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38.甘えベタな弟子

「優しくされると、どうしていいか分からないから……甘えていいのかも、分からない。そんな価値、あるのかな?まだまだ、未熟だし……」 独り言のような呟きに、テオドールが撫でる手を止めてレイヴンに触れて視線を合わせる。 「価値も何も、俺はそうしたい時にそうしてるだけだしな。そんなこと気にしてんのか?」 「テオは……分かる気がするから。でも、一度甘えてしまうと。もっと欲しくなる。そんなに、俺のためだけにって……」 「まぁ……言いたいことは分からなくもねぇが。レイちゃんは人気者だからなァ?構いたくなるんじゃねぇの?」 「……それも何か、恥ずかしい。そんなに子どもかな……」 普段思っていることを珍しく吐き出しているのを見守っていたが、寂しそうな姿を見ていると言葉通り構いたくなって気づけば顎を掬い上げて、優しく口付ける。 「ん……」 「甘える時は、子どもらしく甘えればいいだろ?まぁ……エロいのも俺は好きだぜ?」 「それは、その……誘いに乗ってくれるのかなって、思って。あぁ……何、言ってるのか分かんなくなってきた……俺、どうしたいのかな……どうなりたい、んだろ……」 「小難しいこと考えてんなぁ。甘えベタなのは、アレか?まぁ……俺もお前の全てを知り尽くしている訳じゃねぇが。そんなに不安なら言っといてやるか」 もう一度、キスをして。頬に手を当てレイヴンの顔を覗き込む。 ジッと見つめてくるレイヴンに、参ったと言わんばかりの表情を浮かべてから言い聞かせるように口を開く。 「お前のことは、俺の中でそれなりに……特別に思ってる。じゃなきゃ、こんなに構って抱いたりしねぇよ。だから、心配すんな」 「……え…?」 「ま、どうせ覚えてねぇだろうからな。ホント、俺の愛が伝わらないのが残念だなァ?こんなに可愛がってんのに?」 「暇潰しでも、性欲処理でも……適当に言ってるんじゃなくて……?え…やっぱり、夢なのかなコレ……でも。それでも、テオがそう言うなら。良かった」 心の底から嬉しそうに笑うと、自分から口付けて頬に擦り寄ってゆっくりと目を閉じる。テオドールもレイヴンが眠るまで、優しく撫で続けてそのまま胸の中に閉じ込める。高めの体温は心地よく、自分もそのうちに眠ってしまった。 +++ 暫く眠った微睡みの中、だいぶ酔いが覚めたレイヴンが薄っすらと目を開ける。 室内は暗く、自分はやんわりとテオドールに抱きしめられていてほとんど身動きがとれない。 「あれ……また、やってしまった……?何となく、そんな気はするけど……頭が、ズキズキするし。どうしよ、でも眠い……」 抜け出した方がいいのかもしれないが、テオドールの胸の中に閉じ込められていると安心する自分もいて、今は何も考えずに身体を預けていたかった。 「……認めたくない、けど……俺、この人のこと……――――」 1番言いたくないことを言う前に、睡魔に任せてしまうことにした。 +++ そしてレイヴンがまた眠りに落ちた後―――― 真夜中にテオドールが目を覚ます。自分に抱かれたまま大人しく寝息を立てているレイヴンの髪を梳いてから、そっと腕を外して半身を起こす。 煙草に火を付けると、レイヴンに煙がかからないように向きを変えて紫煙を燻らせる。 「レイヴンを構うのが定番になってんな。見てると毎回ムラムラすんのもなぁ……。本気で繁殖期の魔物じゃねぇんだから、もうちょいペース落とした方がいいような?」 理由を付けては構って、時には抱いている気がして。確かに欲望には忠実であるべきだと常々思っているので、我慢したことなど一度もないのだが。自分より10歳以上年下の子どもにがっついている状況は、さすがのテオドールでも思うところくらいはある。 「放っておくと何しでかすか分からねぇのもな。誰かしらがでしゃばってきてコイツのこと構うし、その割に素直に甘えようともしねぇし。そこら辺はコイツの問題かもな」 煙草を口に咥え、深く吸い込んで暫し思案する。 レイヴンと初めて出会ったのは戦争で訪れた街の一角で、その時は何も考えていないような虚ろな目をしていたのを覚えている。 家族はその国で起こった戦争のせいで亡くなっており、レイヴンは無意識下で魔法で身を守ったお影で無傷だったのだが、まだ小さかったレイヴンは他に頼るものもなく、道端でゴロツキを魔法で吹き飛ばして財布を物色しているところにテオドールがたまたま通りがかった。 レイヴンによると、自分を育ててくれた両親は本当の親ではなく、幼い頃の記憶はよく覚えていないらしい。両親は平民で、優しい普通の両親だったらしいのだが、本当の子どもではないことに引け目を感じていたので、他の兄弟たちとも仲良くできないまま戦争に巻き込まれて皆亡くなってしまったそうだ。 「魔法の才能がありそうだったし、何か惹かれるものがあって拾ってきちまったが……良く育ったもんだわ。って、俺は父親じゃねぇが。俺好みに自然と育ってくれたし、後はじっくりと可愛がって……で、いいか。面倒臭ぇ。どうせ俺のだし」 大あくびをして煙草の火を消すと、もう一度レイヴンをひと撫でしてから元の通りに抱き直し、腕の中に閉じ込めて朝まで眠ってしまうことにした。

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