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78.過保護な野営準備
街を出て合流予定となっている村を目指して歩き出した4人だったが、目指す村までは距離があるため、途中野宿する必要があった。買い足した果物を食べながら談笑している余裕もあったが、日が暮れてくると流石に疲労の色が見え始める。特に1番体力のないレイヴンは足取りが少々重たくなってきているのを皆、感じていた。
「レイちゃん、疲れたならおんぶしてやろうか?抱きかかえるのもいいけどなぁ」
「……遠慮しておきます。この中だと確かに1番体力はないですが、夜までに野営するのに良い場所を見つけておかないといけませんから。もう少し、いけます」
「我々は遠征に慣れているからな。この程度では大したことはないが……おい、ウルガー。わざとらしく荷物が重いフリをするな。大したものは背負わせてないだろう」
「そんなこと言って、団長の方が荷物少ないじゃないですか。テオドール様なんて手ぶらですよ?手ぶら。レイヴンですら袋を提げているのに……」
ウルガーがレイヴンの袋を指差すと、テオドールは鼻であざ笑い自身のマントとローブをめくって見せる。すると、中に大量の瓶を差し仕込んだベルトが垣間見え、さらに幾つかのアクセサリーを身に着けていた。
「仕方ねぇから必要最低限は持ち歩いているって訳よ。落ち着いた場所なら魔塔のものも幾つかお取り寄せできるかもしれねぇがな。面倒臭ぇんだよ。で、ジャラジャラ付けてんのは魔力 関連のモンだな。もっと説明して欲しいか?」
「……いえ、結構です。うわぁー……脱がせると怖い人だった。そんなに薬がいるのかは謎ですが、仕込んでるんですね。怖い怖い。しかもお取り寄せって……」
テオドールが軽く言うことは、誰しもできるものではなく。魔塔主だからこその芸当なのだと思い知り、ウルガーもお手上げの仕草を取る。その様子にレイヴンが苦笑して追加で説明を続ける。
「師匠は余計な薬も持ち歩いているだろうけどね。魔法使いは色々強化する装備が主だから、重装備を身に着けない分、魔力 関連の装備が重要なんだ」
「へぇー。そこまで注目したことはなかったから何か新鮮だ。魔法使いもある意味重装備なんだな」
様々なことを言いながらも各自目線は周りへと配られており、警戒は決して怠ってはいない。暗くなってきた森の中を慎重に進み、水場が近い開けた空間に辿り着くと、テオドールとレイヴンで防御結界を張り巡らせて、まずは安全を確保する。
その間にディートリッヒとウルガーとでテントを張り、薪を組んだところでテオドールが魔法で火を付けた。
「これで寝首を掻かれることはねぇが、魔物に囲まれたら打って出た方が早いだろうな。こんなところまでいちいち討伐しにくるのも面倒だろ?騎士様よ」
「放置して別の場所に行かれたら、人々にとって脅威になることは間違いない。我々で速やかに殲滅する。念のために俺が火の前で番をするから、食事を取ったら皆、順番に休んでくれ」
「団長は?」
「後で仮眠を取る。テオドールもそれでいいな?」
「俺はレイちゃんを寝かしつけたら先に寝るわ。お前が仮眠を取る時にウルガーと一緒に起きてればいいだろ」
話が進んでいくが、自分が含まれていないことに気づいたレイヴンが口を挟む。
「ちょっと待ってください。私だけずっと休むなんて、そんなことできません。ディートリッヒ様こそ万全の体調でいなくては……」
「俺はこういう時すぐに寝付けなくてな。それでも交代して休むのだから問題ない」
「そうそう。団長は立ったままでも眠れる人だから」
「しかし……」
レイヴンが抗議を続けていると、テオドールがレイヴンの髪をかき混ぜて撫で回す。
「ちょっと、師匠!」
「喋ってる間に時間も過ぎちまうんだからよ、適当に食って寝ちまおうぜ?俺が仕方なくディーの代わりをしてやるって言ってんだから。お前はお子様らしく寝ておけって」
「誰がお子様ですか!全く……」
テオドールに乱された髪を直しながら皆の顔を見回すと、どこか微笑ましげな空気を感じて気恥ずかしくなる。過保護な空気にウルガーがさらにダメ押しの口火を切る。
「レイヴンが寝ないと、みんな寝ない感じだぞこれ。俺の睡眠のためにもレイヴン、今は素直に聞いておいた方がいいと思うけど?」
「……分かりました。でも、何かあればすぐに起きますから。その、皆さんのご厚意に甘えさせて頂きます」
レイヴンが納得したところで簡単な食事が始まり、明日の予定を少し話し合うとまずは魔塔の2人が休むことになった。テントは2つしかないため、本来であれば1人ずつ休むはずなのだが、テオドールがレイヴンを寝かしつけると言って聞かないために狭いテントの中で2人が抱き合う形になってしまった。
「……テオ、あちらで休んだ方が絶対に休まると思うのですが」
「レイちゃんは俺の胸の中が安心するんだろ?」
「それは……でも、この状況では……」
「いいからいいから。余計なことは考えねぇで、ちょっと眠っとけって。それとも何か?密着してるからこそ……」
テオドールの不穏な発言に、怒りますよ?と睨みつけてレイヴンも仕方なく目を瞑って大人しくする。結局身体は疲れていたためか、テオドールの体温を感じながらそのうちに静かな寝息がテオドールの耳にも届くようになった。
「……やっぱり眠かったんじゃねぇか。ま、俺も一眠りすっかな」
欠伸をしてから起こさぬようにレイヴンの髪にキスを落として、テオドールも仮眠を取るために瞼を閉じた。
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