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121.自室で真剣に

2人は集中して本を片っ端から読んでいき気になった内容を共有していたが、今まで石像のように動きも話もしていなかったアスシオが2人の側へといつの間にか歩み寄っていた。 「そろそろお時間ですので。お二方には申し訳ありませんが、本日はこの辺りで切り上げて頂けますか?」 「お前、気配消して近づいてくるんじゃねぇよ。しゃあねぇな……了解」 「貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。師匠、行きましょう」 表情も何も変えないアスシオに大してレイヴンだけが一礼して、その背に続く。 テオドールもその後にだらだらと歩いて続き、来た時と同じように結界を外し元いた図書館へと戻る。スーッと赤の結界が作動したのを目視で確認すると、アスシオが魔道具を素早く戻す。 「では私はこれで。くれぐれも妙な気は起こさぬよう」 「なんで俺を見るんだよ。いちいち煩ぇな。分かってるからさっさと行けよ」 「言い方!……申し訳ありません。アスシオ様、ありがとうございました」 最後にテオドールを一瞥し、アスシオはレイヴンにだけ一礼するとクルと背を向けて去っていった。その背が見えなくなった途端にテオドールはレイヴンの背中側から腕を回して抱きしめて、レイヴンの肩に頭を乗せる。 「何か頭使ったら疲れたな。一段落したら休憩しようぜ。まずは部屋に戻るか」 「俺も目は疲れた気はしますけど……って、重いです。戻るのには賛成ですけど」 「だよな。大体見たいものは見たし、今日のところはいいだろ。一旦引き上げだ」 「そうですね、そうしましょうか。って、ここでアレ使ったらダメですよ」 レイヴンが首を上げて念押しすると、分かったよ、と不満そうな声を頭上から降らせる。 テオドールも諦めてレイヴンを開放すると、だらだらと歩き始めた。 +++ 魔塔にいる魔法使いたちの様子を見て、テオドールとレイヴンで細かな指示をした後にテオドールの自室へと戻ってくる。レイヴンが飲み物を準備している間にテオドールが机に向かい、珍しく真面目に本の白紙のページに自分の見たものを書き写していく作業を続けていく。 「どうぞ。テオが真面目すぎてちょっと驚いてます」 「なんだ?惚れ直したか?」 「口を閉じていれば、ですけど。元々研究がお好きだからとは思っていましたけど、探究心は力になるんですね」 「そんな小難しいことは考えてねぇけど、自分の知らないことを吸収するのは嫌いじゃねぇな」 レイヴンが置いたカップを手に取り、鼻孔を擽る香ばしさが漂う珈琲を一口飲む。 「俺はこちらにいますので、何かあれば声をかけてください」 「あぁ、分かった」 短いやり取りをすると、レイヴンも違うことを調べようとテオドールの自室にある資料や本を何冊も抱えてテーブルの上へと広げていく。 +++ テオドールは集中してある程度書き出してしまうと、珈琲を一気に煽り腕を引いて上へと伸ばす。首だけ動かしてレイヴンの様子を伺うと先程まで作業していた気配だったが、ソファーにもたれ掛かりどうやら眠っているようだった。椅子から立ち上がると様子を見にソファーへと歩み寄る。 「レイ?」 話しかけてみるがやはり反応はなく、レイヴンは静かな寝息を立てている。 テーブルには様々な本や資料が広げられており、レイヴンも何かしら書き写していたようだがテオドールの部屋にある書物の中でも分厚いものを読み進めているうちに、睡魔に襲われてしまったようだ。 「俺が静かにしてると寝るのか?まぁ、ここ何日か特に可愛がってるし、しょうがねぇな」 テオドールは1人笑うとレイヴンを起こさないように抱き上げて、静かにベッドへと寝かせる。見ているとどうしても触れたくなるので一度だけ撫でると、踵を返して作業の続きをするために机へと戻った。

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