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116.早朝に

レイヴンの体力の都合で普段より遅めの時間の夕食を取った2人は、後は寝るだけの状態でベッドに寝転んでいた。疲労困憊のレイヴンは、枕に突っ伏して絶対に動かないという無言の意思を貫き、テオドールから妙に距離を取ってベッドの端に避難していた。 「もうちょい体力つけねぇと、毎回これじゃ持たないよなぁ」 「……誰のせいですか、誰の……テオがおかしいんですよ。この時だけ、どうして体力が化け物になるんですか……」 「そうかぁ?ま、大したことはしてねぇんだけどな」 「アレで?ホントに?こわー」 テオドールに疑いの眼差しを向けて、ますますベッドの端へと寄っていく。レイヴンの子どものような露骨な態度にククッと笑い、ただレイヴンのことを見つめ返した。 「俺、もう寝ますよ?そんなに見られても今日はもうしませんから」 「分かったって。でもそこで寝るつもりか?落ちるぞ」 「そこまで寝相悪くないから大丈夫です」 そのままウトウトとし始めたレイヴンをテオドールも暫くは距離を取ったまま観察していたが、自分の側にいるのに触れられないことが手持ち無沙汰になり、テオドールの方から寄っていって自分の腕の中に身体ごと転がして抱き込む。 「妙なところで意地を張るの好きだよなぁ。くっついてるの、好きな癖によ」 「だけなら……いい、ですよ?駄目、ホントに眠い……」 レイヴンも抱き寄せられても反抗はせずに静かに眠ってしまい、寝息を立て始める。 テオドールもレイヴンの体温に引き寄せられるように、段々と眠気が襲ってきたかと思うとつられるようにウトウトとしてくる。程なくして、室内は静かな寝息に満たされていった。 +++ 次の日―― 早めに眠ったおかげで体調も戻ったレイヴンは、朝方早めに目が覚めた。テオドールは自分を抱き込んだまま眠っていて、結局一晩中側にいたのだと思うと何をした訳でもないのにとても気恥ずかしくなる。 そっと腕の中から抜け出すと、冷やしていたミルクを温めながら何気なくテラスへと歩み寄っていく。まだ少し肌寒いが、スッキリと晴れ渡った空に気持ちも晴れやかになっていくような気がした。 「何か休みが続くと気が抜けそうだな。何しよう……」 身体を伸ばして陽の光を浴びてから、ゆっくりと火を止めに戻る。温まったミルクをカップへと注いでいき、熱さに気をつけてそっとカップに口付けて一口飲む。 立ったままだと行儀が悪いので、椅子を引いて腰掛けた。カップを一旦テーブルに置いてから、まだ眠っているテオドールの方を眺める。 「眠ってれば静かで……面倒臭くもないのに」 眠っていることをいいことに言いたい放題言うと、いつもやられっぱなしなレイヴンも少し楽になってくる気がした。 のんびりとカップを傾けて、静かな朝の時間を楽しんでいたのだが、それでも一向にテオドールが起きてこない。ミルクも飲み終えたので気になったレイヴンがベッドへと戻ってテオドールの顔を覗き込む。暫くそのまま近くで見ていると、ゆっくりと目を開けたテオドールがレイヴンに微笑を向けたので、その表情を間近で見たレイヴンは固まってしまった。 「おはよう、ございます。テオ」 他人行儀な挨拶に笑うと、テオドールがレイヴンの顔を引き寄せて軽く口付ける。 「ずいぶんと早起きじゃねぇか」 「たまたまだと思いますけど……」 「なんだ、もう起きて欲しいのか?」 「いえ、今日はまだ休みですし。俺もそこまで言いませんよ」 レイヴンが言いかけると、テオドールが腕を引いてベッドへとレイヴンを誘い込む。 体勢を崩したレイヴンを抱き寄せてまた腕の中へと閉じ込めてしまう。 「テオは、寝直しますか?」 「まだ眠いしな。今日はゴロゴロしてればいいだろ」 「俺は読書しようと思ってたんですけど、まだ時間が早いので……」 「そうか。じゃあ、もう少し寝てようぜ」 欠伸をしてまだまだ眠そうなテオドールを見てレイヴンも笑顔で、今度は大人しく腕の中でもう一度微睡み、眠りに落ちていった。

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