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120.真面目なつもりが
レイヴンも積極的に本を手に取り、斜め読みしながら内容を頭の中へと叩き込んでいく。
貴重な魔法や薬草、魔道具についてなど、自分たちに関係のある本から世界の歴史についてなど、読み始めればキリがない。持ち出せないのならば覚えるしかないため、この場で必死に読み進めていく。
「……相手を呪う方法、か。こういうのを使われると厄介だ。祓うことができるのは聖女様くらいだろうから。うん……昔から合成獣 については研究している集団が……」
レイヴンが独り言も含めて本の内容に没頭していると、本の上に影が差し込んだ。
気になって顔を上げるとニヤリ顔のテオドールと目が合って驚き、反射的に飛び退いた。
「人の顔を見て飛び退くとか、何を驚いてんだ?」
「驚くでしょう!声をかけてくださいよ。それで、テオは何か見つけたんですか?」
「あぁ。ちょっとイイもんも見つけたしな。あの召喚陣については、この本に似たようなのが書いてあったな」
「イイもんって……まぁ、いいです。それより、召喚陣が?」
テオドールが開いた本をレイヴンも覗き込む。すると、2人が発見した召喚陣に似通った図が書かれていた。
「この辺りの文言、で、この形ときた。まぁ、異形の物を連続で呼び出すっていうのはこの形が元なんだろうなァ。ただ、その種類については独自の研究成果ってとこか」
「確かに。古代魔法の一種なのではと思っていましたけど……昔の文献でも手に入れたのでしょうか。それとも、そういった組織と関係が?」
「この基本の形だけは覚えておいて、後は自分で考えたんじゃねぇか?自分の力を見せびらかしたいっていう臭いだけはプンプンさせてたからよ」
「性格悪くてやることが厄介って……最悪じゃないですか」
レイヴンが難しい顔をして考え込んでいると、頭の上にポンと手のひらが乗せられる。
見上げるとテオドールがいつもの自信に満ちた表情を浮かべ、レイヴンを優しく撫でた。
「まぁ、次にしでかしそうなことは何となく予想がついたし。収穫はあったからいいだろ」
「本当はこの本を持ち出して詳しく調べられたらいいんですけど、そういう訳にはいかないですし。何回も入ることができる場所ではありませんからね」
「心配するなって。この本の内容は大体頭に入ったからよ。同じもの作れって言われたらたぶん作れるんじゃねぇか?」
「え……この短時間で記憶したんですか」
レイヴンが驚きに満ちた表情で固まると、テオドールは、まぁな、と言い切り、さらに得意げに口端をあげる。普段は酷い体たらくだというのに、やはり尊敬する師匠なのだとレイヴンは改めて認識させられる。
「まぁ、こういうのは基本は大体同じだからよ。そこから法則を見つけて書き足していけば何とでもなるんだよ。組み合わせとか相性とかはあるが、やる気があれば何年かかったとしてもいつかはできるだろ」
「その法則っていうのが分からないんですよ、普通は。文字の配列1つ見ても、古代文字を訳すところから始めなくちゃいけないじゃないですか」
「でもこの線とこの線が組み合わさったら、こう読む。みたいなのが分かればいいわけだろ?暗記しちまえばいいんだよ」
「簡単に言いますけど、実際はそんなにサラっとできませんからね?俺はこの形とこの形の違いは?と言われても、自信はありませんから」
似たような文字配列を見てもレイヴンには違いを説明できる自信はないのだが、目の前のテオドールは適当な口調ではあるものの、分かりやすく説明してくれる。
珍しくまともな会話をしているので真面目に聞き入っていると、一通り説明したテオドールが愉しげにニィと笑ってレイヴンの耳元に息を吹き込んだ。
「……っ!?」
「耳弱いよなぁ」
「……殴りますよ?」
「おおーこわ。まぁ、そんなに難しい顔しなくても俺が手取り足取り教えてやるよ」
テオドールを思い切り睨んでから、レイヴンは溜め息を盛大に吐き出す。
焦りは怒りに変わったので良かったような、微妙なような。やはりテオドールに1本取られた気がしてしまい、腹が立ったので両手の塞がるテオドールの腕に自分の両手をかけて背伸びする。そのままの勢いでちゅっ、と、頬にキスをすると、テオドールが瞬き1つ返し、素早く本を片手に持ち替えて開いている手でレイヴンを抱き寄せると、問答無用で唇を塞ぐ。
「ん、んむぅー!」
「……ったく、そんなにして欲しけりゃもっとしてやるぞ?」
「…っ、はぁ。べ、別にそういう訳じゃ……」
「また後で可愛がってやるから」
機嫌よくレイヴンの目尻にもキスを落としてから、優しく開放する。レイヴンはほんのりと染まってしまった頬を隠すように顔を背けると、次、行きますよ?と、また本棚へと向き直った。
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