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89.エルフたちの状況

全員が席に着くと、レクシェルが静かに話し始める。 エルフが住んでいる森はまず入り口に結界が貼られているのだが、その結界付近の森が最初に魔物たちに荒らされてしまい、魔物たちに蹂躙されることで、精霊たちとの繋がりが弱まって、結界もだいぶ弱ってきているらしい。 「その森の奥に、私達の住んでいるエルフの里があるのですが。これ以上森が荒らされてしまえば、魔物たちは里まで入ってくることになるでしょう」 「我が国に書簡を送ってきた経緯は、やはり疑われているということか?」 ディートリッヒが少々強めの口調で伝えると、レクシェルが、申し訳ありません、と、また謝罪を述べた。 「一部の長老たちは悪意ある人間の仕業だと言っていて、それが近隣諸国の仕業だと思っているのです。私達の森は広く、空間も距離感も魔法で調節したところに位置しているのですが。森と触れている面積が多いのが、皆様がいらっしゃるアレーシュ王国なのです」 「まぁ、領土という意味ではそうだろうけどよ。なんつーか面倒なんだな。エルフも。人間の貴族みたいなヤツはどこにでもいるんだな」 椅子に背を預けたまま怠そうに足を組み直し不遜な態度をとるテオドールに対しても、レクシェルは気にした様子を見せない。テオドールは内心観察していたのだが、これくらいの上辺の態度では動じないのを見て、漸く興味を持って改めてレクシェルの緑の瞳を見遣り、話の続きを促す。 「ですので、不本意だと思いますが。我々としても共に魔物退治をして頂き、魔物とアレーシュ王国は無関係である、ということを示して頂くのが早いのではと思い、不躾ながら書簡を送らせて頂いた、という訳です」 「そうは言っても、その魔物っていうのは今も森の辺りをウロウロしてるんですか?俺たちも確かに来る前に妙な魔物には襲われましたけど。黒幕と言っても、そう簡単に尻尾を出すとは限らないし、ずっと野宿して見張れと言われましても……」 ウルガーが暗に寝床は用意されているのか、泊まり込みでやらなければいけないほどなのか?と探りを入れるような口調で伝えると、そうですね……とレクシェルが考え込む。 「ウルフやゴブリンなどは我々でも問題はないのですが、合成獣(キメラ)は厄介で。里の手練たちも命からがら何とか逃げ帰ってきたのですが、何人かは傷口から入った毒で亡くなりました」 「やっぱり、アイツらがマズイ奴らか。そんなに数はいねぇと思ってたが、アンタのところにもいたってことか」 「突然現れて……武器が通じなかったのでどうにもできずにそこでやられてしまったのです。要の精霊魔法が使えなくなってしまって。私たちが使えるのは他は基本魔法のみですから。里長の魔法で何とか飛ばすことくらいしかできませんでした」 「飛ばしただぁ?じゃあ、それが俺たちのところに現れた可能性もあるのかよ。全く、他の村とかに飛ばされなくてよかったけどよ」 テオドールの言い分が概ね正しいのだろうと、皆、顔を見合わせて目線で同意する。 その様子を見ていたレクシェルが、まさか……、とテオドールの前に歩み寄る。急に近寄られたので、テオドールも何だよ?と目線を合わせた。 「もしや、あの気味の悪い合成獣(キメラ)を倒したのですか……?」 「1体は氷漬けにしてやったけどよ。そろそろ回収してんじゃねぇか?俺とコイツで氷像にしてやったから、死んでるだろ。もう1体は、こっちの筋肉たちがトドメもキッチリさしてたな」 「さすがは、噂に名高いアレーシュ王国の2強ですね。我々辺境に住むエルフの耳にも、その武勇伝は届いていましたが。実際にお会いして聞くのはまた違いますね」 「そりゃあ、どうも。俺ももう少しマシな通り名を付けてもらいたいところだがなァ」 ニィと得意げな笑みを浮かべるテオドールを見て、レイヴンも苦笑しているがテオドールの凄さは自分が1番良く知っているので、心の中では誇らしげに思っていた。 「となると、もしかしたら1番厄介な魔物はいなくなったかもしれません。どちらにしても掃討してしまうのならば、今が1番良さそうです。ご協力願えますか?」 「元々そのつもりで来ているのだから。異論はない。我々の潔白を証明して、エルフたちとも歩み寄りたいというのが陛下の願いでもあるからな」 ディートリッヒが間髪いれずに答えたが、テオドールでさえも渋々了承する。テオドールとしてはこんな厄介事は終えて、レイヴンにいつでも触れられる状態に戻ることが最優先だからだ。 「はい、その時は勿論、私が皆さんを里へとお連れします。里長はどちらにしても皆さんとの対話を希望しています」 「対話ですか。聞いている限り人格者なようですし、私もお会いしてお話してみたいですね。でも、黒髪で大丈夫なのかが不安ですけど……」 「先程の話でしたら、忘れてください。私が何も言わせないようにしますので」 「ありがとうございます。本当にいつものことですから」 またテオドールが食ってかかることがあれば、今度はエルフの里が消し飛んでしまう可能性すらあるので、テオの挙動にも気を配っていかないといけない。 「大体理解した。では行こうか」 ディートリッヒが席を立つと、順に皆立ち上がっていき、いよいよ問題の森へと向かうことになった。

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