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61.師匠と弟子のお買い物

翌日、祭りのために置いておいた魔石を回収するためにテオドールとレイヴンも手分けして動いていた。ある程度は今後のために残しておくものの、全てをこのまま動かすには予算も魔力も足りないため、過分なものは撤去していく。 「師匠の方が早く終わりそうだな。王宮側は老朽化したものと元々変えていたし、あちらは撤去するものが少ないはず……」 今日も書類を見ながら声に出して確認していると、魔法使いから予定のものを撤去し終えた報告が入る。 「予定より早かったな。その魔石は魔塔で保管する。手分けして運んでおいてくれ」 「はい。畏まりました。補佐官様、我々は魔塔に戻って各々の作業に戻ってよろしいでしょうか?」 「あぁ。皆に伝えてくれ。私と魔塔主様はまだやることが残っているから、皆は王宮から頼まれている作業と魔法の訓練を引き続き行うように」 報告に来た魔法使いは、回収した魔石を持って他の魔法使いにも指示を伝えていく。元々その予定で組んであるので問題はないだろうと、レイヴンも一旦書類を目から離して提げていた袋にしまい込む。 「後は薬と研究用の魔石を見に行かないと。先に店に行っていようかな……」 軽く伸びをしていると、視線の先に遠目でも分かりやすいテオドールが珍しく歩いて近づいてくる。避ける町民、慣れているので声を掛ける町民もいるが、今日は機嫌が良いらしくテオドールも軽い挨拶をしながらレイヴンの前で立ち止まった。 「そっちも早かったな。アイツらも引き上げたし、今日しなくちゃいけねぇ面倒なことは大体終わったな」 「お疲れさまです、師匠。貴賓をアイツら呼ばわりしないでくださいよ、もう。ところで、今日はちゃんと歩いて来たんですね」 「街中にいきなり飛んでくる訳にも行かねぇだろ?別にココは歩きながら煙草も吸えるし、そこまでダルくねぇからな」 「この前飛んできた人が何を言ってるんですか。言うこと成すこと、毎回適当すぎるんですよ。それと、煙草は迷惑になるので歩きながら吸わないでください」 しっかりと咥え煙草で現れたテオドールに苦言を呈すると、テオドールも渋々煙草を揉み消す。地面を汚すことすら許さないので、吸い殻もきちんと魔法で燃やして処理をする。 「それで師匠、先に薬屋でいいですか?」 「別に薬は届けさせればいいのによ。なんでわざわざ取りに行かなくちゃいけねぇんだろうなぁ」 「師匠が予算で自分用の薬の材料を混ぜるからでしょう?ギャンブルで使った分、魔塔の予算使い込むとか、俺が後で返済させてなかったら牢屋行きですからね!これですら、俺が頭を下げてなんとかお願いしてるからいいものの……」 「分かった、分かったって!ほら、行くぞ!」 説教が長引きそうだと思ったテオドールは、レイヴンの腕を引っ張り無理矢理歩かせる。 「もう、急に歩き出さないでくださいよ!ホント、自分勝手すぎるし。離してください、自分で歩けますから」 テオドールの手を振り払い、早足で薬屋へと向かうレイヴンをニヤニヤ顔で後を追ってのんびりと後からついていく。 +++ 「いつもありがとうございます。ご注文の品は以上でしょうか?」 「あぁ。この薬の出来は悪くねぇな。これならアイツの調合も時間短縮できそうだ」 テオドールが確認している間に支払いを済ませ、受け取った薬をレイヴンが袋へ仕舞っていく。別の薬に気を取られないうちに素早く取引を終えてしまうと、テオドールを急かして外に出る。 「おいおい、そんなに急がなくてもいいだろ」 「放っておいたら何を買うか分かりませんから。俺の前では妙な物は買わせません」 「妙な物って。お前は俺の母親かぁ?……まぁいいや。さっさとジジイの店に行くぞ」 テオドールも不服そうに文句は言うが、レイヴンの肩を引き寄せると鼻歌混じりで歩き始める。