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57.師匠からの告白

腰掛けて会話している人々もちらほらといるが、ここは灯りも少なめでゆっくりと休めそうだった。レイヴンも噴水の側に腰掛けて、先程買ったブレスレットを早速身に着ける。 「今日はたくさん師匠に買ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」 「珍しく遠慮しねぇじゃねぇか。これくらいなんてことねぇけどな」 「そうですね。何だか自然と甘えちゃいました」 「それくらいの方が可愛げがあっていいんじゃねぇの?」 テオドールもブレスレットを身に着けて、レイヴンの隣に腰掛ける。暫く静かにブレスレットを眺めていたレイヴンだったが、何かを思い出したようにテオドールを見る。 「そういえば、あの祭典の最後に降ってきた花びら。あれ、師匠の仕業ですよね?」 「あれはババアのリクエストだな。最後に綺麗な花びらが舞ったら素敵じゃない?とか何とかぬかしやがって。幻の一種だが、クソ面倒だったな」 「でも、凄く綺麗でしたよ?皆、見惚れてましたし。俺も綺麗だなって思いましたけど……」 レイヴンが言いかけると、テオドールが小声で詠唱する。すると、レイヴンの目の前にヒラヒラと昼間見た花びらが舞い降りてきた。 「あ……」 「お前もこういうの好きなのか?乙女だなぁ」 「いいじゃないですか、綺麗なものは綺麗なんだから」 「そうだな。綺麗なモノは綺麗、だな」 レイヴンの黒髪に花びらが舞い落ちるが、触れる前に儚く消えてしまう。それでも髪の毛を一房取って、テオドールは己の唇をそっと触れさせる。 「ちょっと、こんなところで何して……」 「――綺麗だ」 「……花びらが?」 「いや?お前が」 普段なら似合わないようなテオドールの微笑みも、祭りの名残なのかレイヴンが珍しく見惚れてしまう。 「男に綺麗って……それはそれで複雑ですけど。ありがとう、ございます?」 「なら、何て言おうか?そうだな……」 考えている間も、じっとテオドールを見つめてしまう。何を言われるのか分からないが、準備しておこうと心に決めていると、また優しい笑みを向けられて困惑する。 「――愛してる」 「――っっ!!?」 似合わない言葉に驚いて声も出ないレイヴンを見て、テオドールが先に笑いだす。 「とか、どうだ?」 「し、心臓に悪いから……」 「そうか?それは悪かったなァ。でも、言って欲しかったんだろ?こういうところで」 「そんな乙女扱いを……確かにそれっぽいことは言いましたけど、別に無理しなくても……」 今度は意味深に笑い、レイヴンの頬に手を当てる。警戒するレイヴンを見つめて目元を和らげると、また驚くのが分かる。素直な反応に気を良くして、もう少し戯れることにする。 「レイ、好きだ。――愛してる」 「ま、待って!そんなに何回も言わないでいいから!言われるこっちが恥ずかしい……」 辺りを気にしてキョロキョロと落ち着かない様子のレイヴンの顔を両手で固定してしまうと、こっそり認識妨害と防音結界を展開して額をくっつける。 「待ちに待った愛の告白だろ?遠慮すんなよ。で、レイは?俺のこと、どう思ってるか。こういう場面でも言っておいた方がいいんじゃねぇの?」 「な、な……」 「ほら、こういう時は素直になれって。折角恋人っぽくしてやってんだから」 「無理、ホント、無理……っ……こういうの言い慣れてる大人じゃないし!」 1人で照れて真っ赤になっていくレイヴンの鼻先に口付けて、えー?と可愛くもない口調で強請ってみると、逡巡していた視線が少しずつテオドールへと合わさっていく。 「何で、こうなった……だから、その……俺も…テオが、好き……です」 「ほう?で、愛して……?」 「あ、愛して……愛して、る……のかなぁ?それは、まだ、自信ないので……」 「自信ないか?それはそれは……身体に聞いてみるしかねぇか?」 戸惑っている間に嫌な流れを察知したレイヴンだったが、反応が遅れて結局キスで封じられてしまい、押しのけようとしたところでテオドールがパチンと指を鳴らす。 その音は辺りに聞こえることもなく、ただ2人の姿はその場から掻き消えてしまった。

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