示を飛ばし、部位を狙うようにと自分がまずは魔法を打ち込んでその後に、他の魔法使いたちも続いて打ち込んでいく。 騎士たちの攻撃も止むことなく、魔獣に無数の傷を作り、その傷跡からドクドクと血が溢れ出す。苦しみもがく魔獣が、爪や顔を振り回し攻撃をしようと暴れ、辺りの木をなぎ倒していく。それでもまだ魔獣の動きが止むことはなく、噛みちぎろうと必要に騎士たちを狙う。 時折、爪が騎士の剣と交差して。キィンという金属音を響かせる。 中には肩で息をする騎士も出てきており、持久戦に持ち込まれると不利だと判断したレイヴンが一気に倒そうと、あまり使いたくなかったが、地形に影響が出そうな魔法を使用することを決意した。 「魔獣の動きを止める!その間に首を!!」 「分かった!」 ブォンという空気を振動させるような音と共に、空間にゆらぎが発生してレイヴンの手のひらへと収束していく。レイヴンが集中し、ゆらぎを円状の形へと圧縮する。 そうしてできた手のひらの上に留めたゆらぎを魔獣へと投げつけると、一直線に魔獣へと向かい、黒色を帯びた魔力が上から網のように広がって魔獣に襲いかかる。 「重力 縛り(グラビティ ホールド)!」 レイヴンが手のひらを返して、魔獣を押しつぶすように力を込める。 その動き通りに飛んでいったゆらぎの塊は魔術の身体を逃さぬような檻となってミシミシと魔獣の身体を蝕み、地に亀裂を作りながら魔獣を押し潰して動きを完全に止める。 ビクビクと抵抗はしているが、レイヴンが抑え込んでおり。その度に地面に亀裂が広がっていく。暴れれば暴れる度に、徐々に身体が耐えられなくなった地面へとめり込んで、大きな穴を作り出す。 「これで……!」 ウルガーは両腕を振り上げて跳躍し、渾身の力で剣をブラックウルフの首元へと振り下ろした。その一刀は傷を与え続けた魔物にトドメとなって、断末魔の咆哮と血飛沫を撒き散らす。

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