身長差でうまく歩けないレイヴンは時々たたらを踏みながら、仕方なく道を進んでいく。 +++ 「……やっと着いた……。もう、師匠!街の皆さんにも笑われてたんですけど!」 「仲良しって感じで良かったじゃねぇか?何照れてんだよ」 「どこがですが……引きずられてる可哀想な子どもみたいに思われてましたよ絶対」 店の前でいつものようにやり取りをしていると、店の扉が音を立てて急に開く。 「ワシの店の前で何を騒いどるんじゃ!用があるならさっさと中に入らんか!」 「すみません!クソルキさん。失礼しました」 「んだよ、ジジイ。相変わらずいちいち突っかかってきやがって」 レイヴンが謝っている間もテオドールは不機嫌そうに鼻を鳴らすばかりで、今度はクソルキと揉めそうだと察したレイヴンがテオドールの背を押して、慌てて店内へとなだれ込む。 「今日は師匠と一緒に魔石を見せてもらおうと思いまして。魔道具用のお願いしていたものと、後は……」 レイヴンが言い淀むと、テオドールがレイヴンの手首を掴んで自分の手首と合わせて見せる。 「ブレスレットに合いそうな魔石、あるだろ?コイツと俺の分を頼みたい」 「ほう?お前さんたちにのう。まぁ、いいわい。いくつか見繕ってやろう」 クソルキはブレスレットを観察し、2つのブレスレットを見比べて暫し思案すると一度店の奥に引っ込んでから、幾つかの魔石を持って戻ってくる。ケースの中に載っている魔石は全て違う輝きを放っており、形も少しずつ違っている。透き通っている魔石もあれば、しっかりと色の染まっている魔石もある。興味本位でテオドールがひょいとつまみあげると、クソルキがペチと手を叩いて睨みつける。 「痛ぇな!何しやがるクソジジイ!」 「誰が勝手に触っていいと言った!ワシはレイヴンに見せようとしたしたんじゃ。ほれ、レイヴン。見てみぃ」 態度をコロリと変えて孫を可愛がるような笑顔でレイヴンに魔石を見せるクソルキに舌打ちしているテオドールを放っておいて、レイヴンは誘われるがままに魔石を見て手を翳す。 「この魔石は色も透き通っていてキレイですね。こちらが…… 防御魔法で、こちらは回復魔法ですね。やっぱりブレスレットに入れるなら補助系になりますよね。魔力強化(マナブースト)も悪くないと思いますけど……」 「お前は危なっかしいんだから、いざという時に役に立つやつにしとけ」 「別に好きなの選んだっていいじゃないですか。何か言い方が腹立つなぁ」 テオドールの言い方に文句を言うと、クソルキもテオドールに向かってそうじゃそうじゃ!と噛みついて加勢する。 「いつもより2倍煩ぇ!じゃあ、適当に1番高いヤツにしとけ。ジジイのとっておきがあるだろ」 「当たり前じゃ。ここにあるのはどれも1級品じゃからな。アンタはどれでも構わんが、レイヴンには怪我をしてほしくないからの」 「クソルキさん、ありがとうございます。俺のことを心配して下さってるんですね」 楽しく会話をする2人と何故か除け者にされているテオドールで、どの魔石にしようかと話が進んでいく。結局2人に説得されたレイヴンがいざという時に身を守る魔石にするということになり、テオドールの魔石についてはまた後日ということになった。 「何ですか……その内緒っていうのは。子どもみたいに」 「まぁいいじゃねぇか。じゃあな、爺さん」 「お前には会いたくないわい。レイヴン今度はゆっくりと茶でも飲みに来るんじゃぞ」 「いつもありがとうございます。また寄らせて頂きますね」 クソルキに挨拶をし笑顔で店を出たレイヴンを置いて、テオドールがまた一旦引き返して店内へと戻っていく。何事かと言おうとしたが、すぐ戻る、と言われてしまい疑問に思いながらもその場で待つことにする。

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