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101.思うことは皆一緒

食事も終えた面々は改めて外敵がどうなったのかをクレインに告げて、頻繁に魔物が現れるようになった原因究明についてはまたお互いに行き来をしながら情報を共有して継続して調査することにし、テオドールが凍りつかせてしまった森の一部については、いつ魔物が動きだすか分からないということでエルフ側で凍りついた一帯の空間を歪めて人目につかないようにし、厳重に管理することになった。 「最近の一連の魔物については、恐らくテオドールが言っていた召喚陣が原因の一端なのだろう。何のために我々を刺激したのかという目的については明らかになっていないが」 「まぁ、小手調べ、的な意味合いが1番だろうがな。自分の実力についてのお披露目みたいなふざけた感じがするんだよなァ。例の召喚陣だって隠してたって感じじゃなかったしよ。見つかってもいいが、どれだけできる?っつーのを試してる感じがな」 「だからといって、師匠じゃなかったら壊せませんでしたよ。あの禍々しい召喚陣は。見たところで近づいて召喚された魔物に取り囲まれたら終わりですから」 珍しく真面目に議論している面々は一旦話を区切り、全ての話を持ち帰るためにアレーシュ王国へ帰還することになった。レイヴンはクレインとしばしの別れになるため、親子水入らずの時間をと、全員の意向でその場へと残し。テオドールと騎士2人は先に身支度をするために与えられた部屋へと戻る。 装備を身に着け帰還する準備をほぼ終えたところで、ディートリッヒの部屋の扉が叩かれる。どうぞ、と返事をすると、入っていたのはディートリッヒより早く身支度を終えたらしいテオドールだった。面食らいながらディートリッヒが入るように勧めると、テオドールは無遠慮に椅子を引いてドカリと腰を下ろした。ディートリッヒも気になっていることがあったが、先に自分が声を発する前にテオドールが口を開く。 「なぁ、ディー。悪いが陛下にはまだ黙っておいてくれないか?お前がそういうことができるヤツじゃねぇのも分かってるが。外敵のことが解決するまでは知られたくねぇんだよ。レイヴンは道具じゃねぇし、余計なことを言って何かあれば。俺は国と友を敵に回したとしても、レイヴンを守るつもりだ」 「テオ、お前……」 テオドールの珍しく真面目な口調に内容はさておきディートリッヒも真剣な面持ちで考え込む。テオドールとは思いが違えど、レイヴンのことを案ずる気持ちは自分も一緒だ。まして苦しんでいたかもしれないのに気づいてやれなかったことに腹を立てていたばかりだ。 「本来であれば陛下の御前で隠し事をするなど、国家反逆罪と捉えられてもおかしくはないが。レイヴンの場合は様々な事例が重なり、偶然判明したということもある。それに見方を変えればレイヴンと里長が親子関係であるならば、我々としてもその繋がりを生かした方が国にとっても損にはならないはずだ。逆にレイヴンに不利益なことが課されるのならば、エルフたちも黙ってはいまい。エルフ側もレクシェル殿以外はこの事実を知らないと聞いた」 「言い方がまどろっこしいな。で、黙っててくれるのか?」 テオドールの鋭い視線がディートリッヒに刺さる。ディートリッヒは暫しの沈黙の後、静かに頷いた。 「俺もお前の意見が正しいのだと思う。報告すべきことではあるが、今ではない、という判断だ。あと……レイヴンにはレイヴンらしく自然体で過ごして欲しい」 「ま、お前の前ではアイツは子猫ちゃんだろうがな。それもレイヴンだし、子どもみたいに泣きじゃくるのも、クソ真面目に振る舞うのも、全部レイヴン。だろ?」 「……そうだな。全くお前のレイヴンに対しての執着には頭が上がらんよ。気持ち悪いをとうに越えているな」 「褒め言葉として受け取っといてやるよ。俺自身、ここまで入れ込む予定じゃなかったんだがなァ。これだけ一緒に過ごしてると情も湧くし、最早それだけじゃねぇってこった」 ニイと笑うテオドールを見ていると素直には受け取れないが、レイヴンを想う気持ちは別の意味で負けたくないと張り合ってしまう自分もいて。ディートリッヒも苦笑する。 「お前、本当に変わったな。昔はもっと自己中心的で周りはどうでもいいという空気を撒き散らしていた。自暴自棄なところも減ったし、鼻につくところは相変わらずだがそれでも昔に比べればマシだ」 「気持ち悪ぃから俺のことまで分析するんじゃねぇよ。逆にお前は昔っから融通の利かない面倒臭ぇ堅物だよな。それでもレイヴンが関わると自分を捻じ曲げるってんだから、お前もそういう意味では変わったのかもな」 「違いない」 気の置けない者同士の会話が終わる頃、再度扉が叩かれる。入りますよ?という声と共にウルガーも室内に入って来た。 「テオドール様が先にいるなんて珍しいですね。もしかして団長と話でも?俺、もう少し席を外しましょうか?」 「気にすんな。俺が言いたいことは言い終わった」 テオドールがヒラと手を振ると、ディートリッヒも頷いて同意する。 「俺も大体言い終わったところだ。後はレイヴンを待つとしよう。暫くは離れ離れになるだろうしな。折角会えた肉親との時間を邪魔したくない」 「レイヴンにとっては唯一の肉親ですし。色々なことを置いておいて、今は甘えていいと思うんですよね。アイツ常に我慢するし、この際だから言いたいことも言えばいいんですよ。きっと受け止めてくれますって。エルフの里長は心が広そうでしたし」 「何百年とか生きてんだろうから、これくらい余裕だろ。父親なんだからよ」 皆思うところは同じなのか、顔を見合わせて笑い合う。レイヴンが何者であれ、ここにいる者たちは過保護なくらいにレイヴンのことを思っているなと、テオドールも改めて楽しげに笑んで、レイヴンがいる方角へと顔を自然と動かした。

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