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87.待ち合わせ場所
出発した後の道中は特にこれといった問題もなく、日が落ちる前にエルフに指定された村まで辿り着くことができた。村は慎ましやかな農村と言って差し支えない、小さな村だった。それでも国境付近で立ち寄れる休息地の1つであり、アレーシュ王国の砦もあることから、騎士の姿は見慣れているようで奇異の視線を向けられることはなかった。
「この村に立ち寄ったことがあるのは団長だけですよね」
「そうかもな。テオは通りすぎたことはあるかもしれないが」
ディートリッヒがテオドールに話を振ると軽く肩を竦め、覚えてねぇ。と適当に返事をする。
「師匠は色々なところに行ってたんですよね?」
「まぁ、国の情勢が落ち着くまではな。あっちこっち行かされて面倒だったことくらいしか覚えてねぇけど」
ゆったりと歩いていると、道の先に宿屋らしき建物が見えてくる。どうやらここが待ち合わせ場所として指定された宿屋で間違いなさそうだった。念のためにレイヴンが近くにいた村民の女性に話しかける。
「すみません、この村の宿屋はこちらの宿屋のみでしょうか?」
「はい。そうですよ。この村の収入源の1つですからねぇ。宿屋だけは大きくしようって村長さんが張り切って大きくしたんです。今日は何だか綺麗な子がよく来るのねぇ」
「ありがとうございます。綺麗とは……見た目がってことですか?」
「綺麗な金髪の男の子と女の子だったのよ。あなたは黒髪がツヤツヤしていて賢そうだけどねぇ。待ち合わせをしているって言ってたのよ」
世間話には笑顔で、ありがとうございます、と、レイヴンが返答し、金髪という言葉に目配せして、皆で頷き合う。レイヴンが改めてお礼を述べて、女性を見送った。
「どうやら先に来ているみたいですね。2人組でしょうか?」
「そのようだな。エルフは一般的に金髪の持ち主が多いと言われていることが多いし、見目麗しいともあれば間違いないだろう」
真面目に会話を交わす背後で、ウルガーがチラとテオドールを見て声を掛ける。
「レイヴンも賢そうで綺麗な子ってことなんだな。審美眼あるな、この村の人。そう思いません?テオドール様」
「なんで俺に振るんだよ。レイちゃんの無駄に高評価な見た目は今に始まったことじゃねぇだろうよ」
「いや、城下町の人たちだけ特別にやたらとレイヴンを褒めるのかと思ってたんですけど。やっぱりパッと見が整ってるってことですか?」
「だから、俺に聞くなよ。本人に言ってやれ。ご自慢なんだからよ」
どうでも良いやり取りをしているのがレイヴンにも聞こえたのか、クルリと振り返る。
「お褒め頂きありがとうございます。エルフの皆様と同様に褒めて頂けるとは光栄ですね。はい。無駄に高評価な見た目で申し訳ありません……こんな感じでいいですか?もう、しょうもないこと言ってないで、行きますよ?」
「全くだ。レイヴンは賢いし、見目が整っているのは当然のことだ。何を当たり前のことを言っているのやら。それでこそ、レイヴンだろう」
レイヴンが適当な返しをしたのに、横にいるディートリッヒは普通にレイヴンのことを褒め称えるので、居た堪れなくなったレイヴンが羞恥に耐えられずに頬を赤く染める。
「うわぁ……何か言い切っている人がいる……」
「なぁに、レイちゃんの点数稼ぎしようとしてんだよ。これだからお父さんは」
元々緊張感のない雰囲気だったが、恥ずかしながらも他愛のないやり取りで緊張が解れたレイヴンは、ありがとうございます。と、ディートリッヒにお礼を言って、微笑みかける。
「何、真実を言ったまでだ。さあ、客人を待たせるのも悪い。中に入るとしよう」
ディートリッヒの一言で、再度気を引き締めてゆっくりと宿屋の扉をくぐった。
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