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103.漸くの帰路にて

レイヴンも皆と合流し、無事にエルフの里を出発する。 空間の歪みを超えるために森の外まではレクシェルが同行し、来た時と同じように案内してくれることになった。 「ハーリオンも実は来たかったみたいなのですが、他にやるべきことがありまして。今回は私だけがお見送りさせて頂きます」 「歪みに関しては我々だけでは元の場所に戻れないからな。手間をかけるがもう暫くよろしく頼む」 「貴重な場所に行ったんだから、もう少し長居したかったですけどね。まぁ、里長様もウチと仲良くしてくださるみたいですし、それもこれもレイヴンのおかげか」 ウルガーが振り返りレイヴンを見て笑うと、レイヴンも恥ずかしそうに笑いかける。横にいるテオドールも遠慮なくレイヴンの頭をポンポンと撫でると、ちょっと!といつも通りの調子で噛みつくが、結局照れながら受け入れてしまう。そんなレイヴンにテオドールも満更ではなく愉しげに笑んで、嫌がるレイヴンの髪の毛を更にかき混ぜる。 「皆さんと少しの間ですがご一緒できて良かったと思います。こちらが失礼な書簡を送ったのに、ご足労頂いただけではなく、我が里を救って頂き本当にありがとうございます。これからはぜひ親交を深めていきたいと人間の王にもお伝え下さい」 「まぁ、面倒だったが来た甲斐はあったしな。綺麗な姉ちゃんとも知り合えたし、文句はねぇよ。ま、レイヴンに危害が加わるようなことがあれば別だがな」 「ちょっと、師匠!レクシェルさんを脅すような言い方をしないでください。そうそう簡単に全てのエルフの皆さんと分かりあえる訳ないじゃないですか。それに、俺なら大丈夫ですから。ちゃんと分かってくださる方もいるんですから。ハーリオンさんとか」 レイヴンが名前を出すと、そうですね、と、レクシェルも微笑する。その微笑みは初めて出会った時よりも自然なもので、テオドールもニィと笑んで返す。 話しながら来た道を進んでいくと、気づいた時には始めの森まで到着していた。 森は来た時と同じように静かで、不穏な出来事などなかったかのように木々が静かに揺れているだけだ。 「私がお送りできるのはここまでです。後は道へと戻れば村まで戻れるはずですから。どうかお気をつけて。後、こちらを人間の王へとお渡しください」 レクシェルが腰に身に着けていたバッグから、円盤型の魔道具を取り出してディートリッヒへと手渡す。通信用の魔道具だが素材が普段見るものとは少々違い何かしらの鉱物で作らえたもので、中心に緑の魔石がはめられていた。 「これは?」 「我々との通信手段としてお渡し致します。魔石に触れていただくことで長が持っている魔道具に繋がります。出られずとも通信が送られてきたことは分かりますので、こちらから改めて連絡することも可能です。どうぞお持ち下さい」 「確かにまだ全て解決した訳ではないからな。これからは共同戦線ということでよろしく頼む」 ディートリッヒはウルガーへと魔道具を渡すと背負ったバッグへと丁寧に仕舞い込む。 レクシェルは最後に皆に向けて一礼すると、静かに森の中へと消えていく。 「あー……何か疲れましたね。テオドール様に乗っかればすぐに帰れます?」 「俺を便利扱いするんじゃねぇよ。誰が馬だ。移動(テレポート)できなくもねぇが、この人数は調整が面倒臭いし、1人ずつと何度も往復してたら魔力(マナ)がいくらっても足りねぇっての」 「ここまで来るのに距離もありましたし、師匠は簡単にやってのけますけど移動(テレポート)が使える人は師匠以外知りません。ポンポン飛び回っているように見えますけど、それは師匠が異常だからです。という訳で、ウルガー。気持ちは分かるけど普通に帰るしかないと思うよ」 「テオドール様も人の子だったか。じゃあ、どうします?帰りは歩きじゃなくてもいいのなら、馬でも調達しますか。あの村には確か馬宿もあったはずだし、砦も近いから城への急ぎの連絡手段として伝令が使うこともあると見込んで、いつも用意してるんじゃないかなと」 村への道を歩きながらウルガーの提案も含めて、ディートリッヒも暫し思案する。テオドールは考えることが面倒臭くなったのか、いい加減欲求不満なのか。ずっとレイヴンにちょっかいをかけては文句を言われていて役に立ちそうにない。ウルガーも最終決定はディートリッヒだと言わんばかりに、後は両手を頭の後ろに回して気楽に歩を進めるばかりだ。 「そうだな……村で馬を借りて一気に街まで行けば半日で着けるだろう。今からなら飛ばせば夜にはアレーシュに着けるかもしれない」 「そうと決まれば行こうぜ。煙草も吸ってねぇしいい加減限界なんだよ」 「それはぜひそのままやめてください。その方が俺は嬉しいです」 各々言いたいことを言いながら行きとは違った和やかな雰囲気で村までの道を進む。

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