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112.いつもの師匠と弟子
珍しく歩いて魔塔へと戻り、階段を上っていく。久しぶりに登る階段は長く、レイヴンも階段を上ること自体は慣れているが、テオドールは両手に荷物を抱えているというのにヒョイヒョイ登っていくので、自分の体力のなさを感じて苦笑する。
「やっぱ飛べば良かったわ。ここの階段長いんだよなぁ。何でこの高さで設計したんだよ初代の魔塔主は。確実にテラスに飛ぶためだろ」
「そもそも魔塔では外敵防止の結界があるから特定の場所以外は魔法が使えないじゃないですか。そもそも飛んで来られるようにしたのテオですよね?」
「まぁな。魔法使いは身体動かせっていう理由だったら魔塔自体を壊したいんだがなぁ」
物騒なことを口走る魔塔主には盛大なため息で返し、何言ってるんですか、と零してそのまま暫くは無言で上る。
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「やっぱ怠ぃからもう2度と階段は使わねぇ。何で無言で上らなきゃいけないんだよ」
「喋りながらだと疲れるからに決まってるでしょう?はぁ……俺も体力もっとつけないとなぁ……」
お互いに荷物は机の上へと置いて並べていく。テオドールも適当にコップを手に取って水を注ぐとまずは一気飲みする。レイヴンも腕を掴んで身体をゆっくりと伸ばすと、軽くほぐしてから買ったものを順に片付けていく。
「なぁ、後でいいだろ?少し休もうぜ」
「後に回したらもっと面倒臭くなるでしょう?折角買ったんですから、仕舞っていかないと……あ、これは後で自分の部屋に持っていこうかな」
自分のために買った食材も分けて小まめに動くレイヴンに近づくと、遮るように後から抱きしめて無理矢理動きを止めさせる。
「ちょ……テオ!何してるんですか。って、もう!顎でグリグリしないでくださいよ!」
「疲れたからレイちゃんで癒やされてるに決まってんだろ?」
「はぁ?片付けの邪魔だから、離れてください!」
「何だよ、つれねぇなぁー」
からかうような口調の中に若干の寂しさを感じ取ったレイヴンは、はぁー……っと本日何回目か分からない溜め息を吐き出してから、抵抗を諦めて腕の中に収まって大人しくする。
「なんだぁ?大人しいじゃねぇか」
「……少しだけですよ?片付けたらお茶にしますから」
「片付けんの好きだよなぁ……まぁいいや。大人しいならもうちょっとこうしてるか」
「本当に、少しだけですからね。テオはキリがないから油断すると危ないんだよ、もう」
呆れたような声に照れ隠しが含まれているのが分かるテオドールは、そりゃあ悪かったな?と笑いながら両腕の力を少し強めて抱き込むと、レイヴンも諦めてテオドールの腕に頭を預けた。
お互いに話さずに静かにしていると室内はしんとして、先程までの騒々しさが消えてしまう。先に焦れたレイヴンがもそもそと腕の中で動いて身体を捻って何とかテオドールを見上げて話しかける。
「テオ、そろそろ本当に離してください?お茶の準備もできませんから」
「仕方ねぇな。そんなこと言って、レイちゃんも本当は寂しいんだろ?」
「……何、言わせようとしてるんですか。言いませんよ?言いませんから」
「ふーん?まぁいいけどな」
ニヤと笑って漸くレイヴンを開放すると、レイヴンは子どもを叱るような顔でテオドールに無言で訴えてから動き始める。テオドールは大して手伝いもせずに、椅子を引いてドカリと腰を落とすと、足を組んで煙草を取り出しいつもの調子で火を付ける。
「……解禁するのが早いです。これからお茶をいれようって言ってるのに。別にいつものことですけど」
「自分の部屋でも吸えなくなったら終わりだろうが。大分我慢してたんだからよ」
「それは……そうですけど」
「ほらほら、レイちゃんは片付けとお茶の準備してくれるんだろ?」
人の悪いテオドールのいつもの調子に、これはいつもじゃなくて良かったんだけどと思いながら。
レイヴンは結局言われる通りに片付けとお茶の準備を進めていく。
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