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60.弟子の複雑な心境
テオドールはレイヴンの様子を伺おうと視線を戻す。正直このまま続けたいところではあるが、一応具合を確かめようとレイヴンの前髪をかき上げて様子を見る。
「レイ?……おい、レイ?」
「はぁっ、はぁっ……ん、……」
グッタリとベッドに横たわったまま息を逃すばかりで反応がない。仕方なく自身を引き抜いてレイヴンの瞼に唇を落とすと、固く閉じられていた瞳が少しだけ反応してテオドールを映す。
「……っつい、あっ、ついから……離し、て?」
「そりゃぁ、ヤることヤったら熱いよなぁ。でもほら、余韻ってヤツが……」
「……いらない。もう、疲れた。喉、痛い……」
「お前なぁ……終わった途端に素に戻るなよ……」
横たわったまま何故か不機嫌そうなレイヴンを残し、仕方なく水を取りにいく。水差しごと持ってくると、レイヴンの身体を起こして水を飲ませようとコップを近づける。
「ン……はぁ……」
「で、涼しくなったか?」
「……少し、は。もう、テオに付き合うの、疲れる……」
「年寄り臭ぇな、ったく」
レイヴンの口調は不貞腐れているが、水で喉を潤してもその顔は火照ったままで、情事の後が色濃く残っている。見つめられていることに気付くと、何?と首を傾げる。
「これだけ乱れてんのに、まぁだ素直にならないのかよ。所有印もたくさんついてるってのに。別にエロエロじゃなくてもいいけどよ、こう、もうちょっと可愛げある態度とか……」
「……何ですか、それ……いつも、跡つけないでって、言ってるのに。絶対に、付けるのは誰でしょうね?」
レイヴンは静かにテオドールを見つめてから息を吐き出し、諦めたように胸に顔を預ける。鼓動を聞いているとやはり安心して、何とか言葉を紡ぎ出せそうな気がした。
「意地悪だし、すぐ触ってくるし、やめてって言ってもやめてくれないけど。それでもテオじゃないと……嫌だから――」
視線を合わせて、最後の一言を何とか絞り出そうとするレイヴンを、テオドールも茶化さずに静かに見つめる。
「……貴方を、愛して、ます。テオ……」
その一言で耳まで赤くしているレイヴンの頬に手を当て優しく微笑すると、困惑しているレイヴンに顔を寄せる。
「ちゃんと、言えたじゃねぇか。イイコだ、レイ」
「……明日には忘れてください」
「それはどうだろうな?」
「言えって言われたから言っただけですから。それに、元々人間性以外は尊敬してるし、いつか追いつきたい憧れの人ですから。そんな人が俺にべた惚れって思えば、優越感?ですよね」
「そうだなァ。レイちゃんに命令されたら国の1つや2つ取ってきてやるよ。なんせ魔塔主様だからな」
触れるだけのキスをして、強がりの饒舌で恥ずかしがっているレイヴンを宥める。テオドールは何とかヤりたい気持ちを押し隠して大人の余裕を見せつけようと、自然な動作で一緒にベッドに横になる。
「明日は後片付けしねぇといけないんだよなぁー。面倒臭ぇな」
「だから、もう寝ますよ?俺もここで寝ますから……」
レイヴンは色々と見なかったことにして、ブランケットを引き寄せると無理矢理にでも眠ろうと目を瞑る。
「なぁ、もう面倒だし。部屋、一緒にしたらいいんじゃねぇか?」
「嫌ですよ……ただでさえ、部屋の中が煙いのに。俺まで煙くなる」
今いるベッドも、ブランケットも、煙草の残り香がしているのを我慢しているのに。自分の身体に染み付くのは困る、と。レイヴンが無視してテオドールから距離をとろうとする。
「残念だが……最近のレイちゃんはマーキングされてるから、俺の香りも濃いんだよなぁ。周りの奴らも気付いてるんじゃねぇ?」
スン、と髪の香りを吸い込むと、レイヴンの香りと自身の煙草の香りが混ざっているのが良く分かり、満足げに笑みを深める。
「元々、側にいるから気にしてたのに……朝一で落とさないと人前に出られないじゃないですか。もう、禁煙して欲しい……」
「したところで、香りなんてもんは混ざるだろうが。ホント、妙なところを気にするよなぁ。俺とお前のことなんて、知らねぇヤツの方が少ないんじゃねぇ?」
事もなげに言い放つと、真に受けたレイヴンがブランケットを頭までスポリと被ってうなり始める。
「あぁぁぁ〜……っ……分かりましたから、もう、言わないで。こうなってる時点で、敗北してるんだ……だから嫌だったのに!」
「なんで勝ち負けになってんだよ。大げさだな」
「なんでもありません!おやすみなさい!」
1人で照れたりむくれたり忙しいレイヴンを落ち着かせるようにブランケットの塊ごとポンポンと叩き、これ以上は刺激しないようにテオドールも目を閉じて眠りにつくことにした。
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