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77.面倒臭がりな魔塔主と関わりたくない副団長

一方その頃―― 機嫌の悪いレイヴンから距離を取るように、指定された果物を買うために街の市場へとやってきたテオドールとウルガーは、他にも日持ちのしそうな食料を買おうかと店を覗きながら歩いていた。 「テオドール様のせいで俺まで巻き込まれたじゃないですか……本当に何したんです?昨日別に何も聞こえませんでしたけど」 「何かあったとしても、お前らに聞かせる訳ねぇだろ。別にいつも通り可愛がってただけなんだがなぁ……何であそこまで不機嫌になったのか分かんねぇ」 「レイヴンは勅命とか、そういう言葉に敏感なんですよ。生真面目ですからね。なのにテオドール様がいつもと変わらないからじゃないですか?どうせ、防音結界張って……してたんでしょう?レイヴン、そういうの嫌がるだろうからなぁ……」 「お前……実は覗いてただろ?」 テオドールの笑えない冗談に、ウルガーは早々降参の意を示し両手を挙げる。 「誰が友人と恐ろしい魔塔主との逢瀬を覗き見しようと思うんですか……俺はどっちかと言えば2人の味方ですからね。団長のことも何なら丸め込みますし」 「流石、副団長さんってか。融通のきかないディーの下にいるだけのことはあるわな。しっかし、レイヴンのことを良く知ってますよ口調は気に食わねぇが」 「友人なんですから、それくらい見逃してくださいよ。テオドール様、もしかして好きになったら束縛激しいんですか?」 「さぁな。正直俺にも良く分からないこともあるんだなコレが。レイヴンに関しちゃどうもそんな感じだなぁ。アイツはフラフラしてやがるし、俺に対して冷たすぎるからどうも他のヤツに笑顔を振りまいてるのを見るとイライラすんだよなぁ。こんなに心狭かったか?俺」 何故、恋愛相談を受けているような形になっているのか。ウルガーはハハ……と乾いた笑いを浮かべて首裏を擦る。 「俺が知っている訳ありませんよ。しかし、テオドール様はレイヴンのことになると凄い執着心をお持ちのようで。もう少し大人の対応をしたらレイヴンの方から寄ってきそうなもんですけどね。レイヴンって優しくされるのに弱いじゃないですか。優しいテオドール様が自分だけのモノだーとか思ったら、すっごいデレそうですけど」 「そう言われると……そうかもしれねぇな。しょうがねぇ、俺がもっと甘々にしてやらねぇとだな。なんだ、お前イイこと言うじゃねぇか」 「……いや、それは、どうも?……一体いつもどんな風にしてたんだ……この人」 背中をバシバシとテオドールに叩かれ、団長なみの怪力に軽く咽ながらウルガーは乾いた笑いを浮かべる。 「新鮮な果物……この辺りか?」 「いいんじゃないですか?俺たちの分もいくつか買っていきましょう。歩きながら食べればいいですし、後は干し肉を少し買い足して、水もか……」 色々と買い慣れているらしく、テオドールが果物を選んでいる間にウルガーが他のものを調達してくる。騎士団の方が各地に出向くことが多いせいか、副団長は様々な雑用にも長けた人物でないと効率よく進められないのだろう。その点ウルガーは気が回るので、よく便利使いされていた。 「いつも使い走りされてんのか?副団長さんよ」 「まぁ、そうですね。団長はこういうのあまり得意ではないですから。俺を含めて大体副団長が仕切ってることが多いですね。魔塔だってレイヴンが仕切るのと一緒ですよ」 「まぁ、そうだな。俺も面倒臭ぇことはしないしな」 「威張らないでくださいよ……大体買い終わりましたし、そろそろ戻りましょうか」 先にリンゴを齧りながら、テオドールがヒラと手を振って返事をする。こういう振る舞いがレイヴンをヤキモキさせるのだろうと思いながらも、ウルガーも買った食料を袋に詰め、背負ってしまうと合流地点へと向かい歩き始めた。 +++ レイヴンとディートリッヒが話していると、用事を済ませてきたテオドールとウルガーが2人の元へと戻ってくる。 「おかえりなさい。って、師匠……何でリンゴを食べてるんですか……」 「なんとなく?レイちゃんの分もあるぞ」 ウルガーに向けてテオドールがぶっきらぼうに手を伸ばすと、ウルガーがはいはい…と言いながらリンゴをもう1つ取り出した。 「――風の刃(ウィンドカッター)」 テオドールが呪文を紡ぐと、ウルガーの手からリンゴがふわりと浮かび、均等に切られていく。おまけに何か細工を施すと顎でレイヴンを示す。意味を理解したレイヴンが両手を出すと、等分に切られたリンゴがレイヴンの手のなかに収まる。 「ほう?そういう使い方もあるのか」 「団長、別に魔法は攻撃特化な訳じゃないですから。魔法使いは日常生活でも使うそうですよ?よく料理の時にはいて欲しいって言うじゃないですか」 ディートリッヒが関心していると、レイヴンが切られたリンゴを見て思わず笑いだした。 「何コレ…っ…し、師匠、何でウサギの形にしたんですか?似合わないー!」 「ホントだ……リンゴの皮が、ちゃんとウサギになってる……ぶっ!!」 「おい、お前が笑うんじゃねぇよ。子どもの頃にやってもらうだろ?ウサギちゃん」 「……しかし、テオとウサギとは……」 ウルガーとディートリッヒまで笑い出すので、テオドールは不機嫌そうに、ケッと悪態を吐くが、レイヴンを見ると先程までのツンツンした雰囲気から、楽しそうな雰囲気に変化していたので、テオドールも自然と目元を和らげた。

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