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33.友として、騎士として

――――少し時が巻き戻り、レイヴンが倒れた頃。 レイヴンが毒にやられたという話は、すぐに王国騎士団へも報告が上がった。 ウルガーも驚愕し、身体1つで飛び出そうとしたところをディートリッヒに止められる。 テオドールが神殿へとすぐに連れて行ったと聞いて安心はしたのだが、どうやら魔獣から受けた傷が原因だと聞いて自分の不甲斐なさに拳を握りしめる。その憤りは報告を淡々と伝える団長のディートリッヒへと飛び火する。 「クソ!あの時、確かに治療したはずなのに。どうしてレイヴンが!」 「……落ち着け。お前が騒いだところでレイヴンが良くなる訳でもない」 「しかし……!」 言い返すウルガーに、問答無用の鉄拳が飛び。痛さで少し落ち着きを取り戻す。 「......っつぅ!何するんですか!!いきなり殴るとか、いくら団長でも……」 「取り乱している暇があったら、アクシデントに少しでも対処できるように訓練でもしておけ。いいな?」 「…………」 自分を殴りつけたディートリッヒの拳も震えていることに気付き、自分以上にレイヴンを常に心配している団長こそが、何もできなかった自分に憤りを感じているのだと分かる。 「……頭、冷やしてきます」 ディートリッヒに頭を下げてその場を立ち去ると、夜の稽古場へと向かった。 シンと静まり返るその場所で、何度も、何度も剣を振るう。 いつも通りの型でも、振るっていれば頭の中のモヤモヤも晴れる気かもしれないと、繰り返し身体を動かしていると影が差したと同時に人が近寄った気配がして、一旦手を止めた。 「……随分殺気立ってるな。お前らしくもない。いつも飄々としていて、太刀筋が読めない食えない剣なのに」 「……なんだよ。お前こそ、こんな時間に珍しいな」 「見回りだよ。レイヴンの件で陛下も慎重になっておられるからな。今、陛下の側には部下たちがついているから、私は不審者や不審物がないかの確認だ」 通りがかったのは主に近衛の任についている、同じく副団長のクゥルテだ。 女性だが王国騎士団内でも5本の指に入る実力者で、男勝りな性格の彼女には中途半端な実力では太刀打ちできない。凛とした佇まいに加えて気安く話しかけることが躊躇われ、近寄りがたい存在でもある。 ウルガーとも同じ階級ということもありぶつかることも多いが、お互いの実力は認め合っており、ウルガーは特に気にせずに話しかけることのできる数少ない団員の1人だった。 「そういえば、この前の魔獣討伐はお前たちが行ったのだったな」 「あぁ。レイヴンたちと一緒にな。だが、咄嗟の反応が遅れてレイヴンが傷を負った。そのせいでレイヴンが……」 「成程な。大体の状況は飲み込めた。それで、団長に一発やられて顔を赤く腫らしていると」 「そうだよ。何も殴ることないのにな。そりゃあ、団長はレイヴンを可愛がりすぎだし。俺より物凄い形相してたから、逆に何か冷静になってきたっていうか。団長こそ、自分への怒りに満ち溢れ過ぎててさ。団長でもそうなんだから、俺なんてまだまだだよな」 少し落ち着いてきたウルガーが、いつもの調子を取り戻して立て続けの軽口混じりに溜息を吐けば、クゥルテも思わずフフ、と笑う。 「確かに。テオドール様とは別の意味でレイヴンのことを可愛がっているのは誰もが見て分かるな。その気持ちも分からないでもないが」 「それは俺も十分理解してる。凄いヤツだけど、何かいつも危なっかしいんだよ」 「私にはお前も十分過保護に見えるけどな。それは友としてなのか……」 「いやいや。確かに男の癖に綺麗な顔してるし、線も細いし、たまにちょっと危ない時はあるけども。俺はそういう目では見てないって。というより、テオドール様の横からちょっかい出せると思う?」 ウルガーのツッコミにクゥルテも苦笑する。 「アレでも可愛がっているつもりなんだろうな。テオドール様としては。それがレイヴンに伝わっているかどうかは微妙な線だが」 「レイヴンもまんざらではなさそうだけど、変なところで意地っ張りというか、子どもっぽいというか。恋愛ベタなのか……」 「……お前も大変だな。まあ、愚痴くらいなら付き合うぞ」 「そういうクゥルテも見回り中にどうも。そういう気遣いできるところは、ありがたいと思ってるよ」 素直に礼を述べると、クゥルテは少し驚いたような表情を浮かべるが、その後はいつもの真面目な表情を向ける。 「居る場所は違えど、同じ騎士として、副団長として。切磋琢磨していけば、我々も成長できると、そう思う」 「……だな。引き止めて悪かったな。俺ももう少ししたら戻るよ」 手を上げて見送り、ウルガーも改めてディートリッヒに自分の思いを伝えようと、剣を納めてその場を後にした。

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