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67.国王からの勅命

暫くは公務に追われる日々が続き、2人の関係も多少レイヴンの態度が柔らかくなった。テオドールもあまり急かさずに見守っていたのだが。それでも同室だけは拒むレイヴンを説得し続けていた結果、休日前はテオドールの部屋に訪れてそのまま一晩過ごしていくようになった。レイヴン的にはそれでも精一杯らしい。 「クソ……明日は休みなはずだったのによ。陛下の呼び出しじゃあ、断れねぇし。レイちゃんを可愛がってアンアン言わせてやるつもりだったのによー」 「またそういうことを歩きながら言う!というか、召集されたら速やかに向かうのは当たり前ですからね?全く、誰かに聞かれたらどうするんですか……師匠といる時は常に防音しないとダメですか?」 「俺が言ってたって誰も気にしねぇよ。だろ?」 「開き直らないでください……ほら、師匠。気持ちを切り替えて!お願いしますね」 執務室にとの伝令を受けて王宮の長い廊下を歩き、2人で国王の執務室に向かう。 扉の前の騎士に扉を開けてもらい、レイヴンが国王へと最上級の礼をする。 「王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます」 「……話はなるべく手短に済ませて欲しいところだな」 「2人ともよく来てくれた。今回は少数精鋭でお願いしたくてな」 国王の許しも得ずに不遜な態度で室内を見回すテオドールを見て眉間に皺を寄せた宰相のアスシオを国王が宥め、レイヴンにも気を楽にするようにと手で合図する。室内には先に呼ばれたディートリッヒとウルガーの姿もあった。 「テオドール、お前も呼ばれたのだな」 「んだよ。ディーもかよ。で、騎士団も2名さんな訳か」 「そういう訳です。よろしくな、レイヴン。お手柔らかに、テオドール様」 「よろしくお願いします。ディートリッヒ様、ウルガー」 国王に座るようにと促され、各々ソファーへと腰掛ける。皆が見渡せる位置の椅子へと腰掛けた国王がおもむろに話を切り出す。 「今日集まってもらったのは我が国の精鋭に頼みたいことがあってな。相手方も警戒が強いので穏便に事を運びたいのだ。そのためには迅速に事を解決へと導く力が必要となる」 国王の目線に気づき、書類を持ったアスシオが話を引き継ぐ。その話の間もつまらなそうにしているテオドールを睨んでいるのに気付き、レイヴンがテオドールを肘で突いて態度を改めさせる。 「エルフの住処である森に、近頃凶暴な魔物が出没するようになったそうなのですが、どうやらそれが我が国の近隣に魔物が現れた時期と重なるのです。今まではエルフたちで対処していたそうですが――」 「それが、対処しきれなくなったと」 「エルフたちは元々人間たちに不信感を抱いており、我が国も対象なのです。魔物を放ったのは我が国ではないのか?と書簡を送ってきました」 アスシオの顔は大抵無表情で、テオドールには厳しい目線ばかり向けているのだが。この時ばかりはエルフに対してなのか、息を長く吐き出した。 「ったく、何で俺らがわざわざ出向いていかなきゃいけねぇんだ。どうせ何を言ったって聞く耳を持たない種族だろうが。中には内緒で物を売りに来るヤツもいるが、そんなの例外だしな。俺だって仲良くできるもんならしてみたいけどな」 「私たちもその件に関してはまだ調査中ですし。どういう意図で行われたのかも、残念ながら未だに分かっていません。ですが、我が国にとっても、エルフたちにとっても、由々しき事態であることは間違いありませんから」 魔塔でもレイヴンの件があってから王命で調査を続けているが、魔物使いと思われる人物はテオドールが渡した証拠映像くらいのもので、少なくとも国内では不審な人物は特定できていなかった。テオドールの言い分にも一理あるのを重々承知のアスシオはさらに表情が険しくなる。 「森が荒らされたせいで精霊との対話ができなくなり、エルフでも森を荒らしているのが何者の仕業かは分からないと言うのです。正直、気は進みませんがここはエルフに恩を売る形を作り、この件の犯人は我が国ではないのだと証明すべきだと考えます」 「成程な。しかし、そうすればエルフの森にも当然、立ち入ることにもなるだろう。エルフたちはそれを納得したうえでのことなのだろうか……」 ディートリッヒも思案し始めると、アスシオがさらに言葉を続ける。 「ディートリッヒ様の言う通りです。エルフたちは我々に要は助けを求めているのですよ。だから人間のせいだと脅しをかけてきているのです。我々としてもエルフの持つ力や知識は非常に重要なものであると考えています。こんなことで滅んでもらっては困りますからね」 「……アスシオの言い方は極端ではあるが、エルフとの関係性を変えることさえできれば、これからはもっと親密な国交を結べるかもしれない。お互い不可侵であった関係性が変化し、お互いに行き来できるような関係へとな」 「まぁ……コソコソ仲良くするヤツもいれば、エルフの子どもを運良く攫って食い物にするようなヤツもいるだろうしな。俺は褒美にエルフの美女でも貰えるなら文句ねぇけどな」 テオドールの言い分に一斉に非難の声があがり、国王自らが再度場を諫める。 「魔塔主がやる気を出したということならば、この件、テオドールに一任して良いな?」 「まとめ役は面倒なんだよなぁ……ディー、お前がやれ。俺は補佐だ」 「貴様、陛下の前でも相変わらずの態度……本当に分かっているのか!?」 テオドールの適当な態度に腹に据えかねたディートリッヒが掴みかかろうとするが、陛下の前で……と、ウルガーが止めに入る。 「まぁまぁ……団長、表向き団長がエルフと話した方がいいかもしれませんし。何かあったらレイヴンが間に入ってくれますから、大丈夫ですって。なぁ?レイヴン」 「……師匠の暴走は私が責任をもって止めさせて頂きますので、ディートリッヒ様、どうか指揮をお願いします」 「……レイヴンが言うのならば仕方ない。陛下、その命は私が責任を持って――」 「こういう態度をとっていても、いざと言うときはテオドールも動くと信じている。では、ディートリッヒ、頼んだぞ」 「陛下からの勅命、拝命致しました。我が国の名誉にかけて必ずや――」 相変わらずのテオドールの様子にレイヴンもヒヤヒヤしていたが、なんとか事がまとまりとりあえずは息を吐く。まずは自分たちの不在の間の処理をするために、部屋を退出するとお互いに騎士団と魔塔へと戻ろうと一旦解散する。

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