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69.まずは中間地点まで

魔塔の2人が準備を終えて待ち合わせ場所へ着く頃には、騎士団の2人が先に到着していた。騎士団の2人も鎧を着込んでおり、遠征用に準備を整えてきたことが伺える。 「来たか」 「随分早ぇじゃねぇか。騎士様は暇なのかァ?」 煽るような発言にレイヴンがテオドールの足を思い切り踏みつける。 「いってぇ!」 「師匠!いい加減にしてください!次、ふざけたことを言ったら……」 「レイヴン、大丈夫だ。コイツが幼稚なのは今に始まったことではないから。私も慣れている」 「……団長、手がプルプルしてるじゃないですか。全く、こんな調子で大丈夫ですかねー」 のんきなウルガーの調子にレイヴンが諦めきったため息を吐く。大げさに痛がるテオドールを無視して、ディートリッヒに向き直る。 「まずはエルフ側から指定された合流位置まで急ぎましょう。師匠の移動(テレポート)という手もありますが……やはり……」 「いきなり現れたりすれば、相手も警戒するだろう。ここは確実に徒歩で行くしかあるまい。馬という手もあるが、最終目的地がどうなるか分からないからな」 真面目に話を続けるディートリッヒとレイヴンとは違い、テオドールとウルガーはどこか人任せで、話がまとまるまで手持ち無沙汰になったウルガーが恐る恐るテオドールに声を掛ける。 「あの、テオドール様。最近、レイヴンはどうですか?俺から見てもちょっと雰囲気が違う感じがしますが……」 「やっぱ分かるか?大分素直になってきたんだよなァ。ベッドの上でも可愛いもんだが、まぁお前には関係ないことか。調教の賜物だな」 「……またそんなこと言うと、今度は逆の足も踏まれますよ?友人としては、好きな人に甘えられるなら良いとは思いますけどね。まぁ、俺としてはこちらに厄介事が来なければ構いませんけど……お手柔らかにしてやってくださいね。アイツ、色々と免疫ないですし」 「俺が無理させると思ってんのか?可愛がってるヤツにはとことん優しい色男な俺に?」 「……早く戻って来てくれツッコミ役……」 ウルガーが話しかけたことを後悔する頃には方針が固まり、文句を言うテオドールをいつも通り放っておきながら4人で歩き始めた。 +++ 城下町を出て、半日ほど歩くと1つの街に辿り着く。その街を越えた先の小さな農村の宿屋で落ち合うことになっていたのだが、そこはまだアレーシュ王国の統治内だ。エルフたちの住むと言われている森は、アレーシュ王国と隣国との境界の辺りに入り口があると言われているのだが、少なくともアレーシュ王国の人間で足を踏み入れた者はいない。 エルフとの同盟を代々の国王が更新する時でさえ、エルフの方から王宮に出向くことはあっても、森へ入ることを許された者はいなかった。 「歩くのかったるいんだよ。別に何とか村までは飛べばいいじゃねぇか。地図に載ってるくらいなら大体の場所が分かるんだしよ」 「歩きながら情報収集も兼ねているのだから、少しは黙って歩け。本当に口の減らない男だな。レイヴン、疲れたらすぐ言うんだぞ?」 「ありがとうございます、ディートリッヒ様。とりあえず街に着いたら宿を取って一旦情報収集してみましょう。もしかしたら魔物の目撃情報もあるかもしれませんし」 「……団長、レイヴンに過保護すぎですよね。相変わらず。俺も宿は賛成ですし、酒場も隣接しているのならば、テオドール様の機嫌も良くなりますからね」 ウルガーの発言にニヤリとワザと笑みを浮かべるテオドールを牽制するように、ディートリッヒが厳しい表情で睨みつける。レイヴンも同じく睨みつけてくるので、やれやれと両手を上げて降参ポーズをして見せた。 「……ウルガー、師匠に余計なことは言わなくていいよ。この人はすぐサボろうとするんだから。お酒も飲ませたら面倒なんだし、たまには真面目に動いてもらうから」 「おいおい、いつも俺が真面目じゃねぇみたいに言うなよ」 「真面目だったことなんて一度もないじゃないですか。いつも適当だし……」 「それはレイヴンの言う事が正しい。テオは放っておくと何をしでかすか分からん。酒など飲ませたら厄介極まりない」 「……堅物が増えるとこれはこれで面倒だよなー」 なんやかんやで息ピッタリの4名は歩きながら絶えず話している。大体はテオドールの普段の行いの注意ばかりで、聞く耳持たないテオドールに対して特にディートリッヒが声をあげていた。ウルガーも時折会話に加わっていたが、のらりくらりの方が性に合っているので、魔物の気配を探りつつ自分のペースで歩いていた。 +++ テオドールがやり込められている間にウルガーが周囲を見渡していると、漸く目的地の街が見えてくる。街の出入り口の門もまだ開いており、問題なく到着することができそうだった。 「いつものやり取りはそれくらいにして、前方に見えてきましたよ。夜になる前に到着できて良かったじゃないですか。まずは一休みしましょう。ね?」 ウルガーの言葉に皆、一旦言い合いをやめて前に向き直り、指し示された方角を見遣る。 「本当だ……話していたから気づかなかった。ここに辿り着くまでは魔物の気配もなく、比較的安全でしたし」 「商売人も往来する通りだからな。ここは魔物よけの魔石も設置してあると聞いたことがある。強い個体は無理だろうが、弱い個体ならば嫌がって近づいて来ないのだろう」 「お硬い話はどうでもいいから、早く休もうぜ。くだらねぇ説教を聞きながら歩いたせいで疲労が溜まって困ってるんだよなぁ」 「はいはい、行きますよー」 仕方なくウルガーが間に入り、ディートリッヒの背中を押して進ませながら先導してズンズンと歩いていく。隙をうかがい、テオドールがレイヴンの手を握るとグイと自分の方へと引き寄せる。 「し、師匠!?」 「俺たちも行こうぜ?そろそろ補給しねぇとやってらんねぇ」 戸惑うレイヴンに顔を近づけて唇に触れるだけのキスを落とす。突然の出来事に対応できなかったレイヴンが数秒固まってから反応して声をあげた。 「見られたらどうするんですか!それに今はそういう時では……」 「んなもん知るか。お前が大きい声あげると、察しの良いウルガーが気付くんじゃねぇか?俺はべつに構わねぇけど」 「こ、この人は……!」 赤い顔をしたレイヴンをひと撫でして満足したテオドールは、レイヴンが文句を言う前に手を繋いだまま先行組の後を追う。

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