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129.再びの魔法陣
城下町の出入り口でウルガーと騎士2名と合流したテオドールとレイヴンは、ウルガーの案内で魔法陣があったという森の中を進んでいく。森は不気味なほどに静まり返っている。
先頭に立つウルガーが立ち止まると目を細めたテオドールが口を開く。
「ここで間違いないか?」
「道も覚えましたし、魔道具も反応してますから。ほらー、あそこ。光ってるじゃないですか。間違いないですよ」
「そんなに疑わなくてもいいのに……っていうか、もう近くにあるのが分かってるくせにウルガーを試すような言い方してますよね。俺でも異様な魔力 を感じてますから」
騎士たちを辺りの警戒をするために少々離れた位置に立たせ、ウルガーはより魔法陣自体を見やすくするために高く伸びている雑草を剣で一閃して薙ぎ払う。視界がより良好になると以前見かけたような、黒い血のようなもので書かれた不気味な魔法陣があった。大きさは以前のものより大きいようにレイヴンは感じたのだが、テオドールも舌打ちをしてその場にしゃがみ込む。
「コイツも召喚陣だが、永続的に出現させるものではなく大物を離れた地に飛ばすように細工されてんなぁ。ここに書かれている文字は俺の使う移動 の原理に似てる。これを書いてるヤツは魔法の心得があるのか、文献を理解してんのか……何にしてもふざけたヤツだな」
「まさか、戦争でも始めようってんじゃないでしょうね?」
「持てる戦力を誇示しているって?エルフも目じゃないって証明したとでも言いたいのでしょうか……」
3人が少しの間沈黙していると、静寂が突如打ち破られる。警戒していた騎士のいる方角で唸り声と耳障りな金属音が響いた。その音に真っ先に反応したウルガーが素早く身体を翻し、音の元へと急行する。
「副団長っ!」
「コイツが目撃されたヤツってか?今度は熊さんかよ!」
大人よりも一回り大きな黒い熊が騎士を潰そうと吠えながら腕を振り下ろしたようだった。
熊に襲われた騎士は鋭い爪を剣で防いだが、力が強いせいで足が地へとめり込んで動けない。
もう一人の騎士は、どう攻撃したものかと攻めあぐねて様子見しているのが分かる。
一旦下がらせて、別の場所から魔物が現れた時にも対処できるように距離を取らせた。
ウルガーが話しながら一気に距離を詰めて、熊の目に向かって斬りかかる。
「ガァァッッッ!!」
熊は騎士に振り下ろそうとした腕をウルガーへと切り替えて、虫でも払うかのように腕を横薙ぎに振るう。瞬時に防御態勢に切り替えて剣を構えたウルガーが刃部分を手のひらで支えて、何とか風圧と腕をいなして一旦後方へと飛び退いた。剣で切り裂いた風圧が嫌な音を立てて辺りの木々に傷を付け、雑草を吹き飛ばしていく。
「あっぶな!コイツ、知能が高いのか?」
「ウルガー!アレは……ジャイアントベア?」
後からレイヴンが駆けつけて、ウルガーと側にいる騎士に強化 、防御 を連続詠唱で順次かけていく。詠唱の速さはテオドールにも勝るとも劣らず、騎士たちの周りは暖かな光に包まれた。
「テオドール様は?」
「先にあの魔法陣を何とかするって。今回仕込みをするって言ってたから、何か細工をするつもりなのかもしれない」
「壊すだけじゃなくて利用するつもりなのか。じゃあ、コイツはとりあえず静かにさせる目標でいいか。倒さなくても」
「倒せるのなら倒した方がいいと思うけど……」
騎士も爪を弾き返すと、一旦下がって熊との間合いをとる。涎を垂らして狙いを定めようとしている熊の様子を見ながら、一瞬の隙でウルガーが目配せすると、レイヴンが頷いて次の詠唱を始める。
「……氷の棘 」
レイヴンが熊を指差すように指先を熊へと差し向けると、無数の氷の棘が熊に向かって飛んでいく。熊は無数の棘に反応して腕を振り回す。威力は低いが目眩ましとしては効果がある魔法であり、怯んだ一瞬を見逃さないウルガーが先程切りそこねた目を狙った攻撃を仕掛け、思い切り剣を振り横に薙ぎ払い熊の顔に傷を負わせることに成功する。
「グゥゥゥガァァーーーッッ」
怒り狂う熊は両手を振り回しているが、ウルガーの攻撃で目が潰れ狙いが定まらなくなっている。やたらめったら腕を振り回して辺りの木にぶつかっては吠え狂う。
「団長、第2撃はどうしますか?」
「テオドール様のお考えもあるからな。どうするか……」
熊から適度な距離を取りながら、飛んでくる攻撃をいなしているウルガーだったが追撃を加えるか否かでレイヴンに視線を投げる。
「……っ!ウルガー、こっちへ!」
何かを感じ取ったレイヴンが呼びかけると、ウルガーも騎士に下がる指示を出して2人とも暴れる熊を置いてレイヴンの元まで戻ってくる。ウルガーが構えは解かずにレイヴンの横で声だけ発して問う。
「どうした?」
「魔力 の流れが変わった!師匠が仕込みを終えたはず!」
レイヴンが伝えるのと同時に暴れていた熊が黒い光に覆われていき、その光が全身を包み込むと唸り声だけを残してその姿は掻き消えてしまった。
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