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19.討伐を終えて

「……ふぅ。さすがにやったよな?」 「……生命活動は止まってる。補助魔法、止め!」 レイヴンの号令で、一旦騎士たちにかけていた魔法を解く。 血飛沫は魔法によって遮られ、騎士たちに怪我はなく無事に倒しきることができた。 ――はず、なのだが―――― 倒したことに安堵していたところで、耳に鋭い音が飛び込んでくる。 「この音は……犬笛!?」 「……来るぞ!!」 騎士たちは気配を察知し、急に飛び込んできた影に反応して各々が剣を振るい、疲弊した身体を動かして何とか撃退するが、魔力(マナ)残量が残り少ない魔法使いたちは、反応が一歩遅れて保護魔法の展開ができず、悲鳴があがるばかりでその場から動けない。 その影の動きは俊敏で魔物であることは間違いないが、今は分析する余裕がない。 同じくレイヴンも指示を飛ばすが、指示と詠唱を同時並行で行うことはできずに、どちらを優先すべきが思案した数秒の遅れで飛び込んできた影への対応に遅れてしまった。保護魔法の詠唱を始めるが魔物の動きの方が素早く、自分だけではなく周辺に展開するのには距離も、時間も足りないことに気付く。 「…っ!間に合わない!」 咄嗟に攻撃魔法に切り替えたレイヴンが、狼狽える魔法使いに自分の身体をぶつけて無理矢理屈ませる。 自身もギリギリのところで屈みながら魔法を放つが、飛び掛かってきた影の牙がレイヴンの左肩を掠めて自分もバランスを崩す。 「放電(スパーク)!」 バランスを崩しながら放った魔法は、手のひらから伸びて紫の放電を放ち、そのまま影を包み込んで黒く焦がすが、痛む傷に少々顔を顰めて次の呪文の詠唱に詰まってしまう。 「レイヴンっ!大丈夫か!?」 駆けつけたウルガーが素早く反応し、さらにレイヴンへと襲いかかる影を返す刃で跳ね飛ばし、間に割り込んでレイヴンの身体を腕で抱き止める。 「……少し掠めただけだ。襲ってきたのはこれで全部か?」 「あぁ。ブラックウルフの子どもだ。おかしい、どこかに隠れてたとでも言うのか?」 騎士たちとレイヴンの魔法でかろうじて殲滅し、事態が収まると襲いかかってきたものの正体が分かる。 辺りには小さい個体のブラックウルフの死体が何匹か転がっていた。 念の為にレイヴンも魔法で周辺の気配を探る。 「……捜索(サーチ)でも、他の個体は捉えられない。母親が戦っていた時に気配を消せるほどの能力があるとは思えないから、やはり……自然発生ではなく……」 レイヴンは思案しているが、生々しい傷跡がある肩を見て狼狽える魔法使いの声で、漸く自分が怪我をしていることを思い出し、思考の海から現実へと戻る。 フード付きのマントをめくり、ローブのベルトに付けていた回復薬を取り出そうとするが、支えていたウルガーがレイヴンの手を止める。 「調査は後回しだ。レイヴン、神官のところまで戻ろう。回復薬でもいいが、神官たちに仕事を与えてやろう。歩けるか?」 「大げさだな。掠り傷だから……っぅ!」 ペチとウルガーがレイヴンの傷口を叩くと、反射的に声をあげてしまう。 あのなぁ……とウルガーを睨むが、ウルガーは、ほらみろ、と言って受け流す。 「痛がってるし、我慢するなって。肩貸してやるからさ?……お前たちも一緒に拠点まで戻るぞ!」 負傷したレイヴンを連れ拠点まで下がり、ウルガーの声で慌てて寄ってきた神官が回復(ヒール)をレイヴンにかける。 杖の先から溢れ出した白い光が左肩に当てられると、傷口が徐々に塞がっていく。 「これで応急処置にはなるだろ。しかし、あの魔物たち何か普通の魔物とは違う気がする」 「確かに何か不自然だ。より巨大で凶暴性の高いブラックウルフに、かなり俊敏なブラックウルフの子ども。子どもの出てきたタイミング、あれは犬笛の後だったはず」 「聞き間違えじゃないとしたら、人為的な可能性があるっていうことか?」 治療を終えたレイヴンが、ウルガーを見て静かに頷く。 ウルガーもその表情を見て、思い当たるものがあるのか鋭く真剣な目線を先程の戦場へと向ける。 「もしかしたら、魔物使いが絡んでいる可能性がある、ということだ」 「一体何の為にこんなことを……」 レイヴンたちはまた先程の死体の場所まで戻り、報告のための調査を始めた。魔法使いたちが死体からサンプルなどを採取している間、騎士たちも周辺の警護に当たって辺りを警戒していたが、犬笛が聞こえてくることも、さらなる魔物も現れることはなかった。 一通りの調査をすると、大分時間が経過したのか森の中が一段と暗くなり、魔力(マナ)と体力を回復させるために一旦拠点で夜を明かした後、城へと帰還することになった。

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