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99.静かな祈り

レイヴンは自分の中で力を収めてしまうと、ゆっくりと身体から力が抜けていく。 慣れない力を使ったせいかどっと疲労感が襲いかかってくる。 「こういう感じなんですね?初めて使ったにしてはうまくできたかな……」 そう言ってから、更に猛烈な眠気に襲われたレイヴンがふらっと倒れそうになる。クレインとテオドールが片手ずつ出して2人で身体を支えた。 「一気に解放したから、身体に負荷がかかったかもしれない。眠れば問題ないはずだ」 「まぁ、色々と衝撃的だったもんなぁ。なぁ、悪いが俺たちも泊めてもらえねぇか?レイヴンはココでも、俺らは別の場所で構わない。まぁ、俺はレイヴンと一緒にいたいがなぁ」 「ダメです……テオ。テオも、休まないと……」 半分寝かけているレイヴンが、独り言のように訴える。その様子にテオドールも苦笑して、分かった分かった、とレイヴンに言い聞かせるように頭を撫でた。レイヴンは安心したのか、そのまま眠ってしまい、静かな寝息をたてはじめる。レイヴンのローブを脱がせ多少寛がせた服装にすると、2人でベッドへと運び、優しく横たえた。 「そうだな。恩人をもてなすとまではいかないかもしれないが、元々休んでもらうつもりでいたのだから問題ない。この建物の中にも幾つか部屋があるから、そちらを案内しよう」 そう言ってクレインはテオドールを連れて一旦外に出る。 レクシェルが別の部屋にディートリッヒとウルガーを案内していたので、まずはその部屋で合流することになった。 部屋の扉を開けた瞬間、縮こまって座っていたディートリッヒが身体を跳ねさせて素早く行動に移る。 「レイヴンは……レイヴンは大丈夫なのか?」 テオドールに掴みかかる勢いでディートリッヒが近づくと、テオドールが面倒臭そうに身体ごと押し返す。 「近いんだよ、全く。レイヴンは大丈夫だ。今、眠ってる」 「良かった。団長がずっとうるさくて困ってたんですよ。心配なのは分かるけど、レイヴンは、レイヴンは、って」 そのやり取りを見ながらクレインが微笑する。レクシェルはクレインが自然と笑うのに驚くが、テオドールは余裕の笑みを浮かべてディートリッヒをしっ、しっと、冷たくあしらう。 「俺も疲れたから、泊まらせてもらおうって話をしてたところだ。詳しい話は直接レイヴンから言うだろうから、今は休もうぜ」 「お前は全て聞いたのだろうが、こっちは何もできずにヤキモキしていただけだ。なのに、お前ときたら……!」 「団長、1人熱くなっても皆さんを困らせるだけですから。レイヴンを寝かせてやりましょうよ。レイヴンのことだから、きっと話してくれますよ」 先程見た光景のようにウルガーに説得されたディートリッヒが渋々引き下がると、改めて客室を案内されて、今日はこの建物内で全員眠ることになった。 +++ 数時間後―― レイヴンは薄暗い部屋の中で目を覚ます。 見慣れない部屋に今日起きた出来事を思い出すと、不思議な気持ちだった。 偶然父親との再開を果たして、自分はハーフエルフだと知らされて。 それでもどうして良いかは分からずに召喚魔法まで使えるようにはなったものの、展開が急すぎてまだ完全にはついていけない。 ただ、恨む気持ちよりかは嬉しい気持ちでいっぱいだった。 捨てられていたというのは、自分だけではないしそれこそ悲しいがよくある話だ。 それでも、そうせざるを得ない理由を迫られて、必死に守ってくれたという事実が分かっただけでも救われた気がする。 母親は亡くなってしまったけれど、父親に会うことができたのが奇跡だと思った。 「あれ……そういえば、この部屋って……」 辺りを見回すと、美しいブロンドが月明かりに照らされているのが見えた。 窓の縁に腰掛けて、外を眺めているだけで絵画のような美しさだ。 「……起こしてしまったか。まだ眠っていていいのだぞ?」 「もしかして、俺がベッドを使ったから眠る場所がなかったのかと思って」 「大丈夫だ。気にしなくていいから、もう少し眠るといい。私はカナリーにも届くように、もう少し祈るとしよう」 「ありがとうございます。それじゃあ、もう少し」 そう言い残し、レイヴンはまた眠ってしまう。 無防備に眠る姿を晒しているのを見てクレインは幸せそうに笑うと、また窓の外を眺めて静かに祈り始めた。

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