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30.手土産ついでに

堅苦しい話をしたせいか、どうにも煙草が吸いたくなったテオドールは煙草を咥えながら街をぶらついていた。ぶらついていると、前にレイヴンが食べたがっていたスイーツの店に行列ができていることに気付く。 「なんだなんだ?」 「ちょっと、テオドール様!火、危ないから消してください!」 「あぁ悪ぃ悪ぃ。えらい集まってんじゃねぇか」 「それはそうですよー。ここの新作スイーツは数量限定ですから!」 煙草の火を消し足で揉み消して、面白半分で行列に並んでみたものの、スイーツの店に全くそぐわないテオドールはどうみても浮いている。しかも、目立つので何人かは話しかけてくる始末だ。 「今日買うなら絶対にシュークリームですよ!中のクリームが絶品なんです!今日はダークチョコレートもありますよ」 「ふぅん?新作ってのは……はぁ?なんだか良く分かんねぇが、これも買えって?」 「手土産としても喜ばれますよ!」 「そんなもんかぁ?しっかし、オッサンが並ぶのは落ち着かねぇわな。顔見知りがいて助かるってのも珍しいもんだ」 漸く順番が回ってくると、勧められたシュークリームを買おうとするが、何が美味しいのやらよく分からない。 「俺はダークチョコレートってヤツにするか。なぁ、後はオススメのヤツ包んでくれねぇか?限定のヤツと人気のシュークリーム?」 「はい、かしこまりました。女性への手土産ですか?」 「まぁ……そんなとこだ」 ふわりと微笑んだ店員が人気の味を幾つか選んで箱へ詰めていく。 テオドールはどちらかと言うと可愛らしい店員を見て、ニヤニヤしていたのだが。スイーツ好きと勘違いされたのか、店員が微笑ましげに少々お待ち下さい、と美しくラッピングを施していく。 「お待たせしました。どうぞ」 「また可愛らしいなこりゃ。どーも。アンタも可愛いし、お得な買い物だな」 「そんな……ありがとうございます。素敵なティータイムをお過ごしくださいね」 王宮でのやり取りがどこかへ吹き飛ぶほどの上機嫌で店を後にする。 鼻歌混じりにズンズンと進み、手土産片手に魔塔へと戻り、そのままレイヴンの自室へと様子見に向かう。 「大人しくしてんだろうな?アイツは」 扉に触れると、我が者顔で室内へと侵入する。テオドールならば魔塔はどこも出入り自由で、結界も関係ない。魔塔主だからと言えばそれまでだが、レイヴンもテオドールに関しては諦めているので、文句は言うものの自由にさせているのが現状だった。 「レイちゃーん?……お、寝てるのか」 土産のスイーツをサイドテーブルへと置き、ベッドで静かに寝息を立てているレイヴンの側へと腰掛ける。無防備で中性的な顔立ちは庇護欲をかき立て、どうしても構いたくなってくる。 「良く寝てんなぁ。おい、レイちゃん?イイもん買ってきたぞー」 サラサラした髪を梳いていると、んー……と声が漏れる。 「ほらほら、俺が全部食っちまうぞ?まぁ……俺は別にこっちのデザートでもいいか」 面白がって、額や頬にキスの雨を降らせていく。眠っていたレイヴンも擽ったいのか、もぞもぞと動き始める。 「んんー……もう、何……?」 「寝ぼけてんなぁ?いつもそれくらい大人しいレイちゃんならいいのになァ?」 「その声、は……ししょ……んむぅ!?」 最後に唇に吸い付いてから、ニィと笑って離れる。 流石に覚醒したレイヴンが慌てて口元を抑えて、ベッドの上で距離を取る。 「な、何してるんですか!人が寝てる時に勝手に!!」 「いや、何となく?」 「何となくでキスしないで下さいよ!挨拶代わりに、とか言ったらディートリッヒ様に言いつけてやりますからね!」 「ハァ?何でアイツが出てくるんだよ……キスの1つや2つで煩いな。それより、コレ。好きなヤツだろ。偶然行列を見つけたんで、可愛い弟子のために買ってきてやったぞ」 ベッドサイドを指差すと、レイヴンも何ですか……と渋々そちらへと顔を向ける。 が、一瞬の間の後。ラッピングされた可愛らしい箱を見て、こ、これは……と表情を輝かせた。 「どうして師匠が!?メロウベリーのスイーツを買ってきてるんですか!……え、ちょっと待ってください。コレ、誰のために買ったって言いました?」 「いや、だから。可愛い、弟子の、ために?」 グイグイと距離を縮めてくるテオドールを手で押さえて牽制しているが、目線はスイーツの箱に釘付けなレイヴンに笑ってしまう。 「……お見舞いに買ってきてくれたんですか?いや、何でもいいです。師匠の気が変わる前に頂きますので、紅茶淹れてきます。師匠は……珈琲でいいですか?お酒はこの部屋にないので」 「まぁ何でもいいけどよ」 ベッドから下りて素早く準備に向かうレイヴンを見送り、テオドールも適当にソファへ移動し腰掛けた。 +++ 紅茶の準備ができたレイヴンが、ティーセットをトレーに乗せて戻ってくる。 その間は暇そうに待っていたテオドールの前には、香ばしい香りが漂うマグカップが置かれる。 「両方準備したのか?相変わらずマメだわー」 「別にそんなに難しいことはしてませんし。それより、何を買ってきたのか楽しみです」 レイヴンは自分のカップに紅茶を注ぐと、ラッピングを解いて箱をそっと開けていく。 「これは、限定のマカロンじゃないですか!しかも、日によってクリームが違う人気のシュークリームまで……師匠、もしかして俺の反応を確かめて誰か女の子にあげようとしてますか?だったら無駄ですよ、誰が食べても美味しいですからね」 「別にそんな意図はねぇよ。たまたまだって。前に食いたがってただろ?」 疑り深いレイヴンを見ながら珈琲を啜り、普通に苦笑する。 「なかなかないですよ、コレ。すぐに売り切れるんですよね」 「らしいな。街のヤツがそんなこと言ってたなァ」 レイヴンが皿にシュークリームとマカロンを取り分けていく。 「そういや、あの店の子、なかなか可愛かったな。ボンッとしてたしよ」 手で胸の大きさを表すように弧を描く様子に、レイヴンが子どもを叱るように指を突きつける。 「……師匠、もしかしてペラシェちゃんの事を言ってますか?ダメですよ!あの子はメロウベリーの人気者なんですから!絶対に変なことしないでくださいね?」 「何だ、お前もああいう子が好きなのか?」 「それはまぁ……。可愛くて良い子ですし、あの子目当てで通う人も大勢いるくらいですからね。師匠はどうせ胸しか見て無いでしょうけど」 「顔も可愛かったぞ。お前とは別の意味でほわほわしてたな」 「何で俺が比べられてるのか良く分かりませんけど、本当にダメですからね」 何度も釘を刺すレイヴンに、ヤキモチか?とからかうように言うと、バッカじゃないの?と相変わらずの返事で、テオドールも肩を揺らして笑う。

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