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72.裸のお付き合い
「も、ホント……無茶苦茶、すぎる……」
「別に普通だろ?しかし、もう1回洗わねぇとベトベトになっちまったなぁ」
「…………」
プルプルとしているレイヴンが、後手で思いっきりコックを捻る。するとちょうど真上にあったシャワーが思い切りテオドールへと直撃して、頭からずぶ濡れになった。
「お、おま!目に入るだろうが!ゲホっ!喉、入った……」
「……これなら、流せていいでしょう?はぁ……も、疲れる……」
余韻も一緒に洗い流してしまおうと、レイヴンは悶えているテオドールを退かしてシャワーを浴びて身体を改めて洗い流していく。ゴポゴポと音を立てて流れていく中に、白濁が混ざっているのを見ると、以前自分がしてしまったことを思い出してしまい、自然と溜め息が漏れたがずぶ濡れのテオドールは気づいていないようで、すぐに安堵の息に変わる。
「あんなによがっといて、鬼畜かよ……ひっでぇヤツ」
テオドールは縛ったままだった髪を無理矢理に解き、鬱陶しそうに片手で髪を掻き上げる。その様が妙に色気があって、自然と視界に入れてしまったレイヴンが思わず動きを止めた。
「……なんだよ、何、固まってんだ?別に怒っちゃいねぇけど……」
「……何でもないです。やっぱり、髪長いなって思っただけです。そんなにグシャグシャにすると、後で絡まりますよ?お詫びに髪の毛くらいは洗ってあげますから。屈んで?」
「それこそ面倒臭ぇから別に……」
「ただでさえ髪の毛も煙草臭いんだから……洗いっこ、したいんでしょう?」
謎の勢いに押されて渋々身体を屈めるテオドールを見て今度はレイヴンが楽しそうに笑うと、ソープを泡立てて丁寧に髪の毛を洗っていく。
「なぁ?レイちゃんの顔が見えねぇんだけど。それに暇だし、この体勢結構キツイぞ?」
「見てもいいですけど、目に泡が入りますよ?髪の毛長いと、洗いがいあって楽しいです」
声色でレイヴンの機嫌が良さそうなことは分かるが、テオドールは何も見えないために洗われているという感覚しか分からない。指先で頭を揉みほぐすように丁寧に洗っていることは分かるので、心地よいのだが。性分なのか、この状況でジッとしていると手持ち無沙汰になってしまう。
「まぁ……レイちゃんの指が気持ちいいからいいけどよ。今度バッサリ髪切ってやろうかな……でも切れば切るで面倒なんだよなぁ。纏まらなくなるのもうぜぇし。短髪だとディーと被るのが気に食わねぇ」
「テオの髪の毛だと中途半端な長さだと跳ねたりしそうですよね。何となく。俺は伸ばすと女性と間違えられるので……」
「ぁー……確かに」
「……どうせ男らしくないですよ。テオみたいな体つきにならないから仕方ないじゃないですか」
不貞腐れた声色で呟くと、テオドールをシャワーのところまで誘導して髪を流していく。
裸になると余計に体格差が丸わかりなので見ないようにしていたのだが、テオドールはディートリッヒほどではないが、ガッシリとしているのでいつも自分のことも軽々と受け止めてしまう。自分はと言うと、色も白くて全体的に骨格も細い気がする。身長もあまり高くないし、これで声も高かったら女性とあまり変わらないかもしれない。
「あのなぁ。レイはこのままがいいんだよ。ゴツゴツしたヤツを抱いてもしょうがねぇだろうが。男とか女とか関係なく、レイを抱きたい」
「……そう、ですか」
いつの間にか目を開いていたテオドールと目が合う。いつもと違って髪をおろしている姿を間近で見るのは新鮮で、妙に気恥ずかしくなって顔を逸してしまった。
「もしかして、照れてるのか?別に普通のことを言っただけだろうが」
「別に照れてません!その、髪の毛をおろしているのが珍しかったので、きれ……気持ち悪いなって思っただけです」
「誰が気持ち悪い、だ。誰が。お貴族様っぽいっちゃそうだけどよ。カッコイイに決まってんだろうが」
「自分で言わなきゃいいのに……」
チラと視線だけ流してテオドールを見遣り、フッと呆れた息を吐く。
「お前だって自分の見目を自慢してくるじゃねぇか」
「それはワザと言ってるだけです。でも、テオと比べたら……ねぇ?」
「確かに女の子みたいで可愛いもんなァ?俺の前でアンアン言うのも可愛いし?」
「誰がアンアン言ってるって!?そういうこと、他の人の前で言ったら本気でおこ……」
向き直って文句を言おうとすると、頬を両手で包まれて顔を固定されてしまう。自分を見つめているテオドールの視線が優しくて、言いかけた文句が引っ込んでしまった。
「ほらな?やっぱり可愛いじゃねぇか」
「……可愛い、可愛い、連発されても。嬉しくないですから……」
「仕方ねぇだろ。俺にとっちゃ可愛いんだからよ。だから、もうちょっと優しくしてくれって。な?」
「それは……テオ次第、だし。俺も優しくしたいと思ってるのに、テオがいつも適当すぎるから……」
レイヴンが言い淀むと、額に口付けてからニッと笑いかける。
「まぁ、ツンツンしてるとこも気に入ってるからいいけどよ。じゃあ、レイちゃんの髪の毛も洗ってやろうか?」
「いや、テオに洗われるのは色々と問題あるって分かりましたから。ちょっと待っててくださいね」
テオドールに待てをすると、レイヴンはまたソープを泡立てて今度は自分の髪の毛を泡立てていく。待っているテオドールは仕方なくレイヴンを余すことなく、全身を舐めるようにじっくりと視姦する。
「……凄く居心地悪いんですけど……そんなに見られても困るというか……」
「待てって言ったのはレイちゃんだしー?んー。その両腕をあげている角度もイイし、脇がまたイイな。で、腰のくびれからの尻がまたちょうどいい曲線で……」
「あぁぁ~~……発言が気持ち悪い!」
「ホント我儘な姫だよなァ?文句ばっかだし。俺の心が狭かったら傷ついてるところだ」
「傷つくような心は持ち合わせてないじゃないですか。もう、喋るのも禁止にしますよ?」
テオドールを適当に相手しながら、何とか髪の毛を洗い終えると今度こそのぼせる前に風呂からあがることにする。グイグイとテオドールを外に押しやり、タオルを取ってこいと命令して、自分も続いて外に出る。
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