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80.決着

※戦闘シーンの為、少々暴力的・残虐な描写が含まれています。苦手な方はご注意ください 浅黒い肌の中心にある顔はニタァと笑っているようにも見えるが、自然と嫌悪感を抱く雰囲気でレイヴンは少々吐き気を催すくらいだった。 「大丈夫か?確かにアレは気持ち悪ぃな。作ったヤツの顔を拝んでみたいもんだ。どうしてやろうか……一気に消滅させちまいたいところだが」 「……すみません、大丈夫です。見ていて気分の良いものではありませんが、オーガではありませんね……トロル、か?」 テオドールがレイヴンの背をさすってやりながら、頭の中でどの魔法を使おうか順に構築していく。距離が縮まるオーガに対し、ディートリッヒが視線でどうするかとテオドールに合図を求めると、鼻を鳴らして呪文を紡ぎ、別の保護魔法を全員にかけていく。 「これは……」 「何か、1枚服を着たような感じがしますね。でも重さは感じない。テオドール様、何ですかコレ?」 「有害な液体を防ぐ保護魔法ってとこだ。身体保護(ボディーコーティング)。時間制限はあるが、コイツらを倒すくらいの時間なら余裕だ。コレで思う存分暴れてこい。ま、研究用に1体は回収させなきゃダメだろうが」 「これなら接近しても安全ですね。また怪我を負ってご迷惑をおかけする訳にはいきませんから。とりあえず1体の動きを止めないと……土の波(アースウェイブ)!」 レイヴンが素早くしゃがみ掌を地面へと当て魔法を唱えると、土がうねり1体のオーガへと向かっていき、そのままオーガの足元を捉えてバキバキと固めていく。 「止まりゃあいいが……チッ。土じゃダメか」 テオドールの舌打ち通り、オーガはグォォと雄叫びをあげると足を持ち上げて拘束を解こうともがく。それでも一瞬の隙を狙ってディートリッヒがオーガの膝を切り飛ばそうと、両手で剣をしっかりと握り込むと走り込んで、ブン、と力を込めて一閃する。 「……グッ、うおぉぉぉっ!!!」 皮膚が強化されているためか、切り飛ばすことは叶わず。それでも力付くで薙ぎ払おうとするディートリッヒの頭上にオーガの腕が振り下ろされる。 「団長のゴリ押しでも通じないとか、硬すぎ……っ、だろうが!!」 援護に入ったウルガーが剣で腕を受け止める。重い一撃に足が地面へとめり込み、腕が震えている。それでも剣は手放さないが、キツイ状況に変わりはない。 「ウルガー!」 「――魔力強化(マナブースト)――雷の槍(サンダーランス)」 テオドールが左手でレイヴンを強化し、右手で雷を放出してウルガーたちが対峙しているオーガに向けて追撃を放つ。雷は槍の形を持ってオーガに降り注ぎ、騎士たちを避けて串刺しにしていく。 「オ゛ッッオ゛、オォォォ……ォォォァァァァ」 中心にある顔が人間の耳では聞き取れないような声を放ち、苦悶の表情へと変わる。 ディートリッヒが渾身の力で片足を掻っ切り、ウルガーが剣を流して胸元へと突き刺す。体勢を保てなくなったオーガは、ズン……と切れた太腿で無理矢理立ち尽くすが、動きは鈍い。 「「――凍れ(フリーズ)!」」 残るもう一体が口をカパリと開けて、炎を吐こうとするのに気付いたテオドールとレイヴンがほぼ同時に同じ魔法を放つ。レイヴンは足元に、テオドールは口元へと、お互いにオーガの身体を凍らせていく。 「さっすが息ピッタリ!こっちも、いい加減、倒れろって!!」 ウルガーが剣を引き抜き、今度は逆側の胸を思い切り突き刺す。ボタボタと血が滴り落ちると地面がジュッと嫌な音を立てて焦げていく。 「……テオの保護がなかったら攻め込めなかったな。しかし、コイツまだ倒れないのか……ック!」 ディートリッヒは血に当たらぬように、気をつけながらもオーガが事切れるまで攻撃の手は緩めない。残った足も切り飛ばそうと力を込める。苦しみもがく腕は、ウルガーが上から剣を振り下ろし、容赦なく叩きつけた。 「しっかし、ここまでしてもまだ動くとは。どれだけの生命力なんだ!?」 騎士たち2人が部位攻撃を仕掛けている間、もう1体のオーガを封じこめようと冷気を放ち続けていた魔法使い2人だが、レイヴンが少し辛そうに片目を瞑る。 「……いくら初期魔法とはいえ、ここまで抵抗するだなんて……!」 「ったく、無傷で捕獲するのは面倒なんだよなァ。仕方ねぇ、ちょいと気合いれるか」 片手でレイヴンの腰を抱き、驚いたレイヴンと手を合わせるとニヤリと笑んでみせた。 「――絶対的な氷結(アブソリュート フリージング)」 威力を増した冷気がオーガの身体を包み込み、標本のように四角く囲む。体毛の1本1本までも凍らせていく冷気は、漸くオーガの生命活動自体を封じ込める。 「そんな器用な芸当もできるんですね……師匠。それに、また専用魔法作ってるし……」 「おいおい、それ褒めてねぇだろ?もっと褒めてほしいもんだなぁ……っと、アイツらは生きてるか?」 魔力(マナ)の放出を収め、騎士たちの方へと視線を向けると、ちょうどオーガが地面へと倒れ伏したところだった。騎士たちの激しい攻撃に四肢の千切れたオーガの死体が出来上がる。 「おーおー。派手にやってんな。ディーよ」 「……予想以上にしぶとかったな。しかも体液は猛毒だった。大地が汚れてしまうほどにな」 「はぁ……テオドール様の魔法がなかったら、俺たちもドロドロに溶かされるところでしたよ。どういう物を作ってるんだよ、全く」 ディートリッヒが周囲の安全を確認し、戦闘が終了したことを告げる。テオドールが二重の確認のために捜索(サーチ)をかけるが、同じく魔物の反応はなくディートリッヒも安堵の息を漏らした。 ブンと剣を振って不浄な血液を飛ばす2人だが、念のため剣を洗ってくると言い残し、後始末をテオドールたちに一旦任せて近くの水場へ向かうことになり、残った魔法使い2人で状況の報告をするために記録媒体の魔道具を取り出した。

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