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47.弟子からの告白

「師匠みたいに自堕落でどうしようもない大人になりたい訳じゃなかったですけど、魔法使いとしての腕は尊敬すべきものですし、憧れだったのは事実です」 「……それで?」 「何をされても、それは一番近くにいる弟子だからってずっと言い聞かせてましたけど。何度もされるうちに、それだけじゃ何かモヤモヤするっていうか……。だから、距離をおこうと思ったんですけど……」 言い淀むレイヴンに発破をかけるように、それでもいつもよりはやんわりと煽っていく。 「……ツッコミたくねぇけど、長くね?核心に辿り着くまでに寝落ちするかもしれねぇ」 「……むしろ寝落ちしてください。聞かれたくないし」 レイヴンが視線を彷徨わせる様子も可愛いと思う自分が終わってんな、と、テオドールも内心思いながら、軽く茶化して続きを促す。 「だから、こういうこと。外で、俺の知らない人としないで欲しいって思う自分がいて。何をされても義務感だって思い込んで、考えるのを放棄してましたけど。あー……こういうの、本当に苦手だ。求めたら、それこそ逃げられそうだし……」 こういう話になるとやたらと不器用で、伝えることすらなかなかできないレイヴンに、肩をポンと叩いて落ち着かせる。 「それ、先に似たようなこと言っただろ?オッサンの執着よりはマシだろが」 「まぁ……そうですね」 「ったく、何で自虐で助け舟出してんだよ……ほら、続き」 見上げるテオドールと顔を合わせることにも戸惑っていたが、意を決すると、残りを一気に吐き出していく。 「俺、師匠のこと。好き……みたいです。師匠としてだけじゃなくて、個人的に」 「個人的に、ねぇ?それなら、いつもの感じで呼んでくれよ。なぁ、レイ」 優しく頬に触れられると、レイヴンはその手に自身の手を重ね合わせる。 「……テオが、好きです。今も自分の気持ちを認めるのが不安だけど……貴方の側で成長して、貴方の側で立っていることが相応しいって言われるように、なりたいです。だから、これからも側にいても……いい、ですよね?」 レイヴンの緊張した面持ちの告白に、フッと笑ってクシャクシャと頭を撫で回す。 いつもの文句が飛び出る前に自分の懐へと閉じ込めてしまい、もう一度囁きかける。 「……イイコだ。お前の面倒は最後まで見てやるから、安心しろよ?」 改めてこうなると落ち着かないが、レイヴンも何とかいつもの口調で話を続けようと胸の中から顔を出す。 「な、なんですかそれ……っていうか、ホントにそれでいいんですか?俺は特に……元々頼れる人もいないので、ある意味ありがたいですけど……」 「心配性すぎるだろ。あと気にしてんのは……なんだ?子どもが産めねぇとか、俺の家とか?そんなところか」 思案しながら、勢いで素直に思った疑問もついでにぶつけようと、レイヴンも伺うようにじっとテオドールを見つめる。 「……未だにこれも信じてませんけど、師匠は貴族でしかも国を支える柱と言われるバダンテール家の長男、ですよね。そんな人がこの国では補佐官という位以外、身分もない俺のことを面倒見るって……」 「それこそ今更すぎるだろ。自分のケツは自分で拭けるから問題ねぇよ。家の問題だって言うなら、そもそも家を出て魔法使いやってる時点でダメだろ」 テオドールが鼻で笑い飛ばす姿を見ると、自分の不安も掻き消えていくのを感じ、安心して笑い返す。 「……ですよねー。それこそ、俺が師匠の弟子になる前からの話でしたね」 「問題があろうが、それこそ力でねじ伏せてるようなもんだろ。陛下のお墨付きっていう後ろ盾があれば最強じゃねぇか」 「ま、師匠ですもんね。知ってましたけど、一応?」 「いちいち細かいことを気にし過ぎだ。そうと決まれば、今日は余計にサボらねぇと」 そう言うが早く、レイヴンを抱き枕にして一眠りしようとする。 レイヴンも、なんだかなぁ……と呟くだけで、恥ずかしさも相まって大人しくすることにした。 「告白って、こう……場所とか、タイミングとか。キッチリとしてから言うものだと思ってたんですけど。こんな形で言わされるとは思いませんでした」 「別に気にしなくていいだろ。そういうのがお好みって言うなら、今度改めてやってやろうか?」 「……期待せずに待ちます。何か、師匠にそういうのやらせると恐ろしいので」 苦笑して、今日はもう諦めたとばかりに目を瞑る。テオドールの胸の鼓動を聞いていると安心して、レイヴンの方が先に寝息を立て始める。 「なんだよ、結局お前も眠かったのか?まぁいいや。しかし……素直になるのが思ったより早かったな。まぁ……素直になっても中身が変わる訳じゃねぇからなぁ」 テオドールも宣言通り、入室禁止と言わんばかりの結界を扉の前で展開すると、1日サボるためにまずは一眠りすることにした。

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