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127.想うことはそれぞれ

暫くは事件もなかったが、テオドールは時折部屋に籠もって何かをすることが増えていた。元々籠もって作業すること自体は好きらしく、今までもそういうことはあったのだがレイヴンには内緒だの一点張りで何をしているのか明かしてくれなかった。 「……どう思いますか?」 『どうとは?』 「いや、こそこそ隠れてするなんて。これだけ聞いたら浮気を疑っているみたいですよね」 『それはないと思うが。レイヴンも疑っていないのだろう?』 レイヴンは自室でセルリアンブルーの魔石のあしらわれた小さな1枚葉の耳飾りを身に着けて、クレインと会話していた。何かあると時折連絡はしていたのだが、今日はテオドールの動向についてなのでクレインも苦笑して話を聞いていた。 「まぁ、魔塔に籠もっているということは外部の者が入る隙がありませんから。でも、何をしているんだろうなって気になって」 『レイヴンにとって悪いことでないのは確かだな。テオドールは変わっていてもお前のことを大切に思っているということは私も良く分かるからな。少々複雑な思いもあるが……』 「テオと一緒にいる時間が長いので……でも、お父さんは俺にとって特別ですから。その、家族なんですし。別格です」 『……ありがとう。こうして話しているだけで嬉しいよ。また何かあれば教えてくれ。どんな些細なことでも、レイヴンのことをたくさん知りたいしな』 「はい、また連絡しますねお父さん。お話を聞いてくれてありがとう」 レイヴンが目を閉じると繋がりが解けて会話が終了になった。また大切に薄緑色の葉の装飾が施された小さな小箱へと耳飾りを戻す。 「テオ……別に心配している訳じゃないけど、秘密にされると気になるんだよな」 レイヴンは椅子に深く寄りかかると、上の階で今も籠もっているテオドールのことを思って部屋を見上げた。 +++ 一方、テオドールはレイヴンには内緒で新魔法を組み上げることに没頭していた。 自分の実力は自負しているが、この歳になれば伸びしろは自分で無理矢理にでも作り上げるしかない。若いレイヴンならばがむしゃらにでも伸びていくだろうが、大切な者を守るためには自分自身で努力し続けるしか道がないと思っているからだ。 「別に好きだからいいんだけどよ。なんか格好悪くて口にはしたくねぇよな」 苦笑しながら、数冊の本と自分の書き留めた物を見比べ、頭の中で綿密な計算を組み上げていく。この工程が面倒でもあり、1番楽しいところでもある。今ある魔法を組み合わせ、解いて、また結びつけていく。そうすることによって変わった組み合わせが生み出されていき、それが新しい魔法へと開花していく。 「アイツ……まだどっかで生きてっかなぁ……」 珍しく昔を思い出す自分に苦笑いも深まり、手を伸ばして煙草を手に取り1本咥えるとサッと火を付けて煙を燻らせる。肺に染み渡る慣れた味に目元を緩めて、フゥと吐き出した。 テオドールに魔法の才能があることを見つけ出し、修行をつけた後に自分を魔塔へ推薦した人物がいたのだが、その人は自分にとっての師匠であり、旅の魔法使いであり、大魔道士と呼ばれている人物だった。その域に達する日も近いとは思っているが、まだ、少し足りないとも思う。 「俺の勘が正しければ、目立ちたがり野郎がそろそろ仕掛けてくるはずだ。その時までにはコイツを完成させておかねぇとな」 灰皿に煙草を押し付けると、開いた本に難しい文字を書き連ねていく。その本はいつか弟子に残すための物だと言うことも、勿論内緒だ。

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