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109.久しぶりの休日

宣言通りにテオドールに何度も求められたレイヴンは、何回目かで気を失ってしまい気づいた時にはテオドールの腕の中にいた。目が覚めても身体は怠く動くのも億劫だったので少しだけ動いて状況を探ろうと身じろぎする。 「……今、どういう状況……?」 そっとテオドールの様子を伺うと、どうやら眠っているようだ。目を閉じていると普段の姿が影を潜めて穏やかな大人の男性に見える。起こさないように自分も寝てしまおうかと胸元に顔を寄せると、優しく髪に触れる手が髪を梳いた。 「気が付いたか?」 「はい。けど、途中からあんまり覚えてなくて……」 「イイ声で鳴いてたしご褒美にたくさん構ってやったら、やたらと好き好き言うんだもんなァ」 「……記憶にないです」 自分の顔を見せないようにレイヴンがさらに密着すると、クツクツと笑う愉しそうな声が降ってくる。それでもテオドールが撫でる手付きは優しいので、レイヴンとしては文句も言いようがなく。顔の火照りが治まるのを待つしかない。 「暫く動く元気がありませんけど……」 「俺も大分搾り取られたし、いいんじゃねぇの?」 「だから、言い方……でもこれでテオが満足したのなら、いいです」 「俺だけみたいな言い方してるが、レイちゃんもだろ」 レイヴンの顔を上向きにさせると、ほんのり染まった顔で、困ったような視線を漂わせていた。コッチを見ろ、と一言言うと、素直にジッと見上げてくる。 「で、愉しんだのは俺だけだって?」 「それは、その……俺も、テオに触れられるのは、嫌じゃない、です……って。もう、何度おなじことを言わせるんですか」 「そりゃあ、何度も聞きたいからに決まってるだろ?素直なレイちゃんには優しくしてやらねぇとな」 額に唇を触れさせて笑いかけると、たまにあるテオドールの優しい雰囲気にレイヴンが耳まで赤くし始める。恐る恐る自分の両腕をテオドールに回して照れ隠しのようにまた胸元に埋まってしまった。 「今更何を照れてんだよ」 「だって、そんなに余裕を見せつけられてしまうと……どうしていいか分からないです」 「言っておくが、レイちゃんが煽ってくるとそこまで余裕はねぇからな」 「そ、そんなに煽ったりしてません!というか、覚えてないので!」 ムキになって声を上げるレイヴンに、分かった分かった、と安心させるようにポンポンと背中を撫でてやる。 「俺がどうなっても、テオはテオだから。それなら、いいです」 「何だそりゃあ?まぁレイちゃんもレイちゃんだから別にいいだろ。あー……このままもう一眠りするか。昔は一晩中でも相手できたんだがなぁ」 「こわ……一晩中とか、拷問じゃないですか……。俺は、たまにでいいです」 少しだけ抱きしめる力を強めたレイヴンも、眠ってしまおうと目を瞑る。照れながらも甘えてくるレイヴンを猫のように身体を撫でて甘やかすと、テオドールもこのまま寝てしまおうとレイヴンの髪の毛に顔を埋めて両目を閉じた。 +++ 結局次の日の朝まで2人で熟睡してしまい、元々休暇ではあったのだが自分に活を入れようと思ったレイヴンはシャワーを浴びて気分を一新してから、楽な部屋着に着替えて何とか気合を入れる。 まずは腹ごなしに何か作ろうと、室内を見回して物色し始めた。 「そうは言っても、後は余っている保存食とチーズくらいか……あ、パンがあった。今はサンドイッチくらいしかできそうにないですね」 「今買い出し行くのは面倒だな。とりあえずそれで食っとくか。少し休んだら街に行って何とかするか」 レイヴンの背後からひょいと覗き込んだテオドールも、机の上に転がしていたパンを手に取って、匂いを嗅ぐ。どうやらカビは生えていなさそうだ。 「そうですね。俺も買い出ししないと。また暫くは外出しませんし、溜まっている書類も片付けないといけないし……あんまり休んでもいられませんね」 「どうせ今日は何もする気も起こらねぇし。別に書類なんてほっぽっておけばいいのによ。それより、レイちゃんは体調平気なのか?」 「相変わらず適当なんですから、もう。万全ではないですけど、歩けないほどじゃないです。その……跡とか隠さないとですけど」 「気にし過ぎだと思うがなぁ。まぁ、いいんだけどよ」 首筋に付けておいたキスマークにチュッと口付けると、レイヴンが肩を揺らして振り返る。 「もう、ワザとでしょう!?」 「いいじゃねぇか。公然の事実だし」 「そういう問題じゃないです。俺の気持ちの問題です」 「分かったって。そんなに睨まなくてもいいのによ。じゃ、まぁ適当に腹ごなししたら買い出し行くか」 レイヴンの頭をグリグリと撫でてから、テオドールも共に軽めの朝食の準備に取り掛かることになった。ナイフを持たされると、パンを切っておけと指示を出される。笑いながら素直に従い、硬めのパンを齧りつける程度の大きさに切って皿に並べていく。 「ホント挟むだけですから適当に。干し肉はそのままの方がいいかな……テオ、豆食べれましたっけ?」 「別に食えるけど、豆ってあんま味しねぇんだよな。そんなのしかねぇのか」 「味付けするにしても、大したものないですし。これ茹でたものの瓶詰めだから、塩、こしょうしてちょっと炒めれば何とかなるかも。塩気が欲しいなら干し肉齧ってください」 「質素だなぁ……まぁ、いいや。チーズもあるしなんとかなるだろ」 ああでもない、こうでもないと言いながら、何となく出来上がった不格好なサンドイッチたちを2人で摘む。淹れたての紅茶と珈琲が唯一、日常を感じられるものだと。ふわりと香る優しい香りにレイヴンも実感が湧いて、心がホッと温まる気がした。

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