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111.甘いものも一緒に
食事を終えると2人は女将に礼を言って席を立つ。会計を済ませたところで女将がレイヴンに小さな紙袋を手渡してきた。
「これ良かったら持っていておくれ。ドレッシングを作ったんだが、果物感があるのは野郎どもが煩くてね。あんたは好きそうだから」
「はい。ありがとうございます!俺は好きですよ、甘酸っぱいのも。いいですよね」
「ぁー……確かになぁ。俺はあんまり好きじゃねぇわ」
「ほら、こういうことさ。だから遠慮せず持ってっておくれ!」
シッシッ、とテオドールは追いやると、レイヴンにだけ微笑みかける女将に、テオドールも軽い舌打ちで返す。子どものようなテオドールに全く……と呟くと、荷物をワザと全て持たせてしまい、行きますよ?と店の外へと追いやっていく。
「ごちそうさまでした。また来ますね」
「いつでもおいで」
小気味の良い女将に見送られて酒場を後にすると、テオドールがふと思いついたように歩き始める。レイヴンも付いていくが、帰るにしても方向が逆なので疑問のままだ。
「どこ行こうとしてます?だいぶ荷物いっぱいですけど」
「なんだよレイちゃん。レイちゃんが気づかねぇとは疲れてんのか?まぁこの時間だったらそこまで混んでねぇ……いや、まぁまぁ混んでるな」
「え……あ、もしかしてメロウベリーですか?珍しすぎる……」
「いや、レイちゃんが食べたいかなと思ってな。嬉しいだろ?」
テオドールがニィと笑う顔が憎たらしいが、素直に嬉しいのでレイヴンも並ぶことに異論もなく。大人しく最後尾へとついて様子を伺ってみる。
「今日はそこまで列も長くないから、すぐに買えそうだな」
「そうですね。今日のオススメも気になりますし、テオは何にします?」
「俺は別に適当でいいが……前と同じでもいいけどよ。どうせならチョコレートでも齧っておくか?」
「間違ってはいないですけど、甘いものを食べるっていうのと少し違う気が……」
レイヴンが楽しそうに悩んでいるのに対して、テオドールは商品ではなくレイヴンを見て楽しんでいた。真剣に甘いものと向き合っているのを見て、微笑ましさに何でも買い与えたくなる気持ちが分かるような気がした。
「で、どれにするんだ?」
「俺は木苺のシュークリームにしますけど。後はマカロンかな」
「そうか。1つでいいのか?」
「別にいいですよ。持ちきれないですし」
漸く店の中に入ることができると、男性陣に特に人気のペラシェが笑顔で出迎えてくれる。2人はそれぞれに宣言していたものを頼んだが、今日のオススメのゼリーも勧められた。
「ゼリーの中に花が入っていると思うのですけれど、そちらの花も一緒に食べられます。ご自分へのご褒美や、贈り物として大変人気があります」
「そうか。じゃあそれもくれ」
「ありがとうございます。すぐにお包みしますね」
ペラシェは慣れた手付きで箱へ詰めていくと、箱を閉じてクルクルとリボンを巻いていく。可愛らしい赤いリボンが巻かれた箱を、レイヴンが受けとり大事そうに抱えた。
「素敵なティータイムをお過ごしくださいね。ありがとうございました」
「はい。ありがとうございます」
レイヴンが笑顔で返すと、ペラシェもふわりと微笑んで綺麗な礼で客を見送る。待ちわびた次の客を案内しているところとすれ違いで店の外に出た。
「後は取り急ぎはないはずです。そろそろ持ちきれないですし、帰りましょうか」
「そうだなァ。俺もこのままウロウロするのも面倒だからな。一旦帰るか」
流石に荷物も多いので、万が一のことを考えてゆったりと来た時と同じように歩いていく。
その間も嬉しそうにメロウベリーの包みばかり見ているので、テオドールも思いつきだが買ってみてよかったなと思った。
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