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62.一緒に外食を
「爺さん、言い忘れたことがあるんだが」
「……お前さんの言いたいことは何となく分かる。あの子の魔石は儂が選んだ中でも最高級のものにしてやる。だから安心するんじゃな。心配せんでも、頼まれたからにはあの子の手助けになって、お前さんに損はさせんものにするつもりじゃ」
チラとテオドールを見遣る表情に、テオドールもニヤリと笑みを返す。
「アンタのことは俺も信用はしてるつもりだしな。俺の魔石は魔力 回復系にでもしてもらうつもりだったが。それも俺の持ってる分、全回復ぐらいが理想なんだよなぁ。いざという時にぶっ放すように」
「無茶を言いよる。期待せんで待っておれ。全く、そのブレスレットの何倍もする値段の魔石を選びよる。コッチは商売じゃから構わんが。ほれ、レイヴンを待たせてるんじゃろ?さっさといかんか」
「だな。じゃあ頼んだぜ爺さん」
ヒラと手を振るとテオドールも店を出ていった。見送るクソルキも、やれやれと息を吐く。
「魔塔主も弟子を随分可愛がっておるな。負けておられんわい。儂の名にかけて良い品を用意してやるとするかのう」
髭を楽しげにひと撫ですると、クソルキも店の奥へと引っこんでいった。
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「何かウロウロしてたら腹減ったな。どうせなら美人を見ながら酒でも飲みたい気分だな」
「師匠、それいつもじゃないですか。お腹が空いたというところだけは同意しますけどね。折角ですしハリシャさんの店に行きましょうか」
「何だ、お前から酒の許可が出るのは珍しいな」
「お酒を飲んでいいって言った訳じゃないですが、ハリシャさんのご飯は美味しいので」
意見が一致したので、馴染みのハリシャの酒場へと向かって歩き出す。
「そういやずっと袋持たせてたな。重いだろ?持ってやる」
「いえ、別に大したことは。それにこういうのも補佐官の仕事のうち……って、そんなに無理矢理奪い取らなくても」
レイヴンが話している途中で強引に提げていた袋を取って、テオドールが肩に掛けてしまう。親切なのだろうが、有無を言わさず行動するせいで警戒されることをこの人は分かっているのだろうか?と。苦笑しながら礼を述べる。
「では、お言葉に甘えます。……酒場は今日も盛況みたいですね」
扉の前から笑い声や話し声が漏れ出している。レイヴンが先に扉を潜ると、すでに酒を飲んでご機嫌な様子の男性たちが目に留まるが、席はかろうじて開いているのが見えた。
「飲んだくればっかで見ても面白くも何ともねぇな。女将の近くに行こうぜ?やっぱカウンターだよな」
ズンズンとカウンターへと近づいていくと、気づいたハリシャが視線を合わせる。声を出す前に珍しくレイヴンと一緒なのに気がついて目を丸くした。
「今日はレイヴンも一緒かい?補佐官様付きなら大歓迎だよ。さあ、座んな」
「んだよ、そのあからさまな贔屓は。俺だっていつも寄って金落としてんじゃねぇか」
「こんばんは、ハリシャさん。いつも師匠がご迷惑をおかけしてすみません。お腹が空いたのでご飯を食べに来ました」
「いつも飲んだくれるわ、女の子の尻は触るわ……これで金すら払わないんじゃお役人様を呼んで追い出してるよ!」
テオドールにピシャリと言い切ると、テオドールも降参と言うように両手を挙げて大人しく席に着く。レイヴンは注文を取りに来た女の子と顔を合わせてニコと微笑む。
「あ、あの……ご注文は?」
「わざわざ取りに来てくれたんですね?ありがとう。隣の怖いおじさんはどうせ放っておいても飲むのでビールを。俺も……」
「……ッチ。これだから顔のイイヤツは。お前はジンジャーエールにしておけ。すぐ酔っ払うんだからよ」
「何か言ってるけど、そこは無視して……はいはい。別に無理して飲むつもりじゃなかったです。お酒は以上で。後はさっぱりしたものって何かありますか?」
「今日は、新鮮なお野菜をたくさん頂いてまして。そのまま切ってお出ししてます。女将さんが手作りのディップソースを作ってますので、それを付けて食べると美味しいですよ」
緊張しながらも、丁寧に説明してくれる女の子にそれも一緒にお願いします、と一旦注文を終えてからカウンターのハリシャへと向き直る。
「誰かさんと違って、優しい子は自然とモテるねぇ。顔良し、性格良しならどこに行っても恥ずかしくないねぇ。今日はたくさん食べていきな?」
「ありがとうございます。俺なんかより皆さんのほうが親切ですし。いつもお世話になっていますから」
「出たよ、レイヴンの猫被り。これだからにゃんこは気まぐれなんだよなァ」
「……うるさいですよ、師匠。ほら待望のビールがきましたから静かに飲んでください」
テオドールの前にマグが置かれると、早速手を伸ばして一気に呷る。
「うわぁ……あの人もう飲み干してません?」
「いつもこんな調子だよ。全く。ほら、これも食べな?」
大皿に分厚く切られた肉と炒められた野菜が載っている。肉は外側をじっくりと焼かれているが、中は柔かいままで美味しそうだ。上からトマトのソースがかかっており食欲をそそる。レイヴンのジンジャエールと切られた野菜もやってきて、一気にカウンター上が賑やかになってくる。
「ん……このお野菜は本当に新鮮ですね。ソースなしでも美味しい。でも、このソースも美味しそうです。これは……レモン?」
「そうそう、混ぜてみたんだよ。ちょっと酸っぱいかもしれないけどねぇ」
「そんな野菜をムシャムシャして美味いかぁ?まぁ、小動物っぽいもんな」
「今日はやたらと噛みついてきますね、師匠。大人しくビール飲んでてくださいよ」
テオドールがお替り催促すると、黙らせるようにドン、とハリシャがマグを置いた。
「あたしは美味しく食べてくれる子の味方だからね。美味くないと言うヤツに出す飯はないよ!」
「野菜は野菜だろうが。別に女将の料理をけなしてねぇのによ。なぁ、姉ちゃん。俺の膝の上で一緒に飲まねぇか?」
「え?その……困ります……」
「師匠ー?俺の前でそういうことしたらどうなるか分かってますよね?」
店員の女の子はサッとレイヴンの背に隠れてしまい、余計に気に食わないテオドールが舌打ちする。不機嫌そうにビールを飲んでいるので、そのうち酔えば機嫌も良くなるだろうと放っておいて、レイヴンも食事の続きを楽しむことにする。
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