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68.魔塔での準備
魔塔に戻ってきたテオドールとレイヴンは、魔法使いたちに自分たちが不在の間にやっておくこと伝え、備えとして魔法の代わりができる魔石のチェックをしながら、自分たちの準備も同時に進めていた。
「魔物使いの仕業だとして、そんなに簡単に犯人を炙り出せるでしょうか?」
「ヤツは一旦国外に逃げ延びたはずだが、余程自信家な野郎なんだろうよ。俺としては逆にありがたい。より確実にトドメを刺せそうだ」
辺りに漂うヒンヤリとした空気を感じ取ったレイヴンが、テオドールを真面目な顔で覗き込む。
「テオ……どうか穏便に。その気持ちだけで十分です。同じヤツとは限りませんし、情報が少なすぎます。エルフとは同盟関係とは言え、彼らは秘密主義ですから。しかし……より凶悪な魔物だということでしょうか……何にせよ、エルフも自分たちの存在を隠すように空間を歪めているはずですし、住んでいる正確な場所すら分からないはずですよね?」
「エルフの森は結界が特に強固とは言われているが、たまたまなのか、それともエルフの居場所を特定してんのかは分からねぇな。エルフは個体数が少ないはずだろ?エルフの中に裏切り者もいるのかもしれねぇしソイツが結界を壊して、少しずつ攻めあがってんのかもしれねぇ」
テオドールはレイヴンの頭を撫でながら、頭の中で様々な可能性を思案していく。それでもやることは単純明快だと、不敵に笑いかける。
「いざとなったら邪魔なものを全部消滅しちまえばいいんだよ。それで大体なんとかなるだろ」
「……ダメですよ?ホントに。テオが本気を出したらどうなるか……俺だって想像がつきませんから、森ごと全て焼き払いそうだし……」
「ぶっちゃけ、それでいいんだよなぁ」
「ダメですからね?」
テオドールは肩を竦め、冗談だ、とニヤリと笑うが信用できないレイヴンは一緒に行くことができるのが嬉しい反面、テオドールが暴走しないことを祈るしかなかった。
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本格的な準備のために、2人はテオドールの自室でまずは魔法薬を探していた。テオドールは自作で魔法薬を作ることも好きで、暇さえあれば研究室に籠もることもよくあることだった。その薬の内容が良いものか悪いものなのかはテオドールの気分次第で、しょうもないものもあれば、普通に市販されている薬よりも良いものもあった。
「そういえばテオ、2人で行くにしても準備はどうしましょうか?薬系は多めに持っていくことに越したことはないですけど、多すぎると重たいですし……」
「別にそんなに考えなくても、ザックリでいいだろ、ザックリで」
テオドールは欠伸をしながら、その辺りに転がっている薬瓶をポイポイと手にとってベルトに差し込んでいく。その数は普段より多めだが、テオドールにとってはどうということもない量だ。
「それ、中身分かって準備してますか?若干不安が残るのですが……」
「確か魔力 回復薬だろ?こっちは媚薬だったか……」
「ちょっとテオ!それいらない薬!置いていってください!!いらないでしょう?冗談なのか本気なのか分からない薬は禁止です!!」
レイヴンは慌ててテオドールの手から薬瓶をもぎ取った。その様子を見ながらテオドールは楽しそうにケラケラと笑う。手に取った薬を必死に棚に戻そうとしているが、レイヴンの身長だと足りずに背伸びをしている。
「レイちゃんは小さくて可愛いよなァ?必死になってるところがまたいいな」
「人を見て楽しんでないで!早く戻してください!」
「そんなに騒がなくても。っつーか暫くレイちゃんとイチャイチャできねぇのつまんないから、今しとく?」
「ダメに決まってるでしょう?もう、そんなに時間に余裕がある訳じゃないし……」
レイヴンの手から薬瓶を取り上げると元の位置へと戻して、背伸びしたレイヴンの額にチュッと軽く唇を落とす。たったそれだけのことなのに、レイヴンはほんのりと頬を赤く染める。
「だ、だから!そういうことしてる時間は……」
「時間があればしてもイイってことか?」
「……時と場合によります!もう、ほら真面目に支度してくださいっ!」
「拒絶されねぇのがすげぇ進歩……やっぱりサボっていいか?」
その後もやたらと自分に触れてくるテオドールをなんとか躱しながら、レイヴンは時間までに支度を終えようと1人で奮闘し、バタバタのまま騎士2人との待ち合わせ場所へと向かうことになった。
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