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113.ゆったりティータイム

煙草の煙を燻らせてご機嫌なテオドールを放って、レイヴンは片付けを済ませると今度はお茶の準備をし始める。テオドールの自室に置いてあるものはレイヴンが元々用意したもので、珈琲を適当に飲んでいるテオドールの側で自分が紅茶を飲むためと、誰か人が来た時におもてなしをするためだ。 「テオは珈琲ですよね?」 「珈琲も飲むが、紅茶も淹れてくれるんだろ?」 「飲むなら淹れますけど……」 薬缶でお湯を沸かすレイヴンは茶葉をポットへと落とし、コーヒーカップとティーカップを並べていく。コーヒーカップは上部に紺のラインが引かれた白地のカップで、ティーカップはブルーの花が1つ大きく描かれた同じく白地のカップだ。 「今日は何の茶葉にしたんだ?」 「アールグレイですけど……何で急に?嫌いそうなのは出してないはずですけど」 「そういやそうか。酸っぱい系はそんなに好きじゃねぇからな」 「そんなこと言ってましたよね。苦いのが好きなんですか?大人で良かったですね」 レイヴンのチクリとした発言にも気にせず鼻で笑うと、テオドールは一旦煙草を灰皿に揉み消して観察する。お茶の準備をするのが好きなレイヴンは楽しそうに動き回り、手際よくお茶の準備を進めていく。その姿を目で追うだけで自然と表情が和らいでいく。 「……ちょっと、そんなに観察しないでくださいよ」 「いや、可愛いレイちゃんが楽しそうなのはイイことだと思ってな」 「微笑ましいーって顔に書いてあるし……恥ずかしいので見ないでください」 「手を出してねぇからいいだろ。どっちかっていうちょっかい出したいところだからな」 この人は……と、チラとテオドールを見てから、レイヴンは何もなかったかのようにお茶を淹れ終えると、珈琲と共にテーブルへと並べていく。名残惜しげに可愛らしく結ばれた赤いリボンをシュルリと取り、先程買った茶菓子も皿に並べていく。 周りの雑多な雰囲気の中に茶菓子とカップが並び、ちょっとしたお茶会のようになった。 「おーおー。何か女子が好きそうな感じになったな」 「メロウベリーのお菓子はみんな可愛いからですよ。テオのごちゃごちゃした部屋でもお菓子があるだけで華やかになる気がしません?」 「まぁ……分からなくもねぇが。そういうところの感覚は女子よりだよなぁ」 「どっちかというと貴族の嗜みなんじゃないんですか?俺は好きだからっていうだけですけど。テオはきちんとした教育を受けているから、本来は優雅に嗜めるんでしょう?」 ポットから紅茶を注ぎ自分の前へと置き、席へと着くとテオドールを意味深に眺めてみる。レイヴンの視線にニヤと人の悪い笑顔を浮かべたテオドールは、カップを取ると口へと運んで見せる。仕草だけ少々変えたのか、表情とは裏腹に手の運び方や仕草はガサツさがなく普段と比べれば丁寧だ。それでも、背もたれに背を預けて足を組んでいる不遜な態度で相殺されてしまっているので、普段と見比べないと分からない少しの変化だ。 「さぁな。今度してみたいならやってやろうか?俺は面倒だからあんまり好きじゃねぇけど。そういうことなら服から入って見たほうが雰囲気でるだろ」 「うわ……俺には確かに分かりますけど。きちっとした服ですか?俺、持ってないですよ。そんな高そうな服。式典や祭事も魔法使いはローブが正式なところがありますし。ローブで通してましたから。その後は参加したことないですし」 「まぁ、俺らは自由にやらせてもらうって話を付けてるからな。俺も家とは関係ねぇし、お貴族様の集まるところには顔出ししなくても別にいいしな」 「まぁ……カチッとしたテオも興味はありますけどね」 楽しげに笑うと、レイヴンは自分の選んだ木苺のシュークリームに手を伸ばす。 一口頬張ると、酸っぱさと甘さが口の中へと広がってやはり自然と微笑んでしまう。 「ホントに好きだよなぁ。可愛いもんだ」 「……折角幸せな気持ちで食べてるんですから、茶々いれないでくださいよ」 「悪ぃな。俺もチョコレート食うか」 テオドールも板状のままで出せと言ったチョコレートを摘み上げて、豪快に齧る。 ほろ苦さが強めのチョコレートと珈琲で甘いものが苦手でも楽しめる大人の味わいだ。 「……何か俺の思っているティータイムとは違いますよね。何でそんなに豪快なのか……」 「別にいいじゃねぇか。これくらいでちょうどイイ。甘いのも食べれなくはねぇが、ケーキとか食うのが面倒で大変なんだよ」 「ケーキが面倒っていう発想が全く分からないんですよね。さっぱりですよ」 レイヴンはシュークリームを食べ終えて紅茶をのんびりと飲んでから、チョコレート味のマカロンを手に取る。こちらはテオドールのチョコレートとは違い程よい甘さだ。 レイヴンもすぐに食べ終えてしまい、次はどうしようかなと目で迷う。 「珈琲は苦いヤツがいいな。酸味も悪くはねぇが、ガツンと来るのがいいんだよな」 「珈琲はミルクたっぷりがいいと思いますけどね。確かに酸っぱいのは俺は飲めないかもしれません。何ででしょうね?不思議です」 「紅茶と一緒で好みだろ。ミルクたっぷりなのは最早珈琲じゃねぇだろアレ。まぁ、甘くしても何でも好きに飲めばいいんじゃねぇの?」 「それもそうですね。ここで論争するのは良くないですし。勧めるのと強制するのは違いますからね」 茶色のマカロンを手に取ったレイヴンが、何味か気づいたのかテオドールを見てそのマカロンを顔に近づける。無言で微笑むレイヴンに何事かと思いながらも素直に口を開けてマカロンとレイヴンの指ごと食べてしまう。 「また、そういうことを……く、擽ったいから、舐めないで……」 「ん……ごちそうさま」 「俺の指じゃなくて、マカロンを食べてくださいよ。好きな味でしょう?」 「あー……確かに同じ味がするわ。なんでもアリなんだなマカロンは」 恥ずかしそうに指を引っ込めたレイヴンに、誘ってきたくせに、と言うと。違います!と少しだけ頬を染めて言い返す。

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