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115.そんな気分だったので

用意した食器を片付けて、暫くはソファーに座って各々本を読んだり煙草を吸ったりと好きなことをしながら自由に過ごしていた。煙草を吸い終えたテオドールが、ソファーで読書をしていたレイヴンを引き寄せると、そのままレイヴンの背中越しに抱き込んで一緒に本を覗き込む。 「……煙草吸い終わったんですか?もう、相変わらず煙い……」 「何の本読んでるのかと思ったら……どこの作家の本だよ、コレ」 「今、街で流行ってるんですよね。恋愛小説。俺も頂いたんですけど、結構面白いですよ」 「恋愛小説だぁ?興味ねぇな。アレだろ、貴族と平民の身分差がどうのこうのって」 レイヴンはテオドールを無視して読書の続きを読み続けているが、テオドールは暇を持て余すようにレイヴンを抱きしめたままの体勢で、適当に本の中身を覗いてみる。 「ふーん。まぁ悪くないな。俺は読まねぇけど」 「普通の女の子が様々な人と出会って成長しながら恋をするのが、夢があっていいんですよ。まだ続いているので誰と結ばれるのかっていう予想で盛り上がれるし」 「あぁーそういうの好きそうだな。娯楽は人の心を豊かにするって言うからいいんじゃねぇの?」 「テオの娯楽は不健全なのであまりお勧めしませんけど。テオにとっては息抜きになるんでしょうし、絶対にやるなとは言えないですけどね」 レイヴンがチラっとテオドールに目線を向けると、待ってましたと言わんばかりに目元に口付けられる。瞬間に片目を瞑ったレイヴンがそのまま視線を本に戻そうとすると、テオドールが指先で顎を掴んでレイヴンを上向きにさせた。 「……暇なんですか?俺は読書の続きをしたいんですけど」 「手持ち無沙汰なんだよなぁ。このまま寝ちまうのも勿体ねぇし。だからと言って一緒に読書ってのもつまんねぇし。俺のやることと言えばレイちゃんを構うくらいだしな」 「暇になったら俺を構うって……そんなに?」 「なんだよ、俺だけか?」 テオドールの不服そうな物言いにレイヴンは自然と微笑み、仕方なく読んでいた本を閉じてテーブルの上へと置くとテオドールを見つめ返した。視線が合うとテオドールもレイヴンをさらに引き寄せて、横抱きの形に抱き直す。 「何か駄々をこねる子どもみたいですね。こんなに側にいるじゃないですか」 「それはそうなんだけどよ。側にいるなら構いたくなるんだよなぁー……って、俺の方がレイちゃんにやられてるじゃねぇか」 「やられてますね。俺がそれだけ魅力的ってことですか?ギャンブルよりも、お酒よりも、煙草を吸うよりも……俺を、構いたい?」 レイヴンがワザと誘うように声色を変え、ゆっくりと手を伸ばしてテオドールの頬に触れると、テオドールもレイヴンの手に自分の手を重ねて、笑みを深めてレイヴンの耳元へと寄って呟く。 「そうだな。今日は特にそんな気分だ」 掠れた声がレイヴンの耳に響き、唇が耳朶を擽ると、レイヴンも流石に余裕ではいられなくなって慌てて身体を強張らせる。テオドールが頬に添えられたレイヴンの手を取って握り込んでしまい、逃げ道をじわりじわりと塞いでいく。 「……いきなり本気を出さないでください。確かに先に仕掛けましたけど……っ」 「俺を煽ったんだから、覚悟しろよ?なぁ、レイ?」 テオドールは愉しげに笑んで、そのまま舌で耳の形をなぞる。レイヴンが耐えるようにテオドールの服を掴むのを見ると、満足げにそのまま舌先で耳の穴も突く。 水音はさらに耳の奥へと響いて、その気ではなかったレイヴンも引っ張られるように顔に赤みが差してくる。 「み、耳ばっかり……んっ、息吹き込まな……」 「やっぱり構いたくなるよな。反応イイし」 「ちょっと、も、離して……」 このままだと流されると危機を感じたレイヴンが、テオドールから慌てて距離を取ろうとするがしっかりと抱き込まれていてジタバタするだけで抑え込まれてしまう。 「夕飯までまだ時間があるし、いくらでもできそうだなァ」 「え、ま、待って!俺、そこまで許可して……や、駄目だって!テオってば!!」 レイヴンの訴えは唇で塞がれてしまい、力でねじ伏せられていく。頭の片隅では拒否しようと思っても、結局与えられる感触には勝てずに。レイヴンも徐々に力が抜けてしまい、気づけばソファーに寝かされてしまった。 「まぁ、ちょっと狭いができないことはねぇし。ココでいいか」 「……はぁ…も、余計なことをするんじゃ、なかった……」 「煽った責任は取ってもらわねぇとな?」 「責任……責任なの……んん……」 レイヴンの言葉は最後まで紡がれることなく、室内には2人の息遣いと水音だけが残る。 テオドールに力では敵わないレイヴンが自分の行動を後悔したのは、テオドールに何度も何度も、声が掠れるまで鳴かされた後だった――

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