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110.いつもの城下町
簡単な食事を終えてから、テオドールとレイヴンは街に買い出しに行くことにした。
念のためにローブを着込み、他愛のない話をしながらゆったりと歩く。
久しぶりの城下町はいつも通りの賑やかさで2人を向かえてくれた。
「食料の買い出しでいいですよね?」
「とりあえずはいいんじゃねぇの?俺らがいない間アイツらも一応魔法の練習と研究はしていたみたいだしな」
「騎士ほど魔法使いは忙しい訳ではないですから。各自がしっかりと行動していれば問題はないはずですけど……」
「まぁ、役割分担はしておいたし。休みが終わったら仕方がねぇから見てやるか」
歩きながら果物屋の前を通りがかると、目のあった女性が笑顔で手を振ってきた。レイヴンも笑いかけて軽くお辞儀をする。
「レイヴン様!今日はテオドール様とご一緒ですか?」
「はい、ちょっと買い出しに」
「なんだぁ?俺がいたら邪魔か?」
「そんなことないですよ!仲睦まじい感じで羨ましいです。お2人がいつも良くしてくださるから私たちも安心しているんですから。あ、今日も新鮮なのが入ってきてますのでいかがですか?」
何気ない一言に密かに照れたレイヴンを見てニィと笑い、機嫌を良くしたテオドールがいくつか果物を買って紙袋を受け取る。呆けていたレイヴンの肩を叩いて挨拶を済ませると、また食材を探しに市場をのんびりと散策する。
「何、照れてんだよ。別に俺とお前が一緒にいたって不自然じゃねぇのに。アレか?もっと深い仲だと……」
「い、いちいち言わないでいいですから!分かってますよ、もう」
「そうやって反応するからからかわれるんだろうが。まぁ、俺は楽しいから問題ねぇけどな」
「俺で遊ばないでくださいよ……ほら、お野菜も見るんですから!」
自然と早足になるレイヴンの背中を追って笑いながら、テオドールもご機嫌に後をついていく。宣言通り野菜もいくつか購入し、テオドールの両手が塞がる頃にいつもの酒場へと顔を出して昼食を頂こうと扉を潜る。
「こんにちは、ハリシャさん」
「邪魔するぜ」
「暫く見ないと思ってたけど、元気そうだね。今日は人もいないし、ゆっくりしていきな」
昼時が過ぎたせいか今日は珍しく2人以外に店内に客がいなかった。元々酒場なので昼から来るのは女将目当てか料理目当てかにはなるのだが、女将の言葉に甘えるように荷物を席に置いてカウンター前を陣取った。
「朝から簡単なものしか食べていなくて。少しお腹が空いちゃいました」
「そうかい。それなら食べごたえのあるものを用意しようか?ちょっと待ってな」
「俺は一杯やるからよ。まずはビールくれビール」
「昼間からこの人は……」
呆れるレイヴンをよそに女将もドン!とテオドールを黙らせるようにテオドールの前にビールのマグを突き出す。テオドールも気にせずサッと手に取り一気に煽る。
「ぁー。やっぱコレだよなぁ。うめぇな」
「このオッサン……どれだけ飲みたかったんだよ……」
「飲むヤツなんてみんなこんなもんだよ。補佐官様はこういう大人になるんじゃないよ」
「大丈夫です、俺はお酒あまり飲めませんし。師匠とは違いますから」
キッパリと言い切るレイヴンに、テオドールもひでぇなぁ?と適当に返し。それでも注がれたお替り分のビールをチビ、と一口飲んで満足げに笑う。
出されたハムをひょいと手で放りこんで咀嚼しながらまたのんびりと酒を嗜み、チラとレイヴンを見遣ると、出されたコーンスープをお行儀よく飲んでいてまた笑う。
「……なんですか?さっきから。ちょっと気持ち悪いです」
「おいおい、言い方よ。可愛いなと思ってな」
「……酔いが回るの早すぎません?ねぇ、ハリシャさん」
「アンタが可愛いのはみんなそう思ってるけど、魔塔主様は確かに見る目も気持ち悪いねぇ。気をつけな、こういうのはタチが悪いんだからね」
レイヴンが女将に話を振ると、女将も視線を2人に順に流して肩を竦める。
話しながら刻んだ野菜と生米をサッと炒めた女将は、具合を見ながら調味料を足して蓋をする。待つ間にレイヴンにもレモネードを出してスープのお替りを装う。
「全く、女将も容赦がねぇよな。俺にもレイヴンに向ける優しさの欠片でいいから寄越せってんだよなぁ。まぁ、いいけどよ」
言うだけで気にした風もないテオドールは料理ができる前にビールを追加で2杯開け、レイヴンも出された温野菜をつまんでいると、ふいに店内に良い香りがふわりと漂ってくる。
蓋をずらした女将が、米の具合を見るために摘まんで味見をする。
程なくしてざっくりとかき混ぜると、皿に盛り付け2人の眼の前にトン、と出す。
「へぇー。米を炒めてんのか。うまそうだな」
「簡単だけど腹にはたまるよ。さ、食べとくれ」
「うわぁ……美味しそうですね。頂きます」
細かく刻まれた野菜が米と混ざり合った炒めご飯は、食欲を唆る香りがして自然と顔を綻ばせたレイヴンが渡されたスプーンを手に取って、はふはふと口へと運ぶ。相変わらずニヤニヤとレイヴンを見ているテオドールを女将が軽く小突くと、大人しくテオドールも料理に手を付けた。
「美味しいですね!俺も今度作ってみようかな?」
「そうだなぁ。米はいいよな。ガツガツ食べられるしな」
「それは良かったよ。まだたくさんあるから食べておくれ」
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、のんびりとした昼食の時間を楽しむ。些細なことだけど帰ってきたのだな、と実感すると妙に安心してレイヴンは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
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