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114.甘いのはお菓子だけじゃなくて

テオドールは珈琲味のマカロンを食べながら、レイヴンが淹れた紅茶の方も飲んでみる。 「合わないかと思ったがそうでもなかったな」 「珈琲は勿論、甘いものは紅茶とは大体相性がいいと思いますよ。中には合わないものもあるので一概には言えないですけど」 「そりゃそうか。でもまぁ口の中に入れば大体一緒だろ」 「こういう人がいるから駄目なんですよね。もっと味わって食べてほしいですけど、まぁテオには無理ですよね」 両肩を竦めて挑発するようなポーズを取るが、テオドールはやはりさして気にした様子もなく、またチョコレートを齧る。 「ホント豪快というかなんというか……でもこういう時間って久しぶりですよね」 「そうだなァ。俺としてはもう暫く休んでいたいんだがな」 「まぁ気持ちは分からないでもないですけどね。俺もなんだか安心してしまって」 「だろ?まぁ、まだ安心できねぇから面倒だけどな」 テオドールの呟きにレイヴンもマカロンを口に運ぶ動きを止めて目線を合わせる。 動きを見ていたテオドールは苦笑して、レイヴンの頭に手を乗せてポンと撫でた。 「いや、今真面目にならなくても別にいいんだけどよ」 「それはそうなんですけど……何か食べづら……んむぅ」 レイヴンが喋りかけていたところに、持っていたマカロンを奪い取って口に押し込んだ。驚いたレイヴンは一旦動きを止めたものの、大人しくマカロンを静かに咀嚼する。 「……いきなり口に突っ込まないでくださいよ。驚くじゃないですか」 「悪かったって。気にすんなよな?今はのんびりしようぜ?落ち着いたら調べに行くからよ」 「調べに……ですか?」 「あぁ。ちょっとな。まぁ役に立つかは分かんねぇけどよ。やられっぱなしは癪だしな」 レイヴンの唇を親指でなぞりニィと笑って見せると、レイヴンも苦笑するがどこか安心したような表情になる。 「調べるって言っても、何かアテがあるってことですか?」 「まぁな。王宮にある図書館に行こうかと思ってよ」 「……すっごい意外すぎます」 「あのなぁ……俺が普段から何もしてねぇと思ってるな?失礼だなぁ、補佐官様」 足を組み直し鼻を鳴らすテオドールにレイヴンも思わず笑って、そんなことは……ない?ある?と、追撃で茶化す。テオドールに頭を掻き混ぜられて抗議するが、それすらも何だか落ち着いてしまい笑顔が零れた。 「あそこならば確かに何か見つかるかもしれませんね。でも許可がいるはずでは……?」 「別に平気だろ。許可とか一度も取ったことねぇし」 「うわぁ……これだから魔塔主様は。やりたい放題ですね」 「いいんだよ。何する訳でもねぇし、ただ本を読むだけじゃねぇか」 テオドールは珈琲のカップをグイと煽り、残っていたチョコレートを全て口の中に豪快に放り込む。レイヴンはついていけないという表情で自分はゆっくりとカップを傾ける。 「何にせよ、動くなら明日からですか?」 「そうだなぁ。今日はもう動きたくねぇな。動くのは夜にとっておこうぜ」 「……寝てください。さっさと寝てください」 「なんだよ、つれねぇな。でも泊まってくだろ?」 テオドールにジッと見つめられるとレイヴンは困ったように分かりやすく視線を逸らす。 逸らした上で、残っていたミルクチョコレート味のマカロンを口に運びながら、小さく口を開く。 「……その、つもりですけど。別に他意はないです」 「そうか?まぁコッチはそのつもりしかねぇけど。どうする?」 テオドールに身体を近づけられると、レイヴンも逃げはしないが平気なフリをしようと仕方なく目線を合わせる。頬に手を添えられてしまい、さらに逃げづらくなると息を逃して少しの間を置く。指先が頬を擽ると擽ったそうに片目を瞑り、あぁもう……と諦めの言葉を溜め息と共に吐き出した。 「一緒にいるからって別に強制じゃないのに……なんでそういう言い方するんですか。断りづらいんです。俺、毒されてる気がする……」 「今度は人を毒扱いかよ。まぁ、否定しないだけ成長だよな。可愛い、可愛い」 「だから、これは嬉しくないです。そんなに適当に可愛いとか言わないでくださいよ」 「別にいいだろ。誰も見てねぇし?」 そう言って触れた唇は、お互いにいつもより甘い気がして。額と額を合わせると楽しげに笑い合った。

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