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100.憤る騎士団長と珍しい魔塔主
翌日――
皆で集まって食事をすることになり、長机を囲んでのエルフの里の簡素な食事を楽しむことになった。自然に手に入るものが多く、野菜や果物、木の実などが多く使われており、肉や魚は狩りをして手に入れる貴重なものとあって、食卓にはあまり出てきていない。
食事を運んでくれたエルフが退出すると、野菜の入ったコンソメスープを飲んでいたレイヴンはその手を一旦脇に置き、この場にいる面々に自身のことを全て自分の口から説明した。
ディートリッヒとウルガーを含む、クレインから信用がおける側近の1人と聞いて納得のいったレクシェルにも伝えることとなった。
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「そうでしたか……私は里長から少しだけお話を聞いたことがありましたので。ご子息がいる、ということは知っていましたが。それがレイヴンさんだったとは……」
「俺も、何となくの予想はしてたんだけど。偶然とはいえ良かったな、レイヴン」
レクシェルとウルガーに恥ずかしそうな笑みを向けたレイヴンだったが、ディートリッヒは未だ何かを考えこんでいるのか、食事の手を止めて動かない。それに気づいたテオドールが、おい、と声をかけた。
「ディー。食事が不味くなるような顔で黙り込むのはやめろ。レイヴンが気にして飯が喉を通らなくなるだろうが」
「そんな、俺がくいしんぼうみたいなことを言わないでくださいよ……ディートリッヒ様が受け入れられないのも無理はありません。俺だってまだそこまで実感があるわけではないんですから。それに、ディートリッヒ様からしたら特殊な存在で、同じ人間ではない訳ですし……」
レイヴンの遠慮気味でどこか勘違いしている発言を聞いて、違う!と叫んだディートリッヒが両手をバン!と机の上に叩きつける。その音の大きさに対して、全員が少々面食らって動きを止めた。
「あのなぁ……落ち着けっての。そんなに暑苦しくしたらエルフの姉ちゃんも引くだろうが」
「す、すまない。違うんだ。レイヴンがそんなに大きなものを背負って生きてきたと分かっていなかった自分自身の不甲斐なさにどうしようもなくてな。レイヴンはいつも俺の前では笑顔で話しかけてくれていることが多かった。それも気遣いだったということにすら気づけなかった未熟さが……」
「ディートリッヒ様……」
ディートリッヒの真面目さ故の言葉に、レイヴンも何と声を掛ければいいのか分からない。確かにディートリッヒの前ではいつも笑顔でいなくては、と自分も心がけていたからだ。微妙な空気が流れる中、ウルガーが間に入る前に珍しくテオドールが頭を搔きむしりながらディートリッヒに声を上げる。
「あーあー、面倒臭ぇ!ホント面倒なヤツだなお前は。レイヴンが可愛いか、可愛くないか。それくらい大雑把でいいんだよ。レイヴンがハーフエルフだとしたら、お前は差別でもするつもりか?」
「する訳ないだろう!レイヴンはレイヴンだ。今までもこれからも変わりない」
「ならいいじゃねぇか。分かったならもういいだろ。可愛がってやれば」
2人のやり取りをパンを食べながら見守っていたウルガーがレイヴンをちら、と見て、レイヴンにだけ聞こえるくらいの声色でボソボソと話し始める。
「……珍しくテオドール様がまともなことを言っている……俺、無事に帰れるかな……」
「たまにはまともなところもないと困るから。俺、今回は一緒にいてくれて良かったと思ってるよ。師匠がいてくれたから、俺は何だか事実を素直に受け止められた気がする」
レイヴンが恥ずかしそうだがどこか嬉しそうに微笑する姿を見て、ウルガーはその素直さに数秒固まり、自然と見せる微笑みには破壊力が相変わらずだ、とチラ、とテオドールの様子を確認してしまった。
「うわぁ……レイヴンまで。俺、無傷で帰れる気がしない……」
肩を竦めたウルガーにレイヴンがあのねぇ、と苦笑したところで、鹿肉のローストを齧ったテオドールがウルガーを行儀悪くフォークで指し示す。
「おい、そこ。大体何言ってるか分かってるからな?ウルガー、後で覚えてろよ?」
「おーこわ。テオドール様に感謝を、って言ってただけですよ。団長も落ち着いたようですし、今は食事を楽しみましょう。俺も色々あって腹減ってるんで」
ポンポンと飛び交う会話に面食らっていたクレインだったが、レクシェルが耳元で、楽しそうで何よりですね。と呟いたのが聞こえると、微笑して頷いた。
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