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119.扉の奥には

「ちょうどいいところに来たな。禁書を見たかったんだよ。お前なら許可出せるよな?」 「いきなり何を仰っているのか分かりませんが、ご説明頂けますか?補佐官殿」 「不躾な対応で申し訳ありません。現在調査中の件に関して、参考になる魔法書があるかと探していたのですが、魔法についてのより詳しい書があればと思い、禁書を閲覧する許可を頂きたく存じます」 レイヴンが改めて願い出ると、アスシオも瞬時に思案してレイヴンへと向き直る。 テオドールが仕方なく黙っていると、アスシオが小さく頷いた。 「分かりました。魔法に関して我が国では魔塔のお2人に並ぶ者はいませんし、そのお2人がそう仰るのならば。図書館の管理者には私から伝えておきますので、どうぞご覧ください。分かっていらっしゃると思いますが、持ち出しについては許可はできませんので」 「ありがとうございます」 アスシオから正式に許可を取り、禁書が揃う部屋の扉まで3人で歩いてくる。 扉は年季の入った木製の扉だが、結界は厳重に張られていた。 近くまで来ると、薄い赤色が目の前を阻んでいるのを感じる。 「さぁて。勿論、今、結界を外してくれるんだよな」 「私でも外せますが、本来は管理者が外すものであって……」 「すみません、後ほど全ての申請をさせて頂きますので。お願いします」 「……仕方ありませんね。補佐官殿がそう仰るならば」 テオドールを一瞥してから、アスシオは近くの本棚から1冊の本を取り出した。 何の変哲もない本だが、その本を開くと中がくり抜かれており鈍く光る赤い珠が入っていた。アスシオはそれを手に取り、結界へと触れさせる。すると、赤色の結界がサラと消え去った。 「魔道具で消せるのか。そりゃ楽だな」 「ただ、偽物がたくさん紛れていますので、間違えますと音が鳴り響き結界がさらに強固なものになります。禁書は大変貴重であり、一歩間違えれば大変なことになるものもありますから」 「確かに。悪用されることは避けなくてはいけませんからね」 テオドールは遠慮なく扉に手を掛けると、グッと押し開く。 部屋の中は薄暗く、掃除は行き届いているものの奥まった場所でもあるせいか表の図書館よりさらに静寂に包まれ、多少の重苦しさまで感じる。 全員が中へと入ると、結界はまたすぐに作動して扉を覆っていく。 「なかなか良くできてるじゃねぇか。折角頂いた機会ってヤツだから真面目に読ませてもらうとするか」 「……いつも真面目にしていてくださいよ。だから勘違いされるんですよ」 師匠と弟子のやり取りを聞いているかいないのか、アスシオは2人から離れ、扉の近くにあった椅子を引いて腰掛ける。 「私のことはお気になさらず。お時間はそこまで差し上げられませんが」 「いえ、ありがとうございます。アスシオ様のご配慮に感謝致します」 レイヴンは一礼してから、テオドールと共に年季の入った本の並ぶ一角へと入り込む。 外の空間に比べれば閉鎖的で狭さを感じるが、こことて国の禁書が並ぶ一角のため、唯一の出入り口である扉の前から見ても、奥が見えない程度に本棚が並んでいた。 「ま、何かしら収穫はあるだろ」 「そうですね。師匠より先に見つける自信はありますよ」 「言ってくれるな。じゃあ、競争でもするか?」 「なんですか、それ。でも……乗りました。いいですよ」 お互いに顔を見合わせて笑うと、二手に別れて禁書の並ぶ本棚へと立ち向かう。

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