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128.森の中にあったのは
今朝方に近くの森で魔物に襲われたという被害届が出たとのことで、騎士団が調査のために派遣された。
「副団長、町民が言っていた場所はこの辺りです」
「分かった。十分警戒し調査に当たる。今のところ魔物の気配はしていないが、いつどこから現れるか分からない。気を抜くな」
普段とは違い緊張した面持ちで任務に当たるウルガーだったが、部下の騎士たちが散開すると面倒そうに首筋を手でさすり、そっと力を抜く。
「ここまで近づいてきたのだとしたら、随分見せつけてくれるよな。俺らのことおちょくってんのかな。だとしたら、相手が悪いからやめたほうがいいぞー」
誰に聞かせる訳でもなく森の中で独り言を呟きながら付近を捜索していると、足元に違和感を感じて瞬時に飛び退いた。
「あっぶな!……これって、例の……だとしたら、このままじゃマズい」
ウルガーは自分の足元に分かるように魔道具を置いて目印とし、一度合流地点へと戻る。
他の騎士たちからは魔物と思われる足跡についての報告があったが、ウルガーは険しい表情で一旦帰還する、と告げた。
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「何、魔法陣?」
「はい。俺では種類は判別できませんが、テオドール様に見てもらい破壊して頂く類のものだと判断したので」
「召喚陣というヤツか。急ぎテオドールと陛下に使いを出さなくてはな」
「アレをすぐに破壊できる方と言えばテオドール様くらいですからね。魔物は姿を消したようですが、俺たちも出撃準備だけはしておきましょう」
ウルガーはディートリッヒへの報告のために早々に城に引き上げてきた。
ディートリッヒの執務室へと訪れると、神妙な顔つきで報告をする。
すぐさま、事の次第を陛下へと伝えにいくと、すぐに検討し使いを出すとのことだった。
ディートリッヒの執務室でウルガーと共に待っていると、思っていたよりも早く使いがやってくる。
すぐに魔塔へも話が行き、魔塔主自らが魔法陣の確認へと向かうことになったと返事がきた。
事の重大さに関して瞬時に対応できる能力を持つウルガーは、ディートリッヒが右腕として信頼している理由の1つだ。
自身で出来ないことは深入りはせず、別の方法をその場で捻り出す発想力は頭の固いディートリッヒには持ち得ない力だ。
小賢しいなどという者もいるが、ディートリッヒさえこき使う図々しさこそウルガーの良いところでもあった。
「……団長、ニヤニヤしてどうしたんですか。気持ち悪いですよ?」
「いや、何でもない。お前らしいなと思ってな」
「そうですか? しかし、城の近くまで出張ってくるなんて……何を考えているんだか」
「何にせよ、最近テオドールも真面目に何かをしていたみたいだからな。俺たちも負ける訳にはいかないだろう」
妙なやる気を出しているディートリッヒを見ながら、またひと悶着ありそうな嫌な予感がするのをウルガーはひしひしと感じて溜め息と共に額を押さえた。
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事の次第を自室で伝え聞いたテオドールは手にしていた道具を机に置くと、使いと共に小部屋へと来ていたレイヴンへと視線を向けた。
使いは報告を済ませるとそのまま踵を返して立ち去っていく。
「何だ動きが早ぇな。もうちょい色々仕込みたかったところだが、性懲りもなくこの国の近くでおっ始めるとはな。コレに関しちゃサボる訳にいかねぇし」
「テオが……とても普通なことを言っていて驚きです。魔塔主としてご指示を頂きたいのですが、補佐官の俺はこの場で待機しますか?それともお供しますか?」
「失礼なことが聞こえたが、まぁいいか。そうだな……どっちかっつーとヤツらは俺たちに会いたそうだしな。この国をというよりも、実験成果を見たいっつーところだろ」
「確かにそういうことを考えていそうな雰囲気はしていましたけどね。それで、どうします?」
レイヴンが答えを促すようにもう一度尋ねると、テオドールがレイヴンの腕を引いて自身の胸元へと埋めさせた。
もそもそと困惑して動くレイヴンを抑え込んで、苦しくならない程度に力を込めて暫くはそのまま抱きしめる。
「だったら残っても意味ねぇし、俺のやる気のためについてこい」
「……言ってることもどうかと思いますけど、今、なんで抱きしめられたのか分からないのですが」
「先にやる気の補填をしたに決まってんだろ」
「なんですか、それ……」
呆れた声の中に照れたものが隠れているのが分かると、テオドールはレイヴンをひと撫でして開放する。
念のための薬瓶を準備しベルトに差し込むと、慣れた手付きで装着していく。
レイヴンも同じく、ベルトを装着するとローブを纏って外出準備を整える。
「まぁ、召喚陣だろうけどよ。今回は壊すだけじゃ物足りねぇから仕込みも入れる」
「仕込み……ですか。何か分かりませんが、俺たちに危険が迫らないことであれば」
顔を見合わせてお互いに確認をすると、面倒臭がるテオドールに合わせてレイヴンも一緒にテラスへと出る。
テオドールに掴まると、テオドールが呪文を唱えて移動 を発動させた。
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