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93.魔塔主の真骨頂
3つ目の歪みを超えると、目視でも分かる位置に光り輝く結界が見えてくる。
テオドールとレイヴンが辿り着いた時には数体の魔物が結界の前で暴れており、先行していたディートリッヒとウルガーが互いに別の魔物を相手にし、その他の魔物はエルフの2人で何とか凌いでいる状態だった。
「あれは……また合成獣 !?一体何体いるんですか……」
「また違うヤツの掛け合わせか?って……喋ってる暇もなさそうだなァ?」
暴れている魔物は猪のような頭と熊のような頭を2つ生やした巨人だ。身体は黒い毛に覆われており、多少の切り傷程度では怯むこと無く剛腕を振り回している。
「かったい……って!!皮膚が硬すぎて攻撃が通らないんですけど!?」
「いいから攻撃の手を緩めるな!このままでは結界を破られるぞ!」
騎士の2人が合成獣 への攻撃の手を緩めずに、何度も、何度も、斬りかかっているが、皮膚が強化されているのか、傷つきはしているが斬り落とすまでいかずに少々弾かれてしまう。それを見た魔法使い2人で呪文を紡ぎ、弱化の魔法をかけていく。
魔法の効き目はあったのか、不可視の力が働き、先程よりかは攻撃が通るようになる。
騎士たちの斬撃は、皮膚を切り裂き、容赦なく部位を吹き飛ばしていく。
エルフたちも仲間たちを守り合いながら、合成獣 へ、弓を引いて矢を放つ。
「師匠、ここは師匠の力が必要だと思います!俺もサポートしますから!」
「弟子の許可が出たからには、デカいの1発お見舞いするかァ?」
レイヴンが足止めのための氷の 弾丸 を何発も打ち込んでいる間に、テオドールが呪文の詠唱に入る。
その言の葉は、戦闘中だと言うのに、低く、さらに深く――
騒々しい森の中でも圧倒的な力を持って響き、この空間ごと徐々に温度が下がってくる。
レイヴンが詠唱の速度に合わせ、皆と連携して残った合成獣 をテオドールの方へと誘導していく。最終的にはテオドールの背後に全員が回ったところで、テオドールが手のひらを突き出して、冷えた空間の氷の粒を凝縮していく。
息が白くなるほどに冷え切った空間は、まるで別世界のように外側から銀色に染まっていく。
ピキ、ピキ、と最初はゆっくりだったものが、手のひらに凝縮されていくものが大きくなればなるほどに、ビキビキと音を立てて、その場にある全ての物を凍らせていく。
皆が凍りつく前に、レイヴンが自分たちの周りに防御結界を張って、冷気の侵入を阻むがそれでも全ての寒さは防げない。吐く息の白さが、温度の低下を実直に伝えてくる。
「――絶対零度 」
力を持って放たれた魔法はその場で弾け、周囲の木々、地面、そして合成獣 。
生命活動をしていたモノたちは、放たれた冷気で瞬時にして氷の氷像と化す。
先程まで動いていたのは嘘のように、流れていた時すらも凍り、空間ごと閉じ込められてしまう。
凍る とは比べものにならない暴力的な冷気は、もう少しで里の結界すらも凍らせてしまうほどの範囲で森を凍らせてしまった。
「こんなモンだな。レイヴン、他に何かいるか?」
「……いいえ。全ての合成獣 は凍ったようです。生命活動は周囲にも感じられません」
鎧の上から身体を擦っていたウルガーも、1番前に出て寒さから皆を守っていたディートリッヒも、レイヴンに同調して頷き同意する。
「暴力的とまで言える氷……先程の空間の歪みのところまで冷気が伸びている」
「ありがとうございます……!里に侵入されずに済みました。これもテオドールさんを始め皆さんのおかげです。ありがとうございます」
レクシェルが礼を述べると、テオドールもニヤと笑い、ヒラヒラと手を振って答える。
「まぁ、森も凍っちまったがな。暫くは見世物にしておけばいいんじゃね?」
「師匠……見世物って……まぁ、いいです。森が凍ってしまったことについてはどうするか話し合いましょう。一部溶かすならば溶かさないと」
「まあ何にせよ、その里長だかに会わねぇと。だろ?」
ディートリッヒに同意を求めると頷いて肯定する。その話を受けてレクシェルが頷き、そうですね、と、同じく賛成したようだ。
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