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106.国王への状況報告

王宮の近くに飛んできたテオドールとレイヴンはその足で国王へと報告に向かっていた。謁見を申し出たところ、執務室を指定されたので今日も長い廊下を歩くこととなった。 扉の前の騎士に挨拶をし開けてもらうと、中には国王と宰相のアスシオが何かを話しているようだった。扉が開いたことに気付くとこちらに視線が向く。国王も気づいて中に入るように促した。レイヴンは最上級の礼をして、テオドールは適当に執務室へと足を踏み入れる。 「王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます」 「今帰ったところだ。もうすぐアイツらも来ると思うが、報告に来た」 相変わらずの態度のテオドールに耐えられないアスシオが思い切りテオドールを睨みつける。テオドールはいつものことなので知らんふりをするが、余計にアスシオの怒りを買う。 「テオドール、陛下の御前だ。無礼な言葉は謹め」 「良い。私が許しているのだ。テオドールが丁寧に話すのを聞くのも忍びない。その顔だと成果は少なからずあったようだ。申してみよ」 テオドールとレイヴンとで今回のことを順に説明していく。レイヴンの出生の絡みは一旦伏せておき、起こった事実と関係性の変化についてを主に報告する。 「そうか。ご苦労だった。見事疑いを晴らし、エルフと親密な関係を築いていく第一歩となったようだ。まだ全てが解決していないにせよ、共同戦線の約束まで取り付けるとは」 「言われたことは全てこなしてきたようですね。まぁ、我が国の精鋭を派遣したのですから当然と言えば当然ですが。随分と関係が良くなったものです」 アスシオの指摘に内心ヒヤリとするレイヴンだったが、追撃が来る前にディートリッヒとウルガーも執務室に入ってきた。 「王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。ディートリッヒ・アーベライン、他3名。陛下の勅命を果たし、帰還いたしました」 「同じく、ウルガー・ボーネマン。王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます」 「よくぞ無事に戻った。今大体の報告は聞いたが、エルフから魔道具を受け取ったと聞いた」 「はい、こちらに。この魔道具で直接通信ができるとのことです」 ウルガーがレクシェルから預かった魔道具を国王に献上する。まずは危険がないかアスシオが手に取って簡単に検分をし、安全を確認してから国王に手渡した。国王も物珍しげに観察し、満足げに頷く。 「後で早速挨拶しておこう。皆、大義であった。暫しの間休んでくれ」 「お心遣い痛み入ります」 ディートリッヒが丁寧に対応しているなか、テオドールがレイヴンに顔を寄せて耳打ちしてくる。国王の前で大胆な行動を平気でとり続けるテオドールに注意するところだが、何か急を要するといけないので仕方なく静かに耳を傾ける。 「良かったな、コレでレイちゃんを抱き潰しても大丈夫だなァ?」 「だ、抱きつぶ……し、信じられない。何言ってるんだこの人は!」 叫びそうになったので慌てて自制したが、予想していたテオドールがレイヴンの周りにだけ防音結界を展開したので独り言はテオドールにしか届かない。それも含めてレイヴンは表情に出そうになるが今はグッと我慢して努めて冷静を装い、失礼のないうちに礼を述べて退出する。 「無事に終えられて良かったな。まだ黒幕や目的については分からないが、テオの言う通りならばまた向こうから仕掛けてくる可能性が高いな。俺も待っているのは性に合わないし攻めていきたいところだが。何せ正体不明ではな」 「エルフの森に仕掛けたっつーことは、戦力の確認か、前にも言ったがお披露目か。どっちにせよ国を滅ぼしてやろう、とまでは感じねぇんだよな。計画だとしたらずさん過ぎるんだよ。ガキがいきがって創ったモノを見せたがってるとしか思えねぇし」 苦々しい表情を隠さずに苛立ちを見せるディートリッヒと、面倒臭そうにしているが心の奥底では徹底的に潰そうと思っているテオドールの雰囲気に耐えかねたウルガーが両手をあげて息を吐く。 「なんですかそれは。余計に厄介じゃないですか。俺は平和に過ごしたいだけなのに」 「ウルガー……発言が何か年寄りくさい。それはとても良いことだけど、俺もヤラれっぱなしなのは嫌なので。こちらから作戦を練って引きずり出すのも手かなと。何にせよ準備をと整えてからですね」 補佐官と副団長でそれぞれ抑えに入り今はとりあえず休息をと、魔法使い2人も王宮を後にする。 「緊張していましたけど、勅命は無事に果たせて安心しました。エルフの皆さんと繋がりもできたし……って。テオ?あ……待って、凄い嫌な予感が……」 「何だよ、嫌な予感って。戻るぞ」 有無を言わさずにレイヴンの腰を抱いて飛ぶと、テオドールの自室のテラスに着地する。着地した途端にレイヴンはグッと身体を寄せられて、気づいた時には上を向かされて唇を奪われる。 性急で乱暴なキスにレイヴンも動けずに暫く貪られてからやっと開放されるが、ある程度予想してたこととは言え、あっさりと陥落しかけている自分が恥ずかしくなって分かりやすく顔を背けた。 「おいおい、これくらいで音をあげられたら困るんだがなぁ?」 「……わ、分かったから…逃げないから……その……せめて装備を外して身綺麗にしてからに……」 「面倒臭ぇなぁ。でもまあ、身軽になった方がヤりやすいよな。そうするか」 「……はぁ。もう、今回はお礼の意味を含めてですからね?そんなに俺はテオとその……したい訳じゃないですからね?」 あくまでもテオドールがしたいからを強調してくるレイヴンに笑いながら、それでも漸く何も気にせずに可愛がることができると、テオドールはレイヴンを自室の中に引っ張り込んだ。

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