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126.酔っ払いの戯言

いつもより強めの酒だとは言っていたが、それにしてもテオドールがいつも以上に厄介な状態になってるのは間違いなかった。危ないと判断したレイヴンが酒の瓶とグラスを取り上げようとすると、自分の方へと引き寄せて両腕囲ってしまった。 「もう、やめておいた方がいいですよ?いつも以上に酔ってるじゃないですか」 「ぁー?んだよ、ケチくせぇな。別にいいだろ。レイちゃんの前で羽目外すくらい許されるんじゃね?」 「1番許されないって分かるでしょう?まぁ、迎えに行くのもかなり面倒なのでいいですけど……」 テオドールはレイヴンが作り上げた氷を全て使って酒をあおると、机に突っ伏してレイヴンをニヤニヤしながら全身舐め回すように見始めた。 「……それ、他の人にやったら捕まるヤツです。そんな気持ち悪い感じで見られても全く嬉しくないのでやめてください 「いや、なんか最近身体つきも色っぽくなったんじゃね?俺が育てたおかげだよなァ?」 「発言がどんどん変質者に近づいていってるの気づいてます?はぁ……ほら、本当にもうおしまいにしてください」 「レイちゃんったら意地悪ー」 レイヴンは眉をヒクヒクと引きつらせながら、全て奪ってやろうとテオドールが囲っている辺りに手を伸ばす。手を伸ばすと今度はレイヴンの手が取られて、椅子から落とされるようにフラリと体勢を崩す。テオドールは力でレイヴンをさらに引き寄せると、自分の前に座らせる。 「何をしてるんですか!……テオ?」 「なんだ?やっぱ間近で見るのが1番いいな。なぁ、レイ」 「良かったですね?俺の顔を間近で見られて。分かりましたから、もう片付けしま……」 レイヴンが適当に受け流そうとしたところで、レイヴンの頬に手が添えられる。スリスリと手のひらで擦るので、レイヴンは擽ったさから逃れようとする。 「なぁ、もっと俺だけを見ろよ」 「きゅ、急に何を言い出してるんですか」 「まだ足りないんだよなぁ。俺はこんなに素直なのによ」 「酔っ払うとそういうこと言うんでしょう?分かりましたから、離してくださ……」 レイヴンがテオドールの手を退かそうと自分の手を重ねると、テオドールが少し赤い顔で嬉しそうに微笑んだ。その微笑みが酔っているせいだと思っても、ほんのりと色づいた顔が笑むのは色気もあって、何だか目が離せなくなってしまったレイヴンは思わず固まってしまう。 「ぁー……そんな感じだな。いいぜ、その顔」 「なんか妙に気恥ずかしくなるので、やめてください」 「すげぇイイ気分だな。大人しくしてるからよ、レイからキスしてくれよ」 「……近づくと酔いそうなんで、唇は嫌です」 キッパリと言い放つが、このままだと開放されずにずっとこの体勢なのも辛いので、溜め息を吐いてから、顔を近づけて頬にキスをする。自分の言う通りに一応は行動したレイヴンに気を良くしたテオドールは、優しくレイヴンを開放すると大あくびをしてそのまま本格的に机に突っ伏してしまった。程なくして寝息が聞こえてくる。 「ぁー……これは暫く起きないヤツだ。はぁ……」 レイヴンはゆっくりと立ち上がると、眠っているテオドールをそのままにグラスの後片付けをしようとその場を離れた。

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