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91.争いの跡

騎士2人もいつでも剣を抜けるように手をかけて先行し、魔法使いたちは念のために強化(ブースト)防御(プロテクション)を全員にかけていく。 「念には念をいれておくか。また趣味の悪いヤツが出てくるかもしれねぇからな」 テオドールは追加で、先程も使用した身体保護(ボディーコーティング)もかけ終えると、すぐに捜索(サーチ)を辺りにかけてレイヴンと共に右、左で気配を探っていく。 「捜索(サーチ)には生きてるヤツは引っかからねぇ。この付近にはいないみたいだな」 「生きている気配や息遣いは感じられないが……」 テオドールとディートリッヒの2人でも探れない気配なのか、それとももうこの場にはいないのか。少しずつ近づいていくと、臭いの正体が目の前に現れる。 「これは……やりあった後のようだが。すごい数のラットだ。しかも変異種も混ざっている。コイツらが悪臭を放っていたようだな」 「何とか撃退したみたいですけど、コイツらと剣でやり合うのは嫌ですね」 騎士の2人が屈んで調べていると、上からテオドールも一緒になって覗き込む。 「まぁこの焦げ臭い感じは魔道具を使ったんだろうな。エルフさんたちは武器って弓だったか?」 「ええ。皆、狩りをするために弓を覚えますから。剣を使う者もごく僅かですが、一応おります。あとは魔法を使う時は杖を通して使用しますが……この数では、魔法を唱える余裕はなく、仕方なく炎属性の魔道具を使ったのでしょう」 森の地面一面にラットの死体が転がっている。数百はいるだろうという多さとむせ返るような死臭に、覗き込む3人とも口を布で抑えている。レイヴンやエルフ2人も例外ではなく、自然と手で口を塞ぐ動作を取る。 「だが、ここには死体しかねぇな。結界を守っているエルフたちごと消えたのか?」 「そんな訳ないでしょう?残念ながら、この先の結界へと行ってしまったのかもしれません。ここまで来たら行くしかありませんね」 師匠と弟子で炎魔法を使い、数匹を残して全て焼き払ってしまう。先と同じように数匹は原因究明ようの処置を施してから、何も言わずに先に進んでしまっているハーリオンをまた追いかけるように、2つ目の歪みをくぐった。 「ここまで来てしまうと、里にだいぶ近づいています」 ずっと早足で歩く続けていると、今度は声が聞こえてくる。どうやら此処で何者かと争っているらしかった。 「この、この……!」 「狙いが定まらない!もう、魔道具はないぞ!」 必死に何かと戦っているエルフの声なのだろうか?ずいぶん若い声が聞こえてきた。先に到着していたハーリオンが彼らを下げて、自分が矢面に立つ。目の前には先程と同じラットの群れが、順番に飛びかかって襲いかかっているのが分かる。 「炎の波(ファイアーウェイブ)!」 レイヴンが先に炎魔法を唱え、炎の波を生み出して森を燃やさないようにコントロールしながら、地にわらわらとしているラットたちを焼き払う。 「数が多いが……あそこにいるラットは……変異種だな?しかもかなり大きな」 言うが早いか、剣を抜き放ったディートリッヒが足元からわらわらと身体に登ってくるラットたちを薙ぎ払い、そのまま小走りで距離を詰めて、変異種の子供の背丈ほどのラットへと斬りかかる。 「ギ、ギィエッッ」 不快な声を出して、べしゃり、とその場に崩れ落ちる。すると、その体液で地面がジュワと音を出し、草が溶けると同時に嫌な臭いを撒き散らす。 「強くはないけど、数が多いのが、厄介ですね!」 一言、二言、三言―― ウルガーは話しながら、纏わりつくラットを丁寧に剣で振り払っていく。質量で攻めてくるラットたちに対しての決定打が足りてないことに気づいていたので、魔法使い2人の指示に従うことにしようと、テオドールに目配せする。 「どうすっかな。どれでもいいんだけどよ。一気にやりてぇよな」 テオドールは不敵な笑みと共に詠唱に入る。その詠唱に気づいたレイヴンが重ねるように一緒に詠唱に入った。2人の声は全く違うし言ってる内容も違うのだが、唱え終わるのは同時になったので同じタイミングで発動する。 「炎の渦(ファイア ボルテックス)」 「水の雨(ウォーターレイン)!」 テオドールが放った炎は渦となって、なめるように地面から根こそぎラットを燃やすことはできた。あとは森が焼けないように放たれたレイヴンの魔法で、地道な消火活動を行う。

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