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28.お見舞いにて

シャワーを浴びた後、1人でバタバタしながら無理矢理テオドールを王宮へと追いやり、自分も漸く自室に戻ることができた。 「……とりあえず、着替えよう……」 寝直すにしても、昨日の服は後で何とかすることにして。とりあえずベッドに横になろうと楽な服に着替えていく。 着替えていると、テオドールとのことも色々と思い出してしまって、1人で顔を赤くする。 「何か、師匠に思いっきり引きずられてる気がする。もっとしっかりしないと、会う度に致すことになる気がしてきた……」 下を向けば身体には点々と跡がついており、はぁ…と溜息を漏らす。 考えれば考えるほど、行き着きたくない答えに行き着きそうで。 寝てしまえ、とベッドの中にさっさと潜り込んでしまうことにした。 身体が温まってきて微睡んだ頃に、扉を軽く叩く音が聞こえて、はい?と返す。 「レイヴン、大丈夫か?俺と一緒に……」 「休んでいるところすまない、ディートリッヒだ」 先に聞こえてきた声はウルガーで、次にディートリッヒの声まで聞こえ、驚きながらも慌てて扉を開けに行く。 「ディートリッヒ様まで……どうしました?まさか、師匠が何かやらかしたとか……」 「違う違う!あ、もしかして寝てた?」 「起こしてしまったか、それは申し訳ない」 恐縮しているディートリッヒに逆に恐縮してしまうと、ウルガーに話が進まないからと間に入り、お互いに顔を見合わせて苦笑する。 「少し休もうかなと思って横になってましたけど、大丈夫です。師匠関連ではないとすると、俺の部屋までいらっしゃったのは……?」 レイヴンは2人を室内に通し、椅子を勧めようと室内を見回していたが、逆に心配されてベッドに腰掛けさせられてしまった。 「いや…団長に例の話をしてたら、お前が倒れたって聞いて心配でさ。テオドール様が神殿に凄い勢いで連れていって…みたいなことを聞いたから」 「テオのヤツ…相変わらずとは思ったが、レイヴンが毒にやられたと報告があがったのでな。テオが見つけて良かったと安心した。だからと言って、神殿を破壊するのはどうかと思うが」 「俺も意識がなかったので、何をどうしたのかは聞いた話だけしか分からないんですけど。聖女様と教皇様の話を統合した結果、お手伝いをするということになりましたけどね」 お互い顔を見合わせて、ひとつ頷いた。 その場面を見ていないとしても、テオドールの普段を見ていれば何となく想像はつく。 「顔色は……悪くないな」 「団長、どれだけ心配性なんですか。団長ってレイヴンの父親でしたっけ?ほら、肩の傷も治ってるし……あ」 何気なく服をずらして、近距離でレイヴンを覗き込んでいるウルガーが一瞬言葉に詰まる。 その視線が首筋と服の隙間から見える鎖骨辺りなことに――気付くまで数秒。 「ほ、本当に!大丈夫です!その、ご心配をお掛けしてしまいまして……ウルガーと騎士の皆様のお陰で、大事に至らずに済みましたので。後は自分が気をつけなければと反省しておりますが……」 「いや、私でも咄嗟に反応できたかどうかは分からなかった。本来傷を負わせてはいけなかったのだが……こちらこそ済まなかったな」 「……レイヴンが倒れている間、俺が団長に絞られたからな。まだまだ甘いって。俺もそれに関してはまだまだだと思ったよ。本当に無事で良かった」 真面目な話で煙に巻こうとしたが、反射的に首筋を抑えながらウルガーを手で押しやった不自然な様子に、ディートリッヒが逆に不審がって距離を詰めてくる。 「あ、あの……」 「熱はなさそうだが……他に痛いところが?」 ほんのりと頬が赤く染まったことで、実は熱があるのではとディートリッヒがレイヴンの額に手を当てて熱を計る。 「団長……熱、ではないと思いますけど?」 「レイヴンはすぐに我慢をするからな。どうも心配になってしまう」 「……過保護すぎるでしょ、このお父さんは」 「誰が父親だ。俺を年寄り扱いするな!どちらかと言えば……そうだな、兄か?」 「はいはい、じゃあ、お兄様ということで。その優しさをもう少し団員にも分けて頂けると俺としても助かるんですが」 騎士たちのやり取りを見守り大人しくしていたが、この状況を脱する上手い言い訳が思い浮かばず、助けを求めて視線でウルガーに合図を送る。 「……団長、レイヴンは元気なことが分かったし。そろそろ戻りましょうか。レイヴン……色々と良かったな?」 「そうか?それならばいいが。レイヴンは働きすぎなところがあるからな。こちらでも今回の件は団員に聴取しているから、何か分かったら知らせるとしよう」 団長の腕を引き、ウルガーがレイヴンとの距離を取らせるとホッとしたように息を吐き出す。ウルガーは面白そうに笑い、レイヴンの耳元に口を寄せる。 「……お熱いことで?団長が熱くなると面倒だから、俺とお前だけの秘密ってことで」 「……っるさい。でも、ありがとう」 レイヴンの肩をポン、と叩くと。ディートリッヒを引き連れてウルガーも笑いながら部屋を出ていった。 「あぁぁ~~~……やっぱり、止めれば良かった!ウルガーだからいいけど、恥ずかしすぎるだろコレ!」 ウルガーが指摘したのは確実にテオドールが残したキスマークだと気づき、頭を抱える。 「ディートリッヒ様に知られるのは、恥ずかしすぎる。俺、やられたい放題の人みたいになるし……認識妨害まで頭回らなかった……やっぱり寝よう、そうしよう」 もう一度布団に潜り直し、今度こそ目を瞑って何も考えないようにと、暫く悶々としてから眠ってしまった。

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