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31.甘いティータイム

準備が整うと、レイヴンも席に着いて嬉しそうにいただきます、とマカロンを摘まんで口へ運ぶ。 「苺が爽やかに広がって……甘酸っぱさがちょうどいいですね。食べたことあります?マカロン」 「いや、名前も初めて聞いたわ。味は言われりゃ分かるが、このよく分からねぇ歯応えがなー」 「カッチコチのマカロンなんて、ありえませんよ。まぁ、師匠に繊細なスイーツのことは分かりませんよね」 「お前が酒の味が分かんねぇのと一緒だな」 ですよね、と気にした風もなくレイヴンもカップを傾ける。マカロンの良さがイマイチ分からないテオドールは、シュークリームを手に取り口にする。 「……思ってたより甘くねぇな。チョコレートの割には」 「ダークですか?……って、師匠。食べ方雑すぎません?」 齧り付いたせいか、口元にクリームを付けているテオドールを指差したが、逆側を触る様子にもどかしくなり、拭くものが近くに見当たらなかったので仕方なく指で掬い上げてついでに味見する。 「……あー、確かに甘いもの苦手な人でも食べやすそう」 「……お前もシュークリーム食べてみたら?」 指先をペロリと舐めた様子をジッと見つめていたテオドールが、ニヤニヤ顔を向けてくる。 不審に思いながらも、シュークリームにも素直に手を伸ばす。口に運んだタイミングで、テオドールが手を出してシュークリームをレイヴンの口に押し込む。 「むぐぅ!?」 「ハハ!ガッツキすぎじゃねぇの?あー…クリーム付けてんなァ?」 しょうもない事をするテオドールに文句を言おうと、シュークリームを口から離した瞬間に、鼻先を直接舐められる。 「なっ……何して……ちょ、コレが、したかったとか……」 「……コッチは流石に甘いな」 「も、どれだけ舐めたい……ん――」 唇の脇もペロと舐められ、文句を言おうとした口も塞がれて口内も探られる。 軽く舌を合わせられて焦ったレイヴンが、乗り出す身体を両手で何とか押し返す。 「…はぁっ……普通に、食べられませんか?」 「先に誘ったのはレイちゃんだぞー?」 「だぞー?じゃないですよ!アホですか!?」 溜息混じりに気を取り直そうと紅茶を飲んでいるレイヴンを面白がりながら、席に座り直し珈琲を飲んで甘さをクリアにする。 「隙あらば、みたいな調子でちょっかいかけて来ないで下さいよ。シュークリームもゆっくり食べたいのに……」 「いや、そっちのシュークリームも味見してやろうと」 「普通に言ったら分けるのに、何で子どもみたいなことするんですか……」 「構いたくなったから?」 「息を吐くように正当化するの、やめてもらっていいですか?」 文句を言いながら、それでもシュークリームの生クリームとカスタードの組み合わせに癒やされて、美味しそうに頬張っている方が子どもじゃねぇか?と。テオドールは心の中で呟く。 「何か、お前に餌付けするヤツらのことが何となく分かるわ」 「餌付けって……でも、人は美味しいものを食べるときは幸せを感じるものですよ?例えたくないですけど、師匠が煙草を嗜むのと同意です」 「まぁな。ま、機嫌直せって。マカロンもまだあるしな。ほれ、あーん?」 「……はぁ。もう少し優雅なティータイムを過ごしたいのに……」 差し出されたマカロンに罪はない、と。素直にパクリと食べる。テオドールの満足げな笑顔にイラつきを隠さないのだが、マカロンの美味しさに表情がへにゃりとなるので、あまり意味はない。 「常に甘いものを与えておけばご機嫌ってか。単純なヤツ」 「師匠がいなければ、もっとご機嫌ですけどね。でも、美味しいでしょう?」 「まぁ……そうだな。味は悪くねぇな」 「と言う訳で。弟子のご機嫌取りにいつでも買ってきてくださいね」 ニッコリと笑いかけるレイヴンに、テオドールは普通に嫌そうな顔を向ける。 「毎回あの行列に並ぶの面倒臭ぇなぁ。そんなに気が向かねぇよ」 「それは残念ですね。俺、優しい師匠だったらもう少し素直になれそうなのにな」 「何に対して素直になるって?」 「それは、師匠次第ですけど?」 意味深にフフフと笑うレイヴンの額を指先で突き、残っていたシュークリームを口に放り込む。 「痛っ!」 「餓鬼が俺と駆け引きしようとは……生意気なんだよなァ。お前は俺が好き放題するくらいで丁度いいんだからよ?」 「それ、常にじゃないですか……」 戯れのティータイムが終わると、テオドールもそれ以上のちょっかいをかけずに、自室へと戻るというので、これ以上何か起こる前に背中を押して見送ってしまう。 「……師匠も珍しく気を使ってくれたみたいだし、この後もゆっくりさせてもらおうかな」 片付けながら、書類整理ではなく読書でもしようと。レイヴンも有り難く療養と言う名の休日を過ごすことにした。

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