60 / 254
58.気付いた時には※
レイヴンがキスから逃れた時にはまた景色が変わっていた。今回は意識もハッキリしていて酔うことはなかったが、着地と同時に抱き抱えられていて、またぁ!?と声を上げてしまった。
「祭りは楽しんだだろ?後は2人で愉しむに決まってるじゃねぇか」
「この流れ……多すぎません?俺、しないって言いましたよね?」
「言ってたっけか?でも、俺がこんなに愛を囁いてんのに……愛してるかどうか自信ないって、酷いよなぁー?」
適当に嘯いたはずなのに、テオドールの言葉にどう切り返していいか悩むレイヴンを眺めていると、色々な意味で弄りたい衝動にかられる。飛んで来た自室のテラスから室内へと抱いたまま連れ込み、トンと床に下ろして立たせると、分からせるように口付けながら外套を脱がせていく。
「待って、テオ……っ、ん…」
「んなこと言って。レイ、昼間我慢してたんだろ?なぁ」
テオドールが昼間と同じ様にペロリと首筋を舐めあげると、レイヴンが顔を逸して吐息を逃す。その間も手を休めずに服を剥いでいき、未だに抵抗するレイヴンを黙らせるように身体のラインを手でなぞっていく。
「で、分かったか?――愛してるかどうか」
「それ、まだ言ってる……だから、分かんない……って、言って…」
身体はすぐにテオドールに触れられて反応するが、正直なところレイヴンには良く分からない。愛してるの一言がこんなに恥ずかしいことも知らなかったし、いちいち反応している自分も恥ずかしくて堪らない。全身を撫で回されていても、嫌悪感よりふわふわとした感覚に支配されていく。
「恋愛に免疫あるフリして、本当になさすぎだろ。最初の余裕はどこへいったんだ?」
「あの時は……全部テオのせいだって、思ってたし。だったら、乗っかってやればいいくらいに……気まぐれなのは、いつも……だったし。だから……」
「まぁ、ノリと勢いっていうのもあるか。で、今は。俺が執着するから困ってるって?でも、俺が外で処理すんのも嫌だって、なぁ?我儘だよなァ」
テオドールは目を細め、咎めるように鎖骨に歯を立てる。レイヴンが痛そうに顔を歪めたが、テオドールを突き放すこともせずに、自分の身体を支えるようにテオドールの服を握りしめて耐えている。
「お前も、もっと執着しろよ。いつだって求めていい。俺も好き勝手してるからな」
低音で絞り出すように呟き、レイヴンの赤くなった鎖骨を今度は舌で労るように舐めて唇を落とす。
「…んな、テオみたいに……でも、一緒にいられるのは、嫌じゃない、です」
そっと見上げるとテオドールに遠慮がちに抱きついて、胸元に顔を埋める。レイヴンに子どものように甘えられてしまうと、テオドールも攻めたてる手を止めてあやすように背中を撫でる。
「その……俺だけ脱がされてるの、嫌だし。テオも……服、脱いでください。そうしたら、少しだけ、頑張りますから」
「お、ヤる気になったか?」
「……何か、頑張りたくなくなりました」
「冗談だって」
軽口の応酬をして、大人しくテオドールも服を脱ぎながらレイヴンをベッドへと誘導する。
+++
寝転んだテオドールの上に乗り上げて、自分がやられたのを模倣するようにレイヴンも鎖骨に吸い付いてから、軽く歯を立てる。可愛い反撃にテオドールもレイヴンの髪を撫でて大人しくされるがままで、次の攻め具合を伺う。
「……絶対、やられ慣れてる。これだから、汚い大人は……」
「それくらい噛まれたってどうってことねぇだろ。やるならこうやって、もうちょい歯、立てねぇと」
見本と言わんばかりに、テオドールがレイヴンの首筋に吸血鬼のように噛みついて跡を付けると、痛さと共に熱を帯びてくる。
「……ッ…ぅ……さっきから、痛いんですけど…――ン」
「刺激的だろ?」
「……最悪です。明日は、首隠さないとダメになったし……」
首を押さえながら、テオドールを軽く睨みつけ面白くなさそうに今度は耳に齧りつく。
「ってぇ!お前……耳は危ないだろ!」
「余裕なんでしょう?なら、いいじゃないですか」
「可愛くねぇー」
「テオも我儘じゃないですか。もう……」
遠慮がちに舌を出して、赤くなった耳を舐めていく。レイヴンの吐息が耳朶を掠めて擽ったさを感じ、テオドールが笑いながらまたレイヴンを撫でた。
「愛撫までにゃんこっぽいなァ。今度は唇でも舐めてもらおうか?」
テオドールが唇に指を当てて煽ると、レイヴンが仕方ないという表情を向けて顔を近づけてペロと唇を舐める。何度も撫でると答える代わりに舌を伸ばして猫のようにペロペロと舐めるので、口元で笑って舌を口内へ招き入れる。
「……っ、ン」
「ああ、コッチだ。もっと探っていいぞ。この前やったおさらいだ」
「この前……?」
「酔った時にしただろう?にゃんこプレイ」
酔った時と言われると、この前のウルガーと外で飲んだ時だろうかと一瞬動きを止める。何をやらかしたのだろうとレイヴンは顔を赤くするが、テオドールは愉しげにキスで答える。
ともだちにシェアしよう!