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48.祭り前の街で
サボりの日……気持ちを確かめあった日から、数日後――
女神降臨の祭典が近づいてくると、街も同時に行われる聖ミネルファ祭の準備に慌ただしくなってくる。それは魔塔といえど少なからず影響があり、祭りに乗じた犯罪を防ぐためにも各所の結界の点検、張り直しに多くの人員が駆り出されていた。
「補佐官様、街の西側の結界はいかが致しましょう?」
「そちらは防護結界を重ねがけする。綻びはあるか?」
「穴が何箇所か」
「3人で向かい至急復旧を。残りは正門の結界を点検次第、報告。綻びがなくとも防護結界及び魔物捜索 の魔石を準備」
「畏まりました」
書類を片手にレイヴンが魔法使いたちに指示を出していく。テオドールは王宮と神殿の結界の確認と聖女との最終確認のための話し合いのために別れて行動していた。
「後は、東側と中央。裏通りも念のため、だな」
話しながらレイヴンも裏通りへと続く道に、金属探知 を行う魔石を目立たないように設置していく。
「騎士が見回りもするし、本当は封鎖すれば楽だけど……そうもいかないか。これは便利だけど、金属全般に反応するから騎士の剣にも反応するんだよな」
反応を示すと音がなるのだが、騎士たちには勿論不評の魔石だ。レイヴンとテオドールも護身用のナイフなどの武器を持っているので、魔法使いでも反応する者もいる。まだ設置のみで発動はさせていないので、すぐには反応はしないのだが、祭り当日の朝から発動させる予定だった。
「師匠はすぐ裏通りのカジノに行きたがるから、ちょうどいいかもしれないけど……」
踵を返して街中の通りに戻ると、店の前で飾り付けをしていた女性が声をかけてくる。
「あ、レイヴン様ー!お疲れさまです。よかったら、今日採れたての果物で作ったジュース、いかがですか?」
「ありがとうございます。おいくらですか?」
「いやいや、お題なんていりませんよ。いつも私たちを気遣って下さるお礼みたいなものですから」
「え?いや、でも……」
レイヴンがジュースを受け取り戸惑っていると、今度は違う店の店主から声が掛かる。
「あら、じゃあウチも奮発しないとねぇー。これ、女神様パンだよ!味見してみて頂戴!」
「レイヴン様ー!うちの野菜も、もらってくださいな。無事に収穫できるのも、干ばつでも雨を降らせてくださる魔法使い様のお陰ですから」
あれよあれよという間に、貰い物で両手が塞がってくる。ジュースは喉も渇いていたのでその場で頂くが、お礼を言いながら通りを歩いていると途中で少女が編んだという買い物カゴまでもらってしまい、そちらに頂きものを移していく。
「何だか申し訳ないくらいに頂いている気がするんだけど……」
お祭りの雰囲気のせいなのか、皆表情も明るく、通りがかれば声を掛けてくる。その雰囲気にレイヴンも自然と温かい気持ちになって、作業の辛さも癒やされていく。
「ほのぼのしすぎて今、何をしているのか忘れてしまいそうだな。っと、いけない。この周辺にも魔法石を……」
ローブの中から魔法石を取り出して、通りの境目に設置していく。
+++
魔法使いたちから本日の作業の終了報告を受けて、テオドールと合流するために王宮へと向かおうと一歩踏み出したところで、目の前にフッと人が現れる。
「…っ!あぶなっ!!いきなり目の前に飛んでこないでくださいよ!」
「別にぶつかってねぇだろ。疲れたから歩くのダルかったんだよ、大げさだな」
悪びれる様子の欠片もないテオドールが欠伸を噛み殺してレイヴンを見下ろす。元々合流するつもりだったとはいえ、相変わらずのやり口に溜め息が止まらない。
「ここ、まだ街中ですよ?急に子どもが飛び出てきたらどうするんですか!座標位置が少しでもズレたら……」
「レイちゃんに印付けてるから、ズレることなんてねぇよ。安心しろ」
「はぁ……師匠の移動 は制限なしですか……。今日、本当に結界張り直してきたんですよね?」
「あんなもんすぐに終わったが、面倒臭ぇ話に巻き込まれてたからなァ。ババアと陛下じゃ流石に抜け出せなくてよ」
だる……と文句を言いながらまた欠伸を繰り返すテオドールを見て、説教しかけるがどうやらやるべきことはこなしてきたようなので、ぐっと堪える。
「色々と言いたくなりますが、終わらせてきたのだと信じます。こちらの作業最終報告は先程1人向かわせましたから、私たちは帰還しましょうか。街で色々と頂いてしまったので、今日はシチューでも作ろうと思いまして」
腕にかけた買い物カゴを掲げて見せると、テオドールがへぇ、とカゴを覗き込む。
「何だ?食わせてくれるのか?」
「結構量がありますし、お口に合うか分からないですけど。じゃないと師匠、お酒とチーズとかつまんで寝ちゃうでしょう?」
「まぁな。腹減ったし、遠慮なく食わせてもらうか。そうときまれば……」
レイヴンの腕を掴むと、面倒臭がりのテオドールは問答無用で詠唱を残して目的地へと飛ぶ。
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