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102.深い絆

レイヴンとクレインは様々な話をしていた。その話は傍から聞けばどうということはない、家族の話だ。 住んでいた家はどうだったか、母親のカナリーはどんな人物だったか、今のクレインはどのような生活を送っているのか。レイヴン自身の話もしながら、短い時間ではあるが親子水入らずで貴重な時間を過ごすことができたせいか、2人の間の遠慮した雰囲気は和らいでお互いに自然と笑い会えるようになってきた。 「話すことは尽きないが、レイヴンにはレイヴンの生きる場所があるだろう。私はいつでもここにいる。里から離れることはできないが、いつでもお前を見守っている」 「ありがとうございます、お父さん。お互いに辛くて忘れられないことはあるけれど、俺は会えて本当に良かったです。テオが一緒ならきっと近くまで飛んでこられるから、また顔を出しに来ます。なんて、我儘を言ったら聞いてくれるのかは気分次第でしょうけど」 「そうか。彼は移動(テレポート)を会得しているのだな。この里にもテオドールの名前は聞こえてきていたのだが、本当に我々の予想以上の使い手なのだな。――それでは、レイヴンにこれを。受け取ってくれ」 クレインはそう言うと薄緑色の葉の装飾が施された小さな小箱をレイヴンへと手渡した。レイヴンがそっと開けてみると、中にはセルリアンブルーの魔石のあしらわれた小さな1枚葉の耳飾りが入っていた。金素材で作られており、小ぶりだが品の良い耳飾りは華美でもなく自然な作りだ。 「これは……?」 「これを身に着けていれば私と会話をすることができる。魔石には精霊の力が込められているから、精霊の力の及ぶ範囲であれば会話することが可能だ。後、里へと続く結界を通ることができる力もあるから、いつでも訪ねてきなさい。レイヴンならば我らの作り出した空間の歪みを越えて、里の入り口まで迷わず来られるはずだ」 「ありがとうございます。大切にしますね。俺からは何も渡せる物が今ないので、今度来る時に何か持ってきますから」 「そんなに気にすることはないが、レイヴンが選んでくれた物ならば喜んで頂こう」 レイヴンが嬉しそうに小箱を胸に抱くのを見て、クレインも優しい表情でレイヴンの頭を撫でる。出発前に時間をもらったとはいえ、長居しすぎては別れが惜しくなると。レイヴンも少しだけ寂しそうに見上げて笑いかけた。 優しい時間が流れていたが、ふと、クレインが悩むような仕草を見せたあと、躊躇いがちに口を開く。 「そういえば……テオドールから聞いたのだが。彼とはその……師弟関係だけでなく、それ以上の関係、恋人だ、と……」 クレインの話を聞いて思わず小箱を落としかけたレイヴンは慌ててギュッと抱きしめるが、顔を真っ赤にしたまま口をパクパクとして動けない。ギギギと音がなるのではというくらいに不自然に首を動かしてクレインを何とか視界に捉える。 「大丈夫か?いや……私も驚いたのだが。テオドールが普通に言うものだから、そうなのか、と思ってな」 「あ、あ、あ……あの人、何、とんでもないことを、俺の知らない間に言ってくれてんだよもうっ!!本当に、そんなことを言ってたんですか!?」 「しかしレイヴンのことをとても心配していた様子だったし、愛している、とハッキリと言っていたから。私も驚きはしたのだが彼の行動を見ていて納得はした」 「はぁっ!?あ、愛してるとか、言ったんですか!?あぁぁぁ……ホント、何言ってるの、あの人は……俺にどうしろと言うんです?泣きたい、隠れたい、恥ずかしくてどうしよう……うぅぅ……」 レイヴンがうろたえて感情を顕にしてそわそわと動き回り、落ち着きがなくなってしまったのを見るとクレインもどうして良いか戸惑っていたが。隠れたいと言う気持ちを組んで優しく抱きしめて顔を自分に埋めさせる。テオドールとは違う、慈愛に溢れた優しい温かさに少し落ち着きを取り戻したレイヴンは目を閉じて、両腕を回して甘えるように顔を寄せた。 「父親としては複雑な気持ちなのだが、2人の絆は私では計り知れない絆なのだろうと思っている。だから、私からはとやかく言うつもりはない。彼がレイヴンのことを大切に思っている気持ちに嘘はないのだと、短い間話しただけだが十分に理解はしているつもりだ」 「そうですか……あの、何というか。すみません。でも、俺もその……一緒にいたいと思う気持ちは嘘ではなくて。好きとか、愛してるとか、そういうのは置いておいたとしても。テオの隣にずっといられたらって、思ってます」 「レイヴンは元々テオドールを補佐する役目なのだろう?だったら側にいて支えてあげなさい。それが彼の望みでもあり、レイヴンの望みでもあるのだから」 もそもそとまだ赤い顔を上げてクレインを見上げると、レイヴンは心から嬉しそうな笑顔を見せる。その笑顔にクレインも微笑を向けて愛おしげに髪を撫で、親愛のキスを落とす。 「……そろそろ行きますね。また来ます、お父さん」 「あぁ。いつでも待っている。また会おう、レイヴン」 もう一度抱きしめ合い、別れを名残惜しむとレイヴンが手を振りながら後ろは振り返らずに歩き出し、クレインもレイヴンの背中が見えなくなるまでその場で静かに見送った。

